人には言えない性癖を抱えて生きる人々の影

 ニッチな特殊性癖(の数々)に特化した映像作家と、その要望に答え続ける女優のふたりを、アルバイトの撮影助手の視点から眺める物語。
 現実の、どこかの日陰にある世界を描いた現代ドラマです。アンダーグラウンドではあるけれど、バイオレントでもアンモラルでもない日陰の世界。その境界から見える風景を、決して教条的でも重苦しくもなく、あくまで穏やかに綴っているところがとても魅力的でした。
 人には言えない特殊な性癖。ディレクターである慧佑さんの撮った作品の、その数だけ人知れぬ〝クロゼットの奥〟が存在する、ということ。作中に直接は登場しないものの、でもその作品を何より必要とする〝彼ら〟の、その実在を思わせてくれるところが本当に好き。彼らは私たちの身近な隣人であり、また同時に私たち自身でもあるのだ、という事実。
 また、それとは別に、単純に登場人物たち自身のドラマも魅力的です。慧佑さんの信念、女優の茉凜さんの抱えた特質に、その結果としての今現在のふたりの関係性。そこに関わることとなった主人公の、その胸のうちに生まれる何かというかもう最後の大オチ! 読み応えがあり主題も強く、でも優しいお話であるところが嬉しい短編でした。