そして朝がくる
ハッと目を見開き、真っ先に枕元のスマートフォンの画面を確認した。
確かに日付は変わっており、現在午前七時四十五分。
後頭部をかくとモサモサした感触に触れ、ろくに髪の手入れをせず寝てしまった事に気づく。よく見れば、寝巻きではなく部屋着のままだ。
首を横に振り、恐る恐るテーブルの上へ視線を向ける。
案の定その上にあるのは、猫用おやつ、缶コーラ、綺麗な鉛筆。そして、土が抉れた空の植木鉢。
「うああ、やっぱり、あるし……」
こう実物が残っていては……。もうなんでも良いや。
ため息を吐いてベッドから出た。明るい光が漏れるベランダのある窓際まで歩いて行き、薄桃色のカーテンを開く。
ブロック塀に阻まれて景色までは見えないが、すぐ近くを通る生活道路から、様々な音が聞こえてきた。
車の走る音、自転車のベル、楽しげな子どものはしゃぎ声。
明日という日を無事に迎えられれば救世主。
イケサボの言葉が頭を過ぎる。
……まあ、こんな自分を悲観した事は一度もないんだけど。
「日頃の不幸が少しは『報われた』ってことにしておきますか」
その時タイミングよく、手に持ったスマホが短く震える。画面に表示されたのは、メッセージが届いた事を告げる通知だ。
確認すると良く遊びに行く「あっちゃん」からだ。画像も添付されている。
『起きてる? この前サボテン買いたいって言ってたじゃん? その後どう? 私もお店でサボテン見つけて、欲しくなっちゃってさー。どう、可愛いでしょ?』
「——うげっ」
添付画像は自撮りでポーズを決める友人と、その手に乗ったサボテンの写真だった。
白い無数のトゲとコロンと丸いフォルム。
昨日購入したものと全く同じ品種に見える。
『話しかけると良く育つんだっけ? ちょっと濃いめの恋愛相談とかしちゃったりして(笑)』
イケメンサボテンの話を信じれば、これはもう終わった事だ。
それに同じ品種だからと言って、そうとは限らない。そうなのだが、そう思いたいが。
気がつけば私は、友人にこんなメッセージを送っていた。
『くれぐれも話の内容は選んで。人類を滅ぼしたくなければ』
数分後に『は?』とだけ返信がきたメッセージを見て、そりゃそうだろうなと思った私であった。
サボテンは話しかけるとよく育つと言うので 寺音 @j-s-0730
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