影の影(Twitter300字SS)

伴美砂都

影の影

 あたしたちっていわば影のじゃない方芸人なんだよね、影の影っていうか、まあ芸人ではないけど、と言うあおいの顔は真剣だった。彼女が見つめるテレビからは「じゃない方芸人」の笑い声が聞こえ、風呂場からは紗織さおりが湯を使う音がする。三人でお泊まりもする仲だけど、大学で不思議ちゃんと呼ばれている葵のことが本当は少し苦手だ。そっか、とだけ返すと、葵はもう何も言わなかった。


 翌日はよく晴れた。二人と別れ駅のホームに立つ私の耳に、ふと声が聞こえた。


(これなに?ぼくがうごくと、うごくの)

(これはね、ジッタイっていうのよ、光の当たるところにできるの)


 あ、影の影だ、と思った。下を向くと私の影が、影じゃない方の私を見つめていた。

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