エピローグ(プロ十年目)

スタートライン

 いいチームになってきた。

 新しく迎えるシーズン、ソラやアラハに憧れて、高卒のちょっと面白そうな日本人選手が三人入ってきた。三人はまだツールに出場する事は出来ないが、新しい力はチームに活気を与えている。

 チーム内でのライバル心とリスペクトする気持ちはチーム全体にしっかりと浸透している。


 ソラは十七歳でプロになって、かれこれ十年目を迎える。

 新しく入ってきた彼らを見ながら十年前の自分を思い出し、ちょっと恥ずかしい気持ちになった。それと同時に「初心忘れべがらず」と気持ちを引き締めていた。


 ツール・ド・フランス。

 今年もこの舞台に立つ事が出来た。

 チームプレゼンテーションで昨年と同じMCがソラにマイクを向けてきた。

「昨年、私が『大怪我からの復活、お帰りなさい』って言った時に、君は『今年は一週間しか走らせてもらえないし、まだまだなんだ』って言ってたね。今年はエースナンバーを付けて走るって聞いているから『お帰り』って言っていいのかな?」


 ソラがマイクを握った。


「戻ってきたよ。ただいま」

 日本語でゆっくりと答えた。そしてリピートした。

「I'm Back.」

 会場が揺らめいた。みんながソラを応援している。

 テレビを観ていたタケルがソラに向かって言った。

「お帰り」と。


 MCが「今年のチーム戦略は?」と続けた。

「まだ総合争いを出来る力は無いんだ。だけどチームはオレをエースに総合十位以内を狙う。それがチームの第一の目標だけど、選手全員がアシストに縛られる事なく、チャンスを伺ってステージを狙う。守る物なんてないから、チームでガンガン攻めてレースを盛り上げるよ」

 会場のボルテージは最高潮に達した。ここはフランス。それでも日本人のソラはみんなに愛されている。


 昨年、エースナンバーを外されたシアンエルーのプティも、ライバルのレオナードも、今年はエースナンバーを付けて走るらしい。

 ソラは闘志を燃やしている。

「チーム内の熾烈な争いを勝ち取ったんだな。凄いな。オレは自分のエースナンバーに誇りを持って、思い切り彼らに挑んでやる」と。

 


 その日の夜、ホテルの部屋に戻ってスマートフォンを見ると、一件のメッセージが入っていた。

 ダイチさんからだった。今迄一緒にいたのに何だろう? 忘れていた連絡でもあるのかな?

 そう思ってページを開くと、ツールのマスコットのようなライオンがハートマークを持っていて、画面いっぱいに赤とピンクのハートが飛び出してきた。

 ソラは驚いて、危うくスマートフォンを投げ落としそうになった。

「ダイチさん、少女趣味か?」

 笑いながら呟いた。

 

 短いメッセージが入っていた。

「お帰り、ソラ。ようやく本当のスタートラインに立てたな。ここからだ。三週間頑張ろうな! ダイチより」


 ソラの目に、キラリと光る何かが宿った。


 完

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リスペクト 風羽 @Fuko-K

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