裁判
ジェフリーがリリーを連れ去って二日がたった頃、昼前にアステヤック侯爵邸へ王城から登城するよう命令が出された。
その時にリリーも帯同するよう申しつけられ、馬車を分け、リリーの乗る馬車にはアステムのみ乗り込むよう通達された。
王城に到着するとジェフリー達はリリーから離されてから待合所に通され、そわそわしながらその時を待つのであった。
リリーはジェフリー達から離されて別の待合所に入ると、そこには少し窶れた雰囲気があるハリス、タツヤ、サリーが居り、リリーは思わず駆け寄ってハリスの足に抱き付いた。その様子を見ていた案内人は頷いて立ち去って行く。
「直接会うのは久し振りですな」
「えぇ。情報収集のためにサリーを受け入れてくださって感謝しております。
滞在中、良くしてくれたとサリーも申しておりますよ」
「ホッホッホ、サリー嬢はやんちゃだったと記憶しておりましたからな。伸び伸びと動かれた方が成果が出ると思い、思った通りでしたよ」
リリーを抱き上げつつ会話を行うハリスは窶れてはいる物の穏やかな面持ちで居て、タツヤやサリーを震え上がらせた雰囲気は霧散しているようだ。
「そう言えばリリー、一昨日私の部屋へ入ってくる前にサリーが渡したネックレスは持ってきてくれたか?」
頬擦りするような勢いで笑いかけるハリスに、リリーは頷いてから服の下に身に着けていた深緑色の宝石を据えたネックレスを取り出す。
それにハリスはポケットから取り出した緑色の宝石を取り出して触れさせると、両方の宝石が輝きだした。
暫くして通された部屋は王城の最奥部。国王の応接室だった。
迷路のような下層に加え、一般的な子女であれば息切れしてしまうような螺旋階段の先にあったので案内人に許可を得てハリスはリリーを抱き上げて移動している。
挨拶をして親しげにハリスと国王が会話を交わしていると、遅れてジェフリーがやってきた。
自動書記の魔道具を眺めていたリリーはそれに気づくと慌てたようにハリスに張り付き、アステムもリリーを庇うように立ち位置を変える。
「ふむ。揃ったな。
ジェフリー子爵、こちらの者からアステヤック侯爵の後見人には不適格との訴えが来ているのだが、申し開きはあるかね?」
「そんな事はありますまい。私はレイリー……前アステヤック侯爵が逝った後一生懸命にミスリーを育てています」
国王の言葉に、ジェフリーはなんだ、そんな事かと身構えて強張った体を緩め、堂々とそんな事を言う。
「ふむ。それにしてはリリー嬢は痩せているように見えるし、年齢ほど教養を身につけてないように見えるが?」
「それは彼女が小食であまり食事をせず、家庭教師の言う事を聞かないからでしょう」
「それは異な事を言う。彼女の行動を見ていたが、大人の話はよく聞き、好奇心も旺盛だ。知らない事も周りに合わせて行動するのが最善である事も理解しているようだ。そのような者が家庭教師の言う事を聞かないなど無いと思うのだが」
「その娘は外面だけは賢しく良いのです。育てるこちらとしてはほとほと困っているところですよ」
国王の追求に、薄く笑みも浮かべて答えるジェフリー。それに対して国王は一つため息を吐くと話を切り替えた。
「そうか。それともう一つ。
代々女系の貴族としてこの国では名を馳せているアステヤック侯爵を名乗ったそうだが、こちらに関しては?」
「ただの噂でしょう。私はアステヤック侯爵の嫡子であられるミリーの後見人。
名乗るときは誤解を生まないよう細心の注意を払って名乗るようにしております」
「だ、そうだが?」
ジェフリーが自信満々に言うのを最後まで聞かずに国王はジェフリーから視線を外し、それをハリスに向ける。
「では、私が彼に受けた事をこの記憶玉に記録していますので国王様にご覧に入れましょう」
そう言ってハリスは表に二つあるポケットの一つから記憶玉を取り出し、もう一方に入っていた投影機に乗せ、照明代わりのガス灯を消して闇の帳を下ろす。
「ふむ。以前見たときは明るい所だったが暗い方がよく見えるのだな。……さて、ジェフリー。言い訳はあるかね?」
「こ、こんなのはでたらめだ!大方私に似ている奴を使ってそれっぽく見せているだけだろう!」
先日、ハリスの拠点に乗り込んできた時の事案を放映され、いきり立ったジェフリーはつばを吐きながらがなり立てる。
「では、どうしてリリー嬢がアステヤック邸に居たのかね?使いの者が告知を出したとき、リリー嬢の姿をアステヤック邸で確実に確認したと言っておったぞ」
「それはリリー嬢が一人で帰ってきたのです!」
国王の問いかけに、苦し紛れのジェフリーは適当な事を言い始める。
それを聞いて我慢の限界に達したリリーはハリスの側から離れて投影機の上にネックレスを置き、その中身を再生し始めた。
再生の途中でジェフリーはリリーを殴り倒して再生を止め、ネックレスを破壊するが抵抗はそこまで。国王に呼ばれた近衛騎士に拘束され、退席していった。
「さて、静かになったな。それで、どうしたものか。リリー嬢は何を見せたかったのかな?」
国王自ら回復魔法を使ってリリーのけがを治して、慈愛のこもったまなざしを送りながらリリーに尋ねる。
それを聞いたリリーはハリスを見て彼の胸元あたりを指さした。
『複製があります』
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