???!?
「何だかもう。どうすんの、これ」
お酒による幻覚説を信じたい。が、手には確かに一本の鉛筆を握っている。
これ以上深く考えてはいけない。今までの常識がひっくり返る。こう、寝て起きたら全部なかったことになっているはず。
もう布団に入ってしまおう。
私はサンダルを脱いで部屋へと戻って行った。
「ん?」
ところがそこで見慣れたはずの室内に、違和感を感じる。私は視線をゆっくり上げた。
全てのパーツが完璧な配置に収まった顔面。小さい頭と長い手足。画面越しでしかお目にかかれない、ハリウッド俳優も真っ青な美男子と目が合った。
普通に考えれば不法侵入で通報案件だ。
しかし、その美男子の髪は既視感のある緑色をしていて、所々白のメッシュが入っている。さらにアレが生えていたはずの小さな植木鉢の上に乗っていたとすれば、どう結論づけるべきか。
ついでにタキシードの様な服装の胸元には、黄色い花が咲いている。
『驚かせてしまいましたね』
「そりゃそうでしょうよ」
重力無視のイケメンは、器用に植木鉢の上で片膝をついて一礼した。
『貴女に育てていただいたサボテンです』
「やっぱりそういう展開だったー!?」
女子大生の愚痴を聞かせたら、イケメンに成長するサボテンって何!?
だから胸元に黄色い花があったのか。成長したら黄色い花が咲く品種だものね。
『とは言え、私はただのサボテンではございません』
まあそうだよね。ただのサボテンがこの仕様だったら、恐いわ。
私が頷いていると、自称サボテンは更なる爆弾発言を放ってきた。
『私——いいえ、我々は別の星から地球人を滅ぼしにきた、所謂宇宙人なのです』
人って驚きすぎると、何もリアクションできなくなるらしい。固まる私の目の前で、自称宇宙人でイケサボの話は続く。
難しいことを色々と言っていたが、要するに美しい地球の環境を破壊し他の種を滅亡に追いやる地球人の所業が、宇宙人たちの間で問題視されたらしい。
『そこで我々は地球へ降り立ち、我々固有の能力を使ってサボテンという植物に変化。地球人を調査することにしたのです』
「何故サボテン?」
つい正座して聞いていた私は素朴な疑問を口にする。
『人には、サボテンに話しかけざるを得ないという特性があるのでしょう? 元々我々は確かな形を持たず、周囲の環境や刺激に合わせて姿形を変えて行く種。サボテンの持ち主が語る内容、それに付随して起こる現象によって影響を受け、私たちの姿は変化していきます。そこで、我々がどのように成長するかで最終判断をしようと——』
「ちょっと待って」
思わず待ったをかける。似たような仕組みのものに心当たりがあった。
「それって、『たくさん話しかけてサボテンを育てよう。話す内容によってイベントが起こってサボテンの姿が変化するよ』みたいな感じ……?」
『簡潔におまとめになられますとそんな所ですね』
育成ゲームの一種かな?
「んんんー? ごめん、流石にそれで存亡を決定されるのは嫌だなぁ?」
思わず異議を申し立てると、おっしゃる通りですとイケサボが眉を顰めた。
『私はどうやら地球人を誤解していた様です。今日、それがよく解りました』
「え、有難いけどどういう心境の変化で ——って、今日?」
サボテンは植木鉢の上から床に降り立つと、流れる様な動作で正座した。
『そうです。貴女が私の意識を変えたのです! 毎日とんでもない目に遭いながら、それでも不幸を恥じることなく面白おかしく過ごす生き様。さらに自分よりも他者を気遣い、ありとあらゆる生物、精霊にまで感謝される。こんな興味深く心美しき人がいる地球人が、滅んで良いはずがありません‼︎』
「それ褒めてる!? 興味深いとか言ってますけど」
もちろんです、とサボテンが輝かしい笑顔で私を見ている。
少し圧倒されてしまう。
「私恩返しに来られたの初めてだし、基本的に愚痴ってただけだけど」
『おや、謙遜ですか? 彼らが恩返しできたのは我々の能力のおかげですが、貴方への深い感謝は確かに存在していたのですよ。心まで我々の力は及びませんから』
「そ、そうかな」
そう言われると、悪い気はしない。頬に熱が集まり視線を伏せた私に、サボテンは大きく頷き、
『そうです。それに——』
バッと両手を広げて高らかに宣言した。
『私をこの様な絶世の美貌に成長させたのは、貴女の力です。この姿を見せれば、同胞も何も言う事はできますまい‼︎』
「やっぱりその容姿も判断材料なの!?」
ただのナルシストの暴走のように思えてきた。
『まだまだ貴女のお話を聞いていたい所ですが、私はすぐに母星へと帰還し、地球人滅亡を考え直す様に訴えなければなりません。明日という日を無事に迎えられれば——貴女は人類の救世主です』
「そんな差し迫った状況だったの!?」
『ご安心下さい。この美しい姿に誓って絶対に同胞を説得して見せますから‼︎』
それではこれからもお元気で。
そう言い残し、イケサボはふわり宙に浮くと、光の粒子を振り撒きながら消えていった。
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