第2話 いざいかん

 酸性雨がコンクリートを溶かしてアラユル建造物には鍾乳洞のような突起が形成されている。それだけではなく排気ガスの煤、塩分を含んだ空気による錆びが壁面の隅々を覆っていた。あと、所々にグラフィティ。歩道には紙ゴミが散らばっているが、相対的に量が多いだけで、全体を見るとそこそこ綺麗。その紙ごみ、そのほとんどはチラシである。こんな時代にもなって、日本人はプリントを止められなかった。

 そんな通りを孤独に進む。耳のダイヤルを下げたままにしてるので、調整して喧騒へ興味を傾けてみる。パトカーのサイレンが小さく響いたと思えば、暴走族の爆音が耳をジャックしたりした。近づいてくるので慌ててつまみを下げる。


 眼のまえに酒場。


 ネオン、と言ってもLEDだか、が照らす都市、その一角にバーがあった。俺は入口を一瞥し、その共用立体駐車場に侵入した。灰色の車、クラシックカーをEV(Electric Vehicle)にコンバートした代物が、カバーを掛けられて放置されているからだ。近づいて覆いを取り暗証番号を入力する。暗号は、だいぶ前のループで手に入れた。昔、バーの店主を殺してデータを盗んだのだ。

 車内に入ると漢字の並んだメーターが赤く窓の縁に一つづつ浮き上がる。頭上のプロジェクターが投影させてる搭乗者支援機能である。今、何速なのかを示す表示はステアリングの横に埋め込まれ、今は、零、つまりゼロ速を示していた。モーターへ電気を流し、サイドブレーキを引きながら吹かすと、オーディオシステムから唸るような低音が出力された。そのままギアを一速に入れる。表示は壱になる。変な気分だ。なんでモーター制御なのにギアなんか噛ませたのか。だがいい趣味なのは否定できない。左手を大きく飛び出たサイドブレーキから離すと、後輪がスキール音を立て空転し始めた。カウンターを当てながら減速し、姿勢を制御しつつ駐車場を降りてゆく。サイドウィンドから見える、階層の隙間から原色の風景が規則正しく漏れ出していた。ストリート、夜の闇に一筋の光が快音と共に流れていく。


 長い間、走り続け、遂に郊外のとあるアパートだ。背の低い賃貸で二百八十八階までしかない。なぜ、この貧乏な建物に用があるのかというと、それは俺の唯一の理解者であり、命の恩人であり、ループの起点である、人が住んでいるからだった。腕時計を確認。今は六時十分。あと少しでドローン部隊が来る。彼女は、殺されることになってる。―――――― そのところを颯爽と現れた謎の男に助けられることになっているのだった。

 腕のボタンを押すと、電子メモ帳が開いた。


【やることリスト】

・階段の中腹にハエトリグモが這っているので捕まえること。動物が貴重なこの世界では金になる。

・その金で武器を調達する。武器の種類は………………



 ここからが難関だ。

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未来都市2222 高黄森哉 @kamikawa2001

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