第10話 音打放出‼︎

 精鋭達が一度に倒れた。少しやそっとじゃやられない猛者ばかりの筈なのだが。


「...一体何した?」


「…分からんか、楽器を倒す方法など皆同じ。

音を奏でただけの事」

88の壁を作れるという事は、それをそのまま放つ事も出来る。数など関係無い、単純な力の差だ。


「お前には出来ないだろう?

多くの音は複数が奏でた音、一人で演奏するのは不可能だ。」

ここでも尚多対一。弦の連中はこういった構図が好きなのだろう、もうウンザリだ。


「目的はなんだ?」


「..何?」


「世界を獲る目的だよ、なんでこの音まみれの世界をモノにしたいんだ?」

支配する理由がわからない。強者として君臨さえしていれば、神などになる必要は無い。


「過去を払拭する為だ」


「過去?」


「私の前世は酷いものだった。

侮辱され罵られ、しまいには親にも捨てられた。汚らわしくていらないんだそうだ」

聞いてみるものだ、面白いようにつらつらと過去の話をしてくれる。


「私はその世界に耐えきれなくなり、自ら死を選ぶ決断をした。」


「..自殺か、俺も考えた事あったな。」


「何だと?

..成程、道理で周りより音の力が強く...」

以前シロフォンが言っていた

過去に闇を抱えている程音の力は強い。しかし殆どの楽器は力の数値を見せない。というより〝見ることが出来ない〟。


「強過ぎると数値はアテにならない。

そうか、元々値を数字で表せないからか」

船長及び船員は既に数値で計測する範囲を超えている、参考にならないサンプルばかりだ。


「なんだ。どんな壮大なワケかと思えば、俺と対して変わらねぇじゃねぇか」


「何..?」


「悪りぃがオレも日の目を浴びたくてな、ぶっ壊させて貰うぜ。花形楽器さんよ」


「..シンバル如きに何が出来る。」


「知らねぇのか?

その如きがここまでその力一本で登りつめて来たってのに、情報不足もいいところだね!」

シンバルを叩く。

一打二打三打、鳴り止むことの無い弾ける音が空気を響かせ揺らしている。


「無駄だ、幾ら音を奏でようと壁をすべて割る事は出来ない。..何も抵抗しなければ一撃で終わらせてやる、陰キャの極みよ。」


「アンタも人の事言えねぇだろ!

それによく聞いてろ、俺の音は一つじゃねぇ」


「一つじゃないだと?」


「ま、今更気付いても遅いけどな。」

壁が一気に砕け壊れる。

80以上の音壁が、ただの一撃に沈む。


「なんだ..これは...!?」


「だから言っただろ、よく聞けってよ」

耳を澄ますと聞こえる音は、先程船を揺らしていた賑やかなオーケストラの曲。


「おかしい、何故奴らの音が聞こえる?」


「俺の〝五打目〟だ。

お前の聞いた曲は全て、俺が録音した」


「録音だと?」

シンバルの五打目、相手の過去に聞いた客を録音し演奏する。五打目以降の打音は全て過去の音に変わり、音階も関係ない。


「もう一度だ、ほらよ!」


「くおっ!」

皆の一斉演奏が物理的に直撃し、傷を追う。

吹き飛ばされ倒れるも直ぐに立ち上がり、88の音をシンバルに放つ。


「なんだ、たった88か、少な過ぎるぜ!」

シンバルの一打は既に数を超えている。

やはり言った通りだ、数で表す力はタカが知れている、まったくの正論である。


「音が通らない..?

くそっ、何なんだお前は!」


「知ってるだろ、シンバルだよ!」

シンバルを叩く。叩いて叩いて音を盛大に響かせては叩いて叩く。ピアノは反撃の隙も無く音をモロに受け続け、自らの音を止める。


「..まだ立ってられんのかよ。」

シンバルの音を止めても、ピアノが完全に壊れる事は無かった。血を流し、息荒く無残な姿を晒そうと負ける事は決して無い。それ程までに世界への執念が強いのだ。


「...それで、勝ったつもりか....?」

ピアノの鍵盤を指で押す、しかし音は出ない。


「なっ..」


「もう無理だ、お前の音は割れた。

もう花形じゃねぇんだ、諦めろ」


「私が花形じゃない?

嘘だ..私が、お前なんかに....ありえないっ!」

発狂し頭を抱える黒い女楽器。こうなっては仕方ない、有るべき形をとるべきだ。


「..アンタを迎えに来たぜ」

シンバルを鳴らす。複数の黒い影が、ピアノを囲むように現れ睨み付ける。


「あ..あぁ、お前達っ!」

過去に殺めた弦の船員が一斉にピアノに覆い被さる。黒い風呂敷に包まれながらも抵抗し暴れ続ける。まるで赤子のようだ


「離せ! やめろ..近寄るなぁっ!」


「行き先は列車の中だ。

行き先の無い行き先だけどな」

黒い影はピアノを巻き込み一つの大きな球体となると、甲板の床な溶け込み消えていく。


「終わったか..悪化無いもんだな。」

 実質天下を獲ったシンバルだが、これから先はどうするのか。花形を悠に超えてしまった後は消耗するだけの人生が続く。


「..仕方ねぇ、暫く船に乗ってるか。

女との決着も結局怪しいもんだしな、船員でいながら見定めてやるぜ。」

最強のシンバルは結局、通常の生活を選んだ。

船の上で、空を眺めながら。


「暫く厄介になる。

頼むぜ、船長さんよ」

シンバルは気付いた。

シンバルは、オーケストラが一番向いている。


                 「完」

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楽器界に転生したオレはまさかのシンバルだったので、随一の音色を奏でる事にしました。 アリエッティ @56513

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