運命の迷宮:二人の遭難者

「とまあ、そんな感じでここに辿り着いたわけよ」


「そのニホンジンという種族は知りませんが、あなたもなかなか大変な境遇だったんですね」


俺はこれまでの経緯を目の前の女の子に喋りかけていた。人とちゃんと話すなんていつぶりのことだろうか。下手したら最後に喋ったのって、親方に小声で「このハゲが…」と呪詛を宣った1ヶ月前とかそのレベルだったわ。ちゃんと話せてたかな。久々にまともな会話ができる相手にコミュ障とか思われたらマジで立ち直れない。


「どうやら私のいた世界はあなたのいた世界とは違うようですね」


そう言った女の子の容姿は、その発言を信頼させるに足りるものだった。

光沢のある金髪ロングの髪型に、雪のように白い肌、宝石のように輝く紫紺の目、おまけに長い耳。ここまで要素が揃っていると、前世で日本人の知識を持っている俺から導き出せる結論はたった一つ。

そう、エルフである。あの、エルフさんです。

こんなにもテンプレな存在がまさか現実に現れるなどとは思いもしなかった。実際に聞いてみたら彼女は種族名はハイエルフという種族らしく、普通のエルフよりもさらに長命な種族であるらしい。普通のエルフすらよく分からんが。

そして何よりこのエルフ娘、明らかに幼い容姿をしている。人間代にすると大体10〜11歳というくらいの年齢にしか見えない。しかもなんと中身はもう50年ほど生きているという。

エルフでロリっ娘で中身50歳とかいうとんでもない属性の宝石箱や。日本の拗らせた大人たちが見たら卒倒してしまいそうだ。なんとも危ないやつである。ちなみに俺にはそんな特殊な性癖はない。むしろ生まれてこの方巨乳お姉さん一筋だ。


話を戻そう。


彼女の話を聞いていくと、やはりどうも世界が根本から違っているということがわかってきた。彼女のいた世界では、エルフ意外にも人間はもちろんドワーフやワービーストなど多くの人種がいて、その他にも精霊や魔獣など俺の知らない謎生物も存在していたとか。また、魔素と呼ばれるエネルギーが大気中に満ちていて、これが人々や生き物の生命の源となっており、魔法を行使することだってできるとのことだった。まさにファンタジーと呼ぶにふさわしい世界だ。

前世と今世のどちらも人間しかおらず、魔法なんて言葉すら忘れていた俺の生きてた世界とはえらい違いようだ。なんでこんなにも違うんや。おかしいやろ。


「それにしても、ここは一体どこなんでしょうね」

「それな」


何やら鳥の声が遠くから聴こえてくる。

川のせせらぎ、木々が風で揺られ葉が擦れる心地よい音がする。こんな自然の豊かな音色を聴いたのはいつぶりだろうか。音だけではない。陽の光が木々の間から差し込んでいて気持ちがいい。ただ自然に触れていることがこんな気持ちがいいものだったとは。思わず涙が出そうだ。


「なんで泣いてるんですか!?」

「す、すまん。久方ぶりのストレスフリーな環境に思わず涙が出ちまった」


おっと、本当に涙が出ていたらしい。さっき会ったばかりの見た目ロリの少女(50歳)の前で泣く一般男性の図とは、まさに現代の地獄絵図だ。ドン引きされる前に話を変えなくては。


「にしても、これからどうすっかね」

「お互いなんとなく境遇は把握できましたが、ここがどこなのか、なぜここに転移させられたのか、不明な点が多すぎますからね。ここも自然が豊かなように見えますが、どうやら人工物のようですし」

「え?これ人工なの?」

「はい。先程から鳥の声らしきものは聞こえますが、動物はこの辺りにはいないようです。近くのものに生体反応はありませんし、何よりこの空間には生命の根源たる魔素がありません。」


なんとびっくり。このノスタルジーな風景は誰かの作った仮初の環境だったらしい。俺の涙を返して欲しいもんだ。


「その魔素とやらはよく分からんけど、これが人工物ってのは信じられんなぁ。俺のいた世界みたいに魔素のない世界っていう線も捨て切れないんじゃないか?」

「魔素のない世界、俄かに信じがたいですがそういうこともある、のでしょうか…?」


彼女は魔素のない世界というものがイマイチ釈然としない様子だった。言われてみれば、「俺の世界には酸素なんてなかったぜ!」と言われているようなものなのかもな。どんな宇宙人だよ。


「これは考えても埒が空きそうにないな」

「そうですね。あと私たちに共通する点といえば、例の『黒い穴』でしょうか」


『黒い穴』、か…。


話を聞くと、どうやら彼女も俺と同じようにあの謎現象に巻き込まれたらしいのだ。彼女の場合は仕事で遺跡を探索していた時に、最深部に『黒い穴』が発生、一緒に探索していた仲間達もろとも飲みこまれたのだとか。てか仲間の人たちもここにいないってことは、バラバラに転移させられたってことか?ますます分からん。


「魔力も感じられなかったのに、瞬時に周囲に展開。私たち全員を巻き込んで大規模な転移を可能にしていた。一体アレの動力はなんなのか、そして発生原理はどうなっているのでしょう…。」


彼女は学者気質らしく、『黒い穴』について知的好奇心を抑えられないのか考え込んで一人の世界に入ってしまった。脳筋野郎どもの中での生活に慣れてしまっていた俺はすっかり置いてけぼりだ。にしても、エルフ、金髪、ロリ、中身50歳、インテリ、うーん数え役満。


「ま、とりあえず歩いてなんか探してみようぜ。あの穴の謎が判明するかもしれん!」

「そう簡単に行くとは思いませんが。まあいいです、確かにやれることがないのも事実ですし。少し探索しましょうか」


そうして俺たちはこのよく分からん空間を探索することになった。
















と、その前に。


「そういや君の名前なんだっけ?」


彼女は呆気に取られた後、蝋燭の火を消し飛ばせそうなほど大きなため息をついた。


「最初に申し上げたのにもう忘れたんですか?はぁ、まあいいです。『ミア・パーシバル・スノーホワイト』、これが私の名前。「ミア」と呼んでもらって結構です」


こうして、ミアと名乗る少女との先の見えない冒険が幕を開けたのであった。

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渡る世界を鬼が征く 町田研人 @machida_kento

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