第三話-1 彗星の剣士

 あれから20分位歩いただろうか……。


「遠くないか……?」


「街の近くだったら、不安なので……」


――まぁ、女の子だしな。てか、そこに配慮がいくなら、安易に誘うのも避けれただろ……。


「そろそろ着きますよ!」


「やっとか……」


流石に20分歩きっぱなしは疲れる。


 その2分後、アリスのテントに着いた。


「ホントにテントじゃん」


「え? そうですけど何か?」


「風呂とかどーしてんの? 俺も困るんだが……」


――流石に、風呂に入れないとかは鬼畜だからな……。


「あぁ、お風呂なら、街にありますよ」


「街にって……風呂の為だけに、また20分位歩くのか……?」


「当たり前です。じゃないと入れないじゃないですか」


――何か、可哀想……。


「と、いうのは嘘で、ワープ魔法使ってます」


――前言撤回。全然可哀想じゃない。


「それ、俺にも使えるのか?」


「えぇ、勿論使えますよ」


――良かった〜。俺だけ20分歩くのは辛いからな〜。


「そういえば、アリスの固有スキルって何なんだ?」


「あぁ、言って無かったですね。私の固有スキルは『混合魔法の使い手』ですよ」


――混合魔法って……何か貰った本で見たような……?


「具体的にどういったスキル何だ?」


「通常、混合魔法は、決まった魔法の組み合わせのみで放てる魔法なんですが、私のスキルはその条件を破棄できます。つまり、どんな魔法の組み合わせでも、混合魔法を放てるスキルですね」


「それは凄いな」


「ですが、混合魔法は、組み合わせが複雑になればなるほど、消費する魔力が膨大な量になりますので……今の私の魔力では、1日に2発が限界ですね」


「2発も撃てるのか?!」


「2発しかです。私は、まだまだ未熟者ですし」


「因みに俺は魔法が撃てないくらい、魔力がないから、羨ましいよ」


「魔法が撃てないくらい魔力が低いって……どんだけ低いんですか?!」


「こんな感じ」


そう言って、俺はステータスを見せた。


~魔力量 2~


「初めて見ました。こんな可哀想な数字」


「俺も同じことを思ったよ」


「2って……相当ですよ」


「え? そうなの? 具体的にどのくらいヤバい?」


「正直に言えば、笑いものになっても可笑しくないです」


「え……それめっちゃカスじゃん」


魔法撃てないのって……夢が無いなぁ。


「あ、そろそろお風呂に入りたいです」


「唐突だな……まぁ、俺も入りたかったからな……」


「じゃあ」


と言って地面に杖を翳す。


そこには円が出来ていた。


 次の瞬間、俺は風呂屋の受付にいた。


「もう着いたのか?」


「えぇ、着きましたよ」


「早くない?」


「そりゃー、ワープ魔法使ってますからね」


「そーだったな……因みに、ワープ魔法の消費魔力量っていくらだ?」


「10ですね。貴方5人分です」


「俺じゃ無理じゃん」


「ま、まぁ、落ち込まないでください。貴方はその代わり、貴重な神聖色の持ち主なんですから」


「あ、あぁ……って何で俺が神聖色だって分かったんだ?」


「パーティーメンバーになる際に、一通り貴方のステータスを拝見しましたから」


「だからか」


「はい……あっ、受付しないと」


と言って、アリスは受付に向かって行った。俺もそれを追った。


 受付終了! これから転生後の、初お風呂です! 因みに、この風呂屋は、冒険者は割引されるみたいで、俺分の料金も◎が払ってくれた。


「あ、覗きとかしたら、ぶっ殺しますよ」


「しないから! あと、笑顔で『ぶっ殺す』は怖いから止めて」


「いやー、1回されたことがありまして……勢い余って、つい」


――この娘……怖いんだが……。『つい』で人を殺るなよ……。


「大丈夫! 俺はそんな奴じゃねぇよ」


――覗きとか……した奴をぶっ飛ばしたことしかねぇ。


 ~風呂~


 ――何か……今日は疲れたな……。


すると、突然声を掛けられた。


「お! あん時の兄ちゃんじゃあねぇか!」


「ん? あぁ! 今朝のおじさん!」


「よっ! 仲間はできたかい?」


「はい! 無事1人目を獲得しました!」


「獲得って……まぁ、いいや。俺ぁ、結構この街にいるからな。大体の奴は分かる。誰を仲間にしたんだ?」


「名前はアリス・アストライアって言ってましたよ」


「……」


「おじさん?」


「おめぇすげぇじゃねーか!」


「何がですか?」


「アリス・アストライアって言ったら、仲間を作りたがらないことで有名な、魔法使いだぞ? どーやってあの娘を仲間にしたんだ?」


「それが……よく分からないんですよね……。何か幼馴染の話をしたら、仲間になってくれました」


「幼馴染か……」


「おじさん?」


「いや、何でもねぇ! 大切にしろよ!」


「勿論です」


「うん。良い目だ」


「あのー」


「ん? どうした?」


「他に誰か、仲間が居ない冒険者っていますかね?」


「あんたみたいな、新規冒険者を覗いたら……コメット・マックノートくらいじゃねぇか?」


「コメット・マックノート? 誰ですか? その人?」


「あれ? 兄ちゃん聞いた事ねぇのか? コメット・マックノートっていったら、彗星の剣士だよ」


「聞いた事ないですね」


「まぁ、新規冒険者なら無理もねぇか。奴は凄腕の剣士だ。ただ、仲間を作りたがらねぇ。仲間にするのはアリス・アストライアより難しいと思うぞ」


「成程。そーゆーの燃えてきますね! コメットさんを仲間にしてみせます!」


「お! 言ったな? 絶対に仲間にしろよ? したら祝ってやるからよ」


「楽しみにしていて下さい!」


「おう!」


 そうして、それからは他愛のない話をして、2人で風呂を出た。


「護さん、遅いですよ……って、その人は?」


「あぁ、この人は、この街で俺に初めて声を掛けてくれた人だよ」


「アンタらホントに仲間だったのか! すげぇな兄ちゃん」


「もしかして、半信半疑でした?」


「当たり前じゃねぇか。新米が仲間作らない奴と仲間になれたなんて、誰が信じるんだよ」


「確かに」


「だろ?」


チラッとアリスの方を見てみると、何の話か分かっていないみたいで、オロオロしていた。


「……おっと、もうこんな時間か……。店開けてるから、もう俺は戻ることにするわ! じゃあな兄ちゃん!」


「はい!」


 おじさんが見えなくなってから、アリスが俺に話しかける。


「じゃあ、私達も戻りますか」


そう言って、また、ワープ魔法を使った。


――このワープ魔法便利だな。


 テントに戻った俺は、アリスに風呂屋でおじさんに聞いた、コメットについて聞いてみることにした。


「なぁ、アリス。コメット・マックノートってどんな奴なんだ?」


「コメットさんですか? ――そうですね〜、一言で言えば、才能のある剣士ですね」


「てことは、強いのか?」


「はい、とても。初心者が集まる、この街での剣士最強はコメットさんですね。それも圧倒的に」


「でも、なんでそんな奴がまだこの街に居るんだ?」


「コメットさんは、つい二ヶ月前に冒険者になったばかりですからね」


「最近だな」


「まぁ、そうですね。私も同じくらいに冒険者になりましたし」


「えっ! そうだったの?!」


「はい。一応、コメットさんとは同期みたいな感じですよ。まぁ、勝手に思っているだけですが……それにしても、何故急にあの娘の話を?」


「スカウトするつもりだからだけど」


アリスの表情が少し暗くなった。


「余りおすすめはしませんね」


「どうしてだ?」


「あの人、ホントに仲間を作りたがらないんですよ」


「でも、スカウトしてみたいんだ」


「……何故そこまで、コメットさんにこだわるんですか?」


「なんとなくだ」


「根拠ゼロですね。それ」


「どうしても、スカウトしたいから、手伝ってくれないか?」


「また、突然ですね……」


「頼む! アリスだけしか頼れねぇんだ!」


すると、アリスは1つため息をついた後に言った。


「仕方ないですね。どうなっても知りませんよ」


――やった! これは心強いぞ!


「ありがとう! よーし、それじゃ、明日に備えて俺は寝るよ!」


「もう私も寝ます。少し待って下さい。布団を……」


と言って、アリスが布団を出した。


「予備の物になりますが、使って下さい」


「良いのか?」


「悪いのに出す訳無いでしょう」


「じゃあ、ありがたく使わせて貰うよ」


「そうして下さい」


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみなさい」


そう言って、俺は布団に入った。


――1日目なのに、沢山の事があったな……。


月の光で、テントが照らされ、少し明るかった。


俺は今日起きた事を思い返す。昨日、蓮華と別れたなんて、信じられない位、沢山の事があった。これから、異世界での生活が、本格的に始まる。ふと横を見ると、新しい仲間が寝ていた……が、


「いや、似すぎだろ」


緊張するから、夜は横を見ないようにした。


 そして、そのまま、俺は夢の世界に移るのだった――。

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