第21話 お姫様と緊急事態!?

ベルミラはさっさと皆がいるはずの部屋、衣裳部屋から左に二つ行ったドアの前に立った。


「早く! 章平様!!」


ベルミラが僕の方へ戻ってきて、乗り気ではないためノロノロと動いていた僕の手を掴んでひっぱった。


「うわっ。ちょ……」


僕がスカートにつまずきそうになりながら、こけないように必死になっていると


ベルミラはそのまま僕をひっぱって行き、勢い良くドアを開けて、僕を前に突き飛ばした。


慌ててバランスをとって、なんとかこけないように踏みとどまったとき、視線を感じて恐る恐る顔を上げた。


すると、ポカーンとした表情のレオン、メイレン、トルキッシュ、エバァの顔が目にはいった。


無意識にエバァとトルキッシュの方を見ないように顔を背けた。


だが、それがあらぬ誤解を生んだらしい。


いや、正確には誤解とも言えないが……。


「なに恥ずかしがってんのよ! ここまできたら堂々としてなさいよ!! そんな女々しいことでどうすんのっ!?」


メイレンが叫んだ。


いや、そういう問題か? この場合、堂々としてたら余計に変態度が増すと思うのだが?


「いや、恥ずかしがる姿も初々しくていいと思いますよ? 章平が女の子ならよかったのに♪」


楽しそうだな。レオン。


だけど、そんなレオンの態度にも白々しいものを感じてしまう。


「お~こりゃ、弟分じゃなくて、お姫様だな~。大丈夫だ。俺様が守ってやるぞ。だから、安心しろ」


トルキッシュが言った。


いつもなら、うんざりしながら笑い飛ばす言葉だが、今回は笑い飛ばす気になれなかった。


「へぇ~。俺たちがいない間に、章平が面白いものを用意してくれる話になったって聞いてたけど、これのことかぁ~。いや、すごいや。お姫様で通じるよ。本気で」


いつもなら、「通じなくていいから」とかつっこみいれるだけですんでるんだけど、


今回は「そうやって今までバカにしながら欺いてたのか?」って思いが頭をもたげそうになる。


そのとき、耳を劈つんざくような、鋭い笛の音とジリジリジリジリ~というベルの音が聞こえてきた。


「な? なんだ?」


僕が反射的に音の聞こえてきた廊下側を振り向くと、ベルミラが叫んだ。


「侵入者ですっ!」


「し……侵入者ぁ~?」


僕は日ごろ聞かない言葉に素っ頓狂な声を上げていた。すると、廊下から勢い良く白い塊が走ってきた。


ムルだ。ムルは、そのままベルミラの前で二回小さく回った。それを見たベルミラが、付け加えるように言った。


「どうやら、二階の窓を割って侵入してきたようです」


そのとき、目をつぶって何かを確認するかのようにゆっくり何回か頷くような動作をしていたレオンが


目を開いた。


「……全部で3人です」


『間違いないか?』


サイアスが聞き返す。


「気配は3人分です」


レオンがそれに答える。


『わかった』


サイアスがそれに応じると、


『行くぞ』


と僕を促した。


「行くってどこへ?」


僕がサイアスに向かって言うと


『二階に決まってるだろうが』


と呆れたように返された。サイアスの言葉を受けて、僕は固まった。


なんでまた、そんな危険な場所に乗り込んで行かなきゃならないんだ?


しかも、こんな格好で。


しかし、僕の思いなど完璧に無視して事態は進んでいく。


「おっとぉ? 面白くなってきたぜ!」


トルキッシュが指をパキパキ鳴らしながら、嬉しそうに言った。


「トルキッシュ。遊びじゃありませんよ」


レオンが諌めるように言う。


「めんどくさ。どうでもいいから、ちゃっちゃと片付けちゃおうよ。チャコちゃんはここで待っててね」


エバァが投げやりに言いながら、最後にチャコちゃんへの言い含めるような言葉を忘れていない。


「侵入者なんて、私がギッタギタのメッタメタに熨してやるから、安心して!」


メイレンが右こぶしを突き出しながら言った。その言葉にベルミラが驚いたように


「え? でも……」


と言いよどむ。その様子にメイレンは


「大丈夫よ! 私、こう見えても戦士の称号持ってるんだからっ!!」


と自慢げに胸を張った。その言葉にベルミラは目を見開いて驚くと


「戦士の称号! すごい……」


とメイレンを尊敬の眼差しで見つめている。そして、ベルミラはムルを見ると僕たち全員を見て、


「では、行きましょう」


と声をかけた。その言葉を合図とするようにムルが走り出した。その後に


「こっちです。ムルが侵入者のいるところまで案内してくれます」


と言いながら、ベルミラがムルを追いかける。


僕たちもそんなベルミラに続いて走り始める。


こうして僕らは、侵入者を発見すべく行動し始めたのだった。

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