天国からのメリー・クリスマス
「雪……もうそんな時期かあ」
換気のために開けていた窓を閉めつつ、マサチカはそうつぶやく。窓を覗けば、雪がちらちらと降り始めている。この調子なら、夜には積もっているかもしれないとマサチカは思った。
「先生、おはようございます。今日は一段と冷えますね……」
寒そうに手をすり合わせながら、マサチカの診療所で手伝いをしているシャーロットが外の空気を纏って入ってきた。マサチカに挨拶してからすぐ、そそくさと暖炉に火を入れ始める。
「おはよう、ロッテ。今晩は雪が積もるかもしれないな」
「冷え込むのは嫌ですけど、綺麗な雪景色になるでしょうね」
「こう寒いと、みんな外に出たがらないだろうし……今日は暇かもしれないな、まあそれが一番なんだけど」
「ふふ……そうですね。今、温かいコーヒーでも淹れます」
微笑みつつ、そう言ってシャーロットは診察室を出た。それを見送ったマサチカは机に広げられた資料に目を落とし、作業を再開した。
「…………」
「先生?」
手を止めてただただ窓から外を見つめ続けるマサチカに、コーヒーを持ってきたシャーロットは不思議そうな声で呼びかける。
「ん? ああ、悪い、ありがとうロッテ」
マグカップを受け取りつつ、マサチカ。心配そうな顔でじっと見つめられ、苦笑しつつ口を開く。
「俺の世界の行事のことを思い出したんだ。こういう、雪が積もるような寒い時期になると、クリスマスってイベントがあってな」
「クリスマス……どんなイベントなんですか?」
「根源としては、ある宗教の神の降誕祭だかなんだかなんだか――まあ、そんなことよりも大事なのは中身だ。ケーキとか、ごちそうとかを用意して家族でパーティしたり、子供たちにプレゼントをあげたりするんだよ。この時期になると、場所にもよるが街並みが綺麗でな、イルミネーション――色とりどりの飾りで綺麗に飾って、クリスマスを祝うんだ」
サンタクロースだとかクリスマスツリーだとか、他にも色んなものがマサチカの脳裏に浮かんだが、説明が面倒なものは割愛して、そう軽く説明して見せた。
「楽しそうですね、真っ白な雪景色に、色とりどりの飾り……きっと素敵なんでしょうね。何よりも、子供たちがとても喜びそうな行事だわ」
「あと、恋人たちが街に繰り出すのが多い日でもあるな。街並みがきらびやかだから、デートにもってこいなんだろうな」
「恋人……マサチカ先生は恋人と過ごされたんですか!?」
食いかかる勢いでシャーロットに問われ、マサチカはびくっと肩を震わせた。
「俺か? 俺は…………」
少し言葉を詰まらせてから、緑の双眸をふせつつ、マサチカは改めて口を開く。
「クリスマスで一番覚えているのは、内戦中の国にいたときのことかな……親を失った子供たちを保護してる団体に頼まれて、その子たちを診てやってたんだよ。診察がてら話を聞いていたら、そいつら、クリスマスのことなんて全く知らなくてな……まあ、よくある話なんだけどな」
「……どの世界も一番の被害者は子供、ですね……」
先ほどとは打って変わってシャーロットが悲し気に呟くのを聞いてから、マサチカは続ける。
「丁度クリスマスの時期だったから、プレゼントをやるって約束したんだよ。普通の子供みたいに玩具だとか高価なものはやれないが、色んな奴に呼びかけて支援物資のほかにもできる限りのものをかきあつめたんだ。楽しみにしてるって、すごく嬉しそうにしてた。……でも」
ちらりと窓の方に視線を向けて、マサチカはまた言葉を詰まらせた。シャーロットに話している子供たちと過ごしたその日にも、同じように雪が降っていたのをマサチカはよく覚えている。
「クリスマスの日には、内戦が止まるとでもその時の俺は思っていたのかね……間抜けにプレゼントなんて用意していた間に、激化した内戦に巻き込まれて、子供たちは全員死んだ。プレゼントも、支援物資もぜんぶ盗まれて、クリスマスの翌日には市場に転売されてた。……よく考えりゃ俺のせいかもしれない。全部、想定できたことだったはずだ……」
最後の一言は、自責の言葉でしかなかったが、マサチカの口からほぼ無意識のうちにこぼれていた。
「ひどい……」と言うシャーロットのつぶやきは、勿論マサチカに対してのものではなかったが、胸の内で自責を続けるマサチカにはそう思えてならなかった。
「……と、悪いな、ロッテ。そんな暗い話を聞かせちまって。毎年俺は海外に飛んで同じように過ごしてたし、クリスマスの思い出なんて、そうないかな。詳しく話してやれなくて悪い」
口早にそう纏めて――この話題は終わりだとばかりに、マサチカはまた机の上の資料に目をやった。
そんなマサチカに何か声をかけようと思案を巡らせるシャーロットだったが、気の利いた言葉が見つからず、胸元をぎゅっと握りしめて、ただ淡々と仕事をこなすマサチカを見つめることしかできなかった。
それから数日。連日雪が降り続いて、町は真白の雪景色に変容した。気温も更にぐっと下がった影響で体調を崩す者や、雪で足を滑らせる子供、雪かきで怪我をする者などがマサチカの診療所にたびたび訪れた。
「しかしまた冷え込んだな……実家のコタツが恋しいぜ……」
意味のない事を呟きながら、マサチカはカルテをぺらぺらと捲った。午後にさしかかる刻限、ようやく患者の数が落ち着いてきて、一息ついているところだ。
読み難い文字や絵が描かれている壁に貼ってある紙がマサチカの視界に入った。診療所の近くにある孤児院の子供たちがくれた『感謝状』である。孤児院とはいっても、元シスターの老女が寄付金を頼りに経営している、院とは呼べないような小さな規模で、さして子供たちの人数も多くない。それでもやんちゃざかりの子供たちは怪我が絶えず――特に何か不調がなくてもやって来るのだが、よく診てやっているために、いつの間にか子供たちに懐かれていたのだった。
しばしぼんやりしていると、どたばたと言う足音と、楽し気な子供たちとシャーロットの声が聞こえてきて、マサチカは首を傾げた。
「せんせー! こんにちは!」
「おへやの中、あったかいねえ」
勢いよく飛び込んできた少年と、寒そうに手をすり合わせている少女がシャーロットに連れられて診察室に入ってきた。二人とも、先ほどの孤児院の子供たちだ。
「ん? なんだなんだ、どうしたお前ら。遊びに来たのか~?」
顔をほころばせ、マサチカはわしゃわしゃと二人の頭を撫でてやった。くすぐったそうにしながら、少年の方が口を開く。
「ねえ、せんせー、クリスマスのパーティーやろうよ!」
「ロッテお姉ちゃんに聞いたの。クリスマス、たのしそう!」
「もう、先生を困らせては駄目よ。先生はお忙しいし、それに……」
シャーロットはちらりとマサチカの方を見やって、言葉を詰まらせてから、続ける。
「……とにかく、準備も大変だし、わがままを言っては駄目。我慢しなさい。シスター・ミランダも困るでしょう」
シャーロットがそう言うと、二人は「えーっ」と不満げな声を上げる。
「お姉ちゃんだって楽しそうって言ってたじゃん! せんせーも呼んで、みんなでケーキ食べたりしたいねって」
「そ……それは、そうだけど……わたしは一言もやるなんて言ってません」
屁理屈気味な事を言うシャーロットに苦笑しつつ、しばらく黙っていたマサチカがようやく口を開いた。
「いいじゃねえか、やろうぜ、クリスマス。俺もロッテが焼いたケーキをまた食べたいと思ってたところだ」
そうマサチカが言った途端、子供たちは文字通り飛び上がって喜んだ。「かざりつけどうしよう」「院長先生のプレゼントは……」などと、楽しそうにまだ見ぬパーティについて話し始めた。
「せ、先生……いいんですか?」
「ばあさんには俺から言っておくよ、そんな盛大にはできないが、アイツらが喜ぶところを俺も見たいしな」
「でも……」と、何か言いたげなシャーロット――それでも、何も言えずにいる彼女にマサチカは笑いかけ、
「いいんだ」
きわめて静かな声で――半ば自分に言い聞かせるように、そう言った。
異世界の行事を完全に再現することは出来ないと改めて実感しつつ、マサチカとシャーロットは診療所の業務をこなしながら子供たちとのクリスマス・パーティの準備を進めた。
忙しい時はすぐに過ぎ、雪降りしきるまさにクリスマスに相応しいパーティ当日となったが、どこか虚ろぎみに見える――それでも、いつも通り笑顔をふりまき、快活そうにしているマサチカの傍で、シャーロットは複雑な思いを抱え続けていた。
(わたしが軽率に子供たちに話してしまったばっかりに……先生、きっとご無理をされてるんだわ)
コーヒーを淹れつつ、シャーロットは幾度かわからない自責と後悔を繰り返す。そしてため息を一つ。ため息も、何度ついたか分からないほどだ。
(本当に、わたしってなんてデリカシーがないのかしら……! 自分自身に本当に腹が立つ……)
自分自身に怒りを覚え、コーヒーを乗せたトレイを持つ手を震わせつつ、シャーロットは休憩中のマサチカが待つ診察室に向かった。
(……なんか、頭がぼんやりする。と言うか、最近の俺はぼーっとしすぎだ。しゃんとしないとな……)
もやもやとした感覚を振り切るべく、マサチカはかぶりを振った。原因は、自分でもわかっていた――今でもマサチカの深層に深く突き刺さっているあの出来事だ。クリスマスという単語を聞くだけで脊髄反射的にあの時の光景がすぐに思い浮かぶ――あれほどの凄惨な光景が、そう簡単に忘れ去ることはできない、それに、何よりも――自戒のためだろうとマサチカは断定する。
(でも、あいつらやロッテに心配かけたくないし……特にロッテなんか、いつにも増して俺の事見てる気がするんだよな……元々、よく見て気を回してくれてるのは分かってるけど、きっとすごく心配してくれてるんだ)
気分転換に外に出ようかとマサチカは診察室から出た。頭は未だにぼうっとしている。なんとなく、空間がふわふわしているような感覚をマサチカは覚えた。まあ、慣れないことをしているからだろうな、と決めつけて、それを無視することにした。
医療器具の棚の傍らに、子供たちのために用意しておいたプレゼントが積まれている。あの時と同じような光景に、マサチカは反射的に目をそらしたくなった、その時だ。
「―――!?」
マサチカは目を疑った。シャーロットがラッピングした可愛らしいプレゼントの袋に、突然赤黒いしみが広がったのだ。他のプレゼントにも同じように広がっていき、やがて赤黒い液体が床に染み出す。
ありえない事態に悪寒が走って、マサチカは診療所にいるはずのシャーロットを探して回った。何度呼びかけても返事はない。いつもなら、すぐにすっ飛んで来る彼女が、どこにもいない――それだけで、マサチカの不安を煽るには十分すぎた。
(なんなんだ、一体――!)
診療所の入り口に向かってひた走る。そんな大した距離ではないはずなのに、何故か今のマサチカには遠い距離に感じられた。
「――え」
ようやくたどり着いたそこには、むせ返るほどの鉄のにおい――実際はそんなことはなかったのだが、そう錯覚するほどに血が飛び散っていた。
子供たちだった死体が血まみれて倒れている。そこに覆いかぶさるようにしている、金髪のエプロンドレスの女性は、まぎれもなく――――。
「――――ロッテ!」
自分の声が引き金でようやく夢から引き戻されたマサチカの目の前には、呼びつけたシャーロットその人がいた。蒼い目を目を丸くして、ひどく驚いている表情だ。
「せ、先生……? どうされ――ま!?」
シャーロットが尋ね終わる前に、何を思ったかマサチカは目の前の彼女をいきなり抱きしめた。突然の出来事――想い人に抱きしめられたシャーロットは、顔を真っ赤にして思考を停止した。
「――生きててよかった、ロッテ……!」
存在を確かめるように、マサチカはシャーロットを抱きしめる力を強めた。腕の中にいるシャーロットは今にも気を失いそうだ――なんとか嬉しさで崩れ落ちそうな自分の身体を必死に支えている。
しばらくそうしてから、マサチカは我に返って、慌ててシャーロットを開放してやった。
「わ――悪い、ロッテ、いきなり――いや、こんなのセクハラだよな……いや、そんな下心はホントにないから! ほんとにごめん!」
「いいいい、いいえ! そんなセクハラなんてとんでもない! 寧ろありがとうございます!」
思わず本音が出てしまったシャーロットに、マサチカは首をかしげる。
「いや、怒られてもしょうがないけど、お礼を言われるようなことはしてないと思うんだけど……」
「えっ!? い、いえその、なんでもないんです! すみません、わたしったら混乱してしまって……!」
かぶりを振って、なんとか冷静さを取り戻そうとシャーロットは話題を変えるべく、改めて口を開いた。
「あ、あの、先生……ずっとうなされていて、起こすのも迷ったのですが……どうされたんですか? 何か、悪い夢でも……」
「……その、実は…………」
マサチカは躊躇いつつも、夢の仔細をぽつぽつと話し始めた。
「そうだったんですね…………」
「信心深い方じゃないが、あまりにも重なりすぎていてな。考えすぎかもしれないけど」
冷めきったコーヒーを少し飲んでから、悲し気な顔をしたシャーロットに視線を合わせず、マサチカは呟くように続ける。
「やっぱり、俺――――」
「先生」
言いかけるマサチカの言葉を遮るように、シャーロットは声を上げる。
「……わたし、先生のお話を聞いて、亡くなった子たちもきっと先生と楽しくクリスマスをしたかったんじゃないかな、と思ったんです。プレゼントよりも、何よりも楽しみだったのは、先生とクリスマスを過ごすこと」
「もちろん、わたしの想像にすぎませんが」と付け加えて、シャーロットは続ける。
「その子たちの事を忘れて欲しいなんて思いません。ただ、クリスマスのたびにその出来事を思い出して先生が悲しい思いをするのは、きっとその子たちも悲しいんじゃないかって思うから……クリスマスを、先生にとって少しでも楽しいものにしたくて」
そう言ってから、シャーロットはうつむいた。
「ごめんなさい、上手く言えなくて……もちろん無理に来て欲しいとはいいません、子供たちにはわたしから言っておきますから……」
軽く会釈して、シャーロットはその場を後にした。
残されたマサチカはしばし考え込んだ。脳裏にあの時の光景が鮮明に残っている。それでも――クリスマスを楽しみにしているとマサチカに言っていた子供たちの笑顔も、しっかりとマサチカは覚えていた。
(許されるなんて、思ってない、でも――本当に、そうだとしたら、俺が、未だにあいつらを悲しませてるんだとしたら――都合がいい考え方かもしれない、でも俺は――)
(結局来ちまった……)
散々迷った挙句、プレゼントを抱えて、マサチカは孤児院近くまで来た。孤児院は廃屋を改装した簡素な建物だが、クリスマスらしく、子供たちが工作で作った飾りが付けられている。
「あー! せんせー来たっ!」
先ほど歩いてきた方から、少年の声が聞こえてきてマサチカはぱっと振り向いた。
駆け寄ってくる子供たちから少し離れた場所から、憮然とした――どちらかと言うと、疲れたような顔をした魔術師然とした恰好の黒髪の青年と、頭や肩に子供たちがへばりついている派手なオレンジ髪の男がこちらに歩いてくる。
「ルカと、それに……リンドだっけ」
マサチカに呼ばれ、大きなため息をつきながら、黒髪の青年――ルカが口を開く。
「シャーロットさんにパシ……頼まれて、買い物のついでにこいつらの面倒を押しつけられてな……なんだって、俺が子守なんか」
「ガキども、落ちてもオレさま知らねーからなあ」
ぶつくさ言うルカの隣で、リンドが肩にしがみついている少女にどうでもよさそうな声音で声をかけた。
「わ……!」
「うわっ! バカッ!」
リンドの肩からずり落ちそうになる子供に、さあっと顔を青ざめさせたルカが慌てて駆け寄る。
「ほれいったこっちゃねえ。バーカ」
リンドは少女の襟元をひっつかんで、めんどくさそうに地面に下ろしてやった。
「えー、バカって言った方がバカなんだよ」
「じゃあオレさまに今バカって言ったお前はバカだな」
「ガキどもが……」
子供たちとリンドはやんややんやとじゃれ合っている。その光景にまたルカはどっと疲れたような顔をして、大きなため息をついた。
「……先生! 来てくださったんですね」
騒いでいたからか、中からシャーロットが出迎える。マサチカの顔を見た途端、心底嬉しそうな顔をしてそう声を上げた。
「シャーロットさん、頼まれたもの買ってきたぞ……」
ため息交じりの声で、ルカ。紙袋を受け取りつつ、シャーロットは微笑む。
「お疲れさま、ありがとう、ルカ君、リンド君。ケーキ食べる? 練習用で焼いてたやつだけど」
「マジで! オレさまのケーキ!」
シャーロットからひったくる形でリンドがケーキの箱を受け取り、楽し気に――それこそ子供のごとく、はしゃぎながら駆けて行った。
「てめえ一人で食おうとすんなよリンド!」
走り去っていくリンドに怒声を上げるルカに声をかけるべく、慌ててマサチカは彼を引き留める。
「ルカ、こいつらを連れてきてくれて、ありがとうな。本当に、ありがとう……」
マサチカの言葉に何かを感じ取ったルカは、頭を掻きながら口を開いた。
「……なにしけた顔してんだよ、あんたがそんなだと、ガキどもがせっかくのパーティなのに暗くなっちまうぞ」
そう言われて、マサチカは子供たちの方に視線をやる。いつもと違う雰囲気のマサチカに、不安がっている様子だ――子供と言うのは、本当に感情に敏感だとマサチカは改めて思い知らされ、苦笑した。
「……そうだな。よし! さ、みんな、寒いから早く入れ入れ~! ロッテねえちゃんがたーくさん美味しいもん作ってくれたからな!」
そういつもの調子で言って見せると、子供たちは顔を輝かせ、早く早く、とマサチカの服を引っ張り出す。そんな光景になんとなくルカも微笑ましい気持ちになって、つい笑みがこぼれた。
「じゃあ俺は行くから。全く、もう二度と子守はゴメンだからな」
「……はは、ありがとな。……あ、メリー・クリスマス、ルカ!」
聞きなれない言葉にルカは一瞬目をぱちぱちとさせたが、なんとなく理解した様子で、ふっと笑った。
「ん。メリー・クリスマス、マサチカ――って俺のケーキっ!!」
言い切る前に、ルカは慌てた様子で走り出す。遠くの方でリンドがケーキを食べ始めたのが見えたらしいルカは悲鳴を上げながらそちらに全力疾走して行ったのだった。「相変わらずしまらねえなあ」と苦笑しながら見送るマサチカを、「先生、はやく!」と子供たちがまた急かす。
「待て待て、ひっぱるなって――」
冷たい空気を纏いながら、マサチカと子供たちは小さく、しかしあたたかなパーティ会場に入って行く。
(結局のところ、俺はあいつらにしてやれなかったことを、こいつらにしてやりたいってだけで、今ここにいるのかもしれない)
あの子供たちにも教えてやったクリスマスの歌を、楽しそうに子供たちとシャーロットが歌っているのを見つめながら、マサチカは胸の内で続ける。
(それなのに、俺があいつらからクリスマスプレゼントを貰っているみたいだ。……そんな風に思うのは、傲慢かもしれないけど)
窓から見える月明かりに照らされたしんしんと降りしきる雪は、さながら天からのプレゼントのように、マサチカには思えた。
やさぐれ魔術師ルカ 旅路の欠片 しノ @shinonome114
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