秘密のおやつ 飴一つ

愛奏

第1話 赤ずきん

誰も寄り付かない路地裏の暗がり


「こんにちは ここで何してるのですか」


「ああ、、気にしないでくれ猫さん」


「私の言葉がわかるのですね」


「どういうことだ?」


「私は使い猫のリーチと申します。ご主人様があなたをお待ちです。ついてきていただけますか。」


不思議なこと言う猫だ、、、まあ、気分転換くらいにはなるだろう…


そう思いながら 俺はついていくことにした。


かれこれ10分は歩いたか…


「あとどれほど歩くんだ?」


「もうすぐですよ」


灰色のメス猫についていくと 小さな喫茶店についた。

入口の扉には「どなたでもどうぞ」と書かれた看板が掛けられている。


静かに扉を開け店内に入ると 店の奥から10代くらいの小柄な眼鏡の女性が現れた。


「お待ちしておりました!こちらにおかけくださいな」


あまりにも元気な声に俺は驚いたが、自然とあしはカウンター席へと向いた。


「私は彩華といいます。」


眼鏡の奥で一重の目が ふにゃんと、より細くなった。


「素敵なおおきなみみですね」


「あ、、これは、、、」


俺はいびつな形になった自分の耳にふれた 

何かのいきものにでも食われたか部分的に無くなった箇所がある。


「よろしかったら お話してくれませんか。」


ほんとに風変わりな女性だ…


俺は恐る恐る 話を始めた。




物語は木漏れ日の揺れる穏やかな森の中で始まった。

最近の楽しみは、森の草花を見つけに散歩すること。


その日もかあさんの形見である植物図鑑をもって家を出た。


道端に小さな黄色い花。この花は図鑑を開かずともわかる


「たんぽぽ、、、」


「ふふ、、大正解さ」


うしろから大好きな声がした


「おはよう」


「おばあちゃん おはよう」

 

幼いころから一人だった俺におばあちゃんはいつも優しくしてくれる。

まさに本物の孫のように、、、

俺みたいな 大きな目や耳、口はないけれど 

笑うと細くなるその目が大好きだ。


「それじゃあ、私はもう行こうかね」


「もう行っちゃうのか?」


「ああ、今日はね久しぶりに孫がくるんだよ」


そういうと、今までに見たことのないほどやさしく微笑んだ。

しかし、その笑顔は俺に向けてではない。


本当の孫にはそんな顔をするんだな…


「そうか、、、それははやく帰ってやんな。この辺には性格のまがったやつも多い」


「そうなのかい?おまえさんも気を付けなさいな。じゃあね」


「ああ」


そういうとおばあちゃんは 坂道に向かって歩き出した。

おばあちゃんの家は坂道をのぼった先にある


一人になると途端にさみしくなった。

かあさんが死んでから俺は孤独というものに弱くなった気がする。


「あの花は、、」


数歩先の木の根元に愛らしい青い花を見つけた。

俺はその花を前にしゃがみこんだ。近くで見れば見るほど美しい。


そうだこの花をおばあちゃんに持っていこう。。。

俺はその花を一輪 摘んだ。


俺が坂道に向かって歩いていると

少し前に赤い頭巾をかぶった少女が歩いていた。

緑色に囲まれたその色は俺にとってあまりにもまぶしく感じた。


もしかすると彼女が…


そうおもったが早いか 少女が振り向いた。


「あなたが、おばあちゃんの言ってた おおかみさん?」


「君が、、、おばあちゃんの、、」


「おばあちゃんは 私のおばあちゃんなの、あなたのじゃないわ」


俺は驚いて声が出なかった。

何を突然 言い出すのかと思ったら、、、そういうことか。


「何か言えないの? とにかくもう おばあちゃんに近づかないで、あなたみたいな獣 いつ人間を食べるか知れたもんじゃない」


わかってる 俺は獣だ。

彼女のおばあちゃんをおもう気持ちも 失う怖さも 痛いほどわかる。俺と一緒だ ただ違うとすれば もらってる愛の大きさ。この子は本物 俺は偽物。


「すまない、、、もう会わない ただこれを渡してくれないか」


俺は青い花をさしだした。


「わかったわ、あなたからの別れのプレゼントとして渡しとく。もしそれでも、あなたがおばあちゃんに会っていたら おなかに岩でも詰めてしずめるわよ」


そういうと 少女は俺の返事を待たずに

向きを変え 再び歩き始めた。


おばあちゃんに会えなくなるのなら それでもいいのかもしれない…


「ああ、そしてくれ。」


俺の大きな口には似つかわしくないほど 小さな声で返事をした。

声の小ささは俺の意志の弱さを あらわしているようだった。


「最後か・・・」

思わず言葉が漏れてしまった。

いつだって さみしさを忘れさせてくれるのはおばあちゃんだった。


最後に一目だけ 声だけでもいい 会いたい・・・

赤い頭巾の少女がおばあちゃんの家に着く前に。。。


俺は知る限りの近道を使って 急いだ。


道をそれて森の中に入る。生い茂った草木が足に絡まった。

木の枝が右腕に ひっかり真っ赤な血がにじむ、その色はまるで少女の頭巾のようで俺の気持ちを焦らせた。


坂道をのぼった少し先に緑色の屋根がみえた、おばあちゃんの家だ。

あたりを見渡したが少女の姿はない。 

俺は足を動かした、できるだけ大きく足を動かして目前の家まで急いだ。


古びた扉の前で俺は 呟いた。

「おばあちゃん、、、」


「はい? その声は、、、 今開けるかr」


「待ってくれ そのままで あけないで。 おれはお別れをしにきたんだ」


「何を言ってるのか 意味がよくわからないわ!」

勢いよく扉があいた。


ああ、開けないでって言ったのに、離れがたくなる。

いっそのこと 嫌われてしまおうか。でもそれは 俺にとって酷すぎる


「とにかく!もう会えないんだ!!」


俺は大声で叫んだ。その声は獣の雄たけびに近かった。

おばあちゃんはびっくりしたような、おびえたような顔をしている。


しまった、、そんな顔見たくなかった。ああ、もう、、、俺は、なんで・・・


そのときだった。


「何やってるの?」


道の先に赤い頭巾の少女が立っていた。


「にげなさいっ!!赤ずきん!」


おばあちゃんが叫んだ。

そっか 今 俺はおばあちゃんにとって危険物として見られているのか。。。


悲しみにもまさる不思議な感情が俺の中で暴れようとしていた。

体中があつい・・・


あがぁっっ!!ぐ、、


気づいた時には遅く。その時にはもう俺の牙はおばあちゃんの首元に刺さっていた。

血の匂いとおばあちゃんの匂いが混ざり合っている。


このまま食ってしまうか、、、 そして一緒に死のう。

脳裏を おばあちゃんの笑顔がよぎる。



ドンッッッ!!!


大きな音がした。


「麻酔銃じゃないほうがよかったか?」

「それでかまわないわ。はやくおばあちゃんを部屋に連れていきましょ!」


右下腹部に重い痛みがあった。どうやら少女は猟師を連れてきたらしい


もう、立ってられん。。。気が遠くなる。。


俺はその場にくずれた。


目が覚めたときには 腹部に新たな違和感を感じていた。

臓物がぐちゃぐちゃになっているのか・・・もはや痛いのかもわからない


「あ、猟師さん 目が覚めたみたい」


「じゃあ運ぶか… ほんとにいいのか」


「何が?」


「なんでもないよ」


「そう?」


言葉を発する気力なんてもうとっくになかった 

最後に聞こえたのはそんな会話と俺が水に沈む音だけだった…





話し終えて、眼鏡の彼女を見ると最初の笑顔となんら変わった様子はなかったが、

かすかに瞳が 揺れている気がした。


「ぜひ召し上がってみて」

そういうと俺の目の前に小皿を置き その上に一粒ビー玉のようなものを置いた。


それを口に含むと なぜだか 涙があふれ出てくる。


俺はなんて情けないのだろう。こんな飴玉一つで、、、


そう思っていると 彼女が話し始めた。


「この飴玉 forget-me-notといって原材料に勿忘草を使用しているんです。あなたの見つけた青い花 勿忘草というのではないですか」


ああ、そうだ あの花は勿忘草だ。昔おばあちゃんに教えてもらったんだ・・・


「勿忘草の花ことばは 真実の愛」


「真実の愛?」


「そう、きっとあなたの思いは おばあ様に届いていますよ 血のつながり=家族じゃない。愛に大きいも小さいもなくて 愛を感じれたそれだけで幸せじゃない?」


差し出されたハンカチはたんぽぽの香りがした。


俺は断られる覚悟で聞いた。

「すまないが、 俺をしばらくここにおいてくれないか、、、」


「いいですけど かわりに何かしてくれます?」

意外な返答だった。


「、、、いいのか? 俺みたいな醜い狼」

凸凹になった自分の耳を思い出し、ふれてみる。


「その耳 やっぱりすてきよ!あなたみたいな耳の持ち主どこの世界にもいないわ」


彼女はニカッと笑った。 その笑顔にこれから俺は何度救われるのだろう。


「あなたに手伝ってもらいたいことがあるの、おねがいしていい?」


「ああ、もちろんだ」


そうやって俺の新しい物語の表紙が今めくられた。





ここは誰も寄り付かない 路地裏の暗がり

灰色の猫についていけば そこには小さな喫茶店


「どなたでもどうぞ」


その看板がいつでもあなたを待っています。





第一話 赤ずきん






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秘密のおやつ 飴一つ 愛奏 @erwin10140812

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