エピローグ
破壊された投影機はリリーが修理した。フレームは割れたままだが動作に支障は無く、リリーが色々と操作してアステヤック侯爵邸で起きた出来事の要所要所を見せた為、昼過ぎには全てを見終わっていた。
それを見終わるなり、国王はジェフリーの身分剥奪を宣言してからハリスをリリーの後見人に指定。そのまま三人に帰るよう伝え、代わりに宰相へボートマン子爵とワイズマン男爵を呼び出すように言う。
ハリス達の去り際に、国王は「結果は追って報告しよう」と告げた。
ハリス達が拠点へ戻ると、構成員達はハリスに抱き上げられたリリーを見止め、昼過ぎにもかかわらず一度拠点を閉めて全員でリリーの無事を祝う。
そこに来てようやっとリリーは実感が得られたのか声を出して大いに泣き出し、そのまま疲れて眠ってしまった。
ベッドへその小さな体を横たえ、リリーの頭をなでているとシャツの袖を捕まれてしまい今日は休む事をタツヤとサリーに伝える。
次の日。早朝になって王城からの使いが現れて前日の裁判の結果を伝えられた。
前アステヤック侯爵、レイリーと元マリンストン伯爵家令息エイジスの暗殺。
戦地以外での使用を禁止されている幻惑魔法の使用。
侯爵家簒奪を計画した事と身分詐称。
それから新しく制定された育児法の罰則で三十年間の労役刑後、無期限に新薬の実験対象命令を下され、実験対象になった時は亀刑にも処され、死んだ後は試し切りの素体としてバラバラになるまで切り刻まれ、その肉片は魔物をおびき寄せる為に森へ撒かれる事になった。
亀刑と言われる刑はこちらの世界で言うところの恥辱の樽と船刑を合わせたような物。王城の外のよく見える所で受刑者を仰向けにし、四肢を使って逃げ出さないように上向きに穴を開けた樽を被せ、後は晒すだけという死刑だ。
ここ十数年間、執行された事のない最上位の刑罰でもある。
これをジェフリー本人、妻のアージェンリーに課した。
それでも罪を購いきれないと国王が判断し、ジェフリーの親のボートマン夫妻は降格の上嫡子に当主を譲り、串刺し刑の後三年間晒す。
アージェンリーの親のワイズマン夫妻は平民に落とされた後、串刺し刑の後三年間晒す。
娘のファスリーは自慢するようにリリーへの所業を話した為に処置なしと判断され、両親の両親と同じように串刺し刑の後三年間晒す事になった。
ジェフリーに雇われていたメイドたちはほぼ全員どこかしらの男爵の令嬢であったので、今までやっていた事全てを白日の下に晒して放逐した。
すると婚約が決まっていた者、決まりかけていた者は全て相手側が棄却。
結婚していた者は離婚され放り出された。
思っていた以上に重くなった刑罰にリリーは青くなったが、国王の使いは似たような事件を起こしたらここまでの刑罰になる。
ある意味見せしめ的な側面もあるのだと言っていた。
数日が経って処刑日の今日、リリーとハリスは仲良く引っ越しの準備をしていた。
ハリスにとっては長年親しんだ拠点を出て、一度ホテル暮らしになるのだ。
「お父さん、これは?」
ベッドの側机に未だ飾られている四つのドッグタグを見止めてリリーは鈴の音のような可愛らしい声を上げる。
「ん?それももちろん持って行くが、……最後だな。これは私の戦友の物だった物で、これのおかげで今の私があるんだ」
「ふうん。じゃあ、この人達にも感謝しないとね」
そう言いながらリリーはドッグタグに両手を合わせ、歌を歌い始める。この国に長く伝わる祈りの歌だ。
それを聴きながら、ハリスはほぼほぼ伽藍堂になったハリスの部屋を見渡し、未来へ胸を膨らませる。
建て替えの話は前々から上がっていたが、多額の報奨金が入り、漸くハリスの決心がついた。
元々の話では表通りのこちら側、両脇の二店舗と裏側の通り三店舗、併せて周囲五件の店舗を吸収して統合し、一階を大型の店舗にして二階を職人の工房や相談窓口、三階を構成員の宿泊場所にしようとしていたのだがアステヤック侯爵家――リリーの横槍が入ってここら一帯の商店舗を全て吸収する話になったのだ。
現在の構想では地下一階から地上四階。延べ床面積ではちょっとした砦ならば凌駕してしまう巨大な建築物になってしまった。
いつの間にか祈りの歌が終わり、リリーはハリスの側に寄っていた。
「楽しみだな」
そう言いながらハリスはリリーの頭をなでると、咲き誇らんばかりにリリーが笑顔になり、「うん!」と大きく頷くのであった。
凡骨の意地情報局 Luckstyle @nagi_kokuu
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