第22話 二人の子供

ムルの後を追いかけるように進んでいた僕たちは、現在階段を必死で上っていた。


部屋を飛び出した後、僕らは走った。ムルがものすごい勢いで走っていくので、見失わないようにするためだ。


廊下を通り、玄関に通ずる白い扉の前を通り過ぎ、廊下の端に突き当たった僕らの前に、上にグルグルと続いている白い螺旋階段が佇んでいた。


ムルが一足先にその階段を上っていた。白い尻尾が上下に揺れながら消えた。


そして僕らもまた、その階段をムルに続くように勢い良く上り始めた。


一つ一つの階段の幅が思ったよりも広いため、僕の足では一段上るのに二歩を必要とする。


しかも、思ったよりも長いときている。結構、しんどい。


そんな階段を僕とベルミラ以外は、息一つ乱さずに上がっている。


しかも、トルキッシュに至っては楽しそうな表情さえ浮かべている。




やっと、二階に辿り着いた。


すると、ベルミラが、そしてベルミラに続いて走っていたレオンが立ち止まっていた。


その前には、とても場違いに楽しそうに微笑む二人の子供が立っていた。




そのそばの窓が開いて、風が吹き込んでいる。青いカーテンがふわりとその風に揺れた。


立っていた子供の一人は少年で、銀色の短い髪が風でなびいている。


もう一人は少女で、茶色いおさげの髪に赤いリボンをつけており、リボンの端が風に翻った。


二人とも似たような服を着ている。


それは、白い長袖の少し大きめのシャツと白い裾が広がったズボンで、なんの飾り気も無い服だった。


そして二人は、穏やかな顔で微笑みながら僕たちの目の前で会話を始めた。


「グーリオ。この人たちの相手をすれば、いいの?」


「そうだよ。リリム。この人たちと遊んでればいいんだよ」


「でも、この人たち全然面白そうじゃないよ?」


「きっと、ちょっと緊張してるんだよ。僕たちがその緊張をほぐしてあげよう?」


そう言うと、少年はなぜか少女の身体を片手で持ち上げた。


すごい力だな……。


「うん、そうだね。グーリオ」


少女が持ち上げられて、体が斜めになったまま少年に言う。


斜めだが、体自体は一本筋が通ったようにまっすぐだ。


きつくないのか?


「じゃ、行くよ?リリム」


「うん。せーのっ」


『避けろっっ!!』


突如、サイアスの声がした。その瞬間、斜めになった少女の身体が飛んだ。


それはもう、凄まじい勢いで真っ直ぐに。


「ぐごっ……」


サイアスが少女を避けるべく、咄嗟に動けない僕を横にひっぱった。


僕は、サイアスがひっぱったことで首が絞まりかけながら床に倒れこむ。


少女よ。あなた、人間ですか? それとも、人間弓矢?


今の速さなら、確かに地面に突き刺されるし!


僕は、「この二人。実はバネ仕掛けだったんですよ~。よく飛ぶでしょ~?」


ってなこと言われても信じてしまいそうだ。


その時、信じられないことに妹リリムを兄グーリオが片手でキャッチした。


え? あれ? いつの間に、そっちへ?


グーリオは僕たちに背を向けた格好で妹をキャッチしていた。


そして、妹を抱えたまま身体をこちらに向き直らせる。


まさか……。


「じゃ、次行こうか! リリム!!」


「うん。そうだね。お兄ちゃん!!」


やっぱり、それってさっきの発射体勢と同じですよね?


「せ~の、そぉ~れっ!」


兄グーリオの掛け声と共に第二弾リリムが発射された。


そして、あのぅ、すみません。気のせいかな? と思ったのですが……。


どうも気のせいではない? なんで僕に向かって飛んでくるの?


またかよ!


「くっっ!!」


僕はサイアスに首を絞められながら、横に引きずられた。


とりあえず、それで間一髪避けることができた。


しかし、またまた妹リリムは、兄が抱えており、既に発射準備が出来ている。




ってか、本当にこれ。身体がもたない。


それに、僕に当たっても妹のリリムもぶつかるんだ。痛いんじゃないのか?


そんな僕の考えにお構いなしで、兄妹は笑いながらこの遊び(たぶん、遊んでるつもりなんだよな?)


を続行する。




「そぉ~れっ!!」


「きゃはははは~~~~~! おもしろ~い!!」


「もっと早く~~~!!」


「じゃ、いくぞ~! リリム~~! それ~~」


声だけ聞いてれば、兄と妹の仲睦まじき様子が浮かび上がる。


公園でブランコ漕いでたりする分には、害はない。


だが、この場合大いに問題有りだった。


「うわぁぁーーーーーっっ!?」


咄嗟に僕は横に倒れた体勢のまま頭を伏せる。


頭上を少女が『ギュン』とか効果音が聞こえそうなくらい(いや、実際聞こえてたかも。)


風を切りながら、気持ちよさそうに飛んでいった。


なぜ、僕が標的? そして、なぜそんなに楽しそう?






僕を狙っていることに気が付いたのか、レオンたちが僕の前に来て庇おうとしている。




横に引きずられて倒れた格好からやっと立ち上がった。とりあえず、僕は脇に隠れようと必死でよろよろと移動を開始したら、丁度そのとき第四弾リリムが発射された。


でも、今回はレオンたちに向かって……


ないよ。


だから、どうして、こっちにくるんだっ!?


しかも、今回は放物線を描くように飛んでレオンたちを一旦避けて、斜め上から!!


今度こそ、ぶつかるっ!!




そう覚悟して、目を閉じた。ついでに、反射的に顔の上に両手が庇うかのようにきている。




その瞬間、後ろからひっぱられた。


そのまま後ろに尻餅をついたが、更にひっぱられる。


ズザザザザザザ。


正直、尻の皮が擦り剥けるかと思った。


だが、おかげでぶつかってはいなかった。




その代わり、目を開けるとそこには少女が逆立ちで立っていた。


いや、正確に言うと頭で身体を支えていた。


逆さまになってまで、直立不動?


目の前の開いている窓から風が入ってきて、青いカーテンと少女の白い服の裾を揺らした。


よくよく目を凝らした僕は絶句した。




少女は、床に突き刺さっていた。


頭で、床を割っていた。頭じゃなくて、床が陥没……。




ありえない。




もし、ぶつかっていたら……。


当たり前的に、僕の惨敗です。


そして、たぶん口から魂でちゃっていたでしょう。




なんて、冗談言ってる場合じゃない。


洒落にならない。




その時、後ろで音がした。




なんだろう?




反射的に顔をそちらに向ける前に、僕はまたしても尻餅をついた格好のまま後ろへと引きずられた。




「サイアスっ! なにするんだ……」


そこまで言った時、僕は自分の肩を掴んでいる白い手を見た。




「は?」




サイアスに手?




思わず本気でそう考えた。


もちろん、サイアスに手なんかあるはずなかったけど。




廊下の比較的明るい光の下からおさらばして、一気に暗い室内へと連れ込まれた。




電気ぐらい付けろよ。状況がわからないだろ!




その時、急に左側から声が響いた。


「やあ。ようこそ」


男の声はいやに落ち着いていた。しかも、どっかで聞いたことのある声だ。


すると、僕の肩にあった白い手が脇の下を支えるようにして、僕を立たせようとしていた。


少し抵抗してみるが、勝ち目はないようだ。


上に1回持ち上げられて、床に下ろされた。


足が床の感触を捉える。




しかし、空中に足が浮いたぞ? 今。


怪力が多いんだな。ここは。


変なところで感心していると、急に明かりがついた。


だが、どうやらここは他の部屋と明らかに違う。




明かりは電気ではなく、火の輝きだった。




電気じゃなくて、ろうそくが三本セットで五箇所に設置されていた。


なんだか、金色の金属っぽい燭台がろうそくの火で淡く輝いている。


僕はいつの間にか、ろうそくの館に迷い込みましたでしょうか?




だが、開いた扉の向こうには明らかに電気の光が赤々と灯った廊下が見えている。




よかっ……ん?




あれ? 皆は??




すると、そんな僕の横で男がつぶやく声が聞こえた。


「任務完了です。えぇ。それでは……」


僕は男の方を見ようとした。


その瞬間、首に何かを感じ、僕の視界は暗くなった。




そのまま、何もわからなくなった。

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魔道具の従者 霧島らっき @rakki_kirishi

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