交際を断られ続けて早十数年、それでも僕は君が好き。
さーど
【好きだ──】
「好きだ」
愛の言葉。
どれくらいこの言葉を述べたかなんて、今になってはもう忘れてしまっていた。
これからも言い続けるであるというのに、数えることがバカバカしくなったんだ。
「……うん」
だけど、伝えた相手の返しは頷きだけ。
もう、彼女は僕の言いたいことが簡単に予想出来ているはずだ。
それがわかっていても、いや、だからこそ僕は続けてこの願望をぶつける。
これに関しては、これから言い続けるのは精神的に辛いものだ。
「付き合ってくれないか」
告白。
俗に言う、これに当たるとは思っている。
数えてはいないが、「好き」寄りかは彼女に伝えていないであろう言葉だ。
だけど。
「……ヤダ」
「……そうか」
無表情のまま、断られてしまった。
心に来てはしまうけれど、僕はそれを表情に示すことなくそう相槌をうった。
理由を尋ねる、というのは、もう既に野暮だと分かりきっているから、しない。
告白→拒否……この流れを毎日一回はして、早十数年が経っていた。
毎日一回はしている通り、僕は断れているにも関わらず彼女は好きのままだ。
しつこい男、と言われればそうなのだが、交流は彼女から絶たないでくれている。
それに、あの言葉のこともあった。
『好きと言われて、迷惑?』
『……迷惑じゃ、ない』
……いつ言われたかは忘れてしまったけど、たしかに彼女からそう言われた。
彼女がどうしても好きな僕は、それを真に受けて、今でも告白を続けているんだ。
だけど。
「なあ」
断られた後、僕はとあることを彼女に訪ねようと試みる。今日が最後の日だからだ。
彼女は首を傾げて、答えを促していた。
「好き、と言われるの、やめて欲しいか?」
「付き合って欲しい」ではなく、「好き」という、少しひねくれた尋ね方だ。
だけど、その違いが大事だと思っている。
「……やめて欲しくは、ない」
彼女から帰ってきたのは、否定の言葉。
それを聞いて、僕は頷いた。同時に、とある決心へと辿り着く。
「じゃあ、また明日ね」
「……うん、また明日」
□
「好きだ」
翌日。
やっぱり今日も、僕はそんな愛の言葉を彼女へと告げる。
だけど、緊張で汗が滴る手には、いつもと違う覚悟の結晶が握られていた。
「……うん」
やっぱり、帰ってきたのは頷きだけ。
ただ、その瞳には、少しばかり期待と不安という色が点っている気がする。
今から僕の告げることを、彼女が予想してくれているのかは分からない。
いつもより告げる時間が遅く、気持ちも違うから、してくれていないかもしれない。
……これから言うことは、どうかこの一回だけにしてほしい。そう、思った。
そして、握りしめられた覚悟の結晶を、彼女の方へと差し出す。
「結婚してくれ」
彼女にとってはその日から二年は経つが、僕にとっては今日が最初の日だ。
昨日決心を決めてから、緊張はあれど迷いという文字はもはやなかった。
「……うん」
だけど、帰ってきたのはそれだけ。
ただ、拒否ではなかった。そこだけ違い、そして一番重要だった。
彼女は僕の方に近づくと、片手を取って覚悟の結晶を持たせてくる。
そして、自らの左手……その薬指にそれを宛てがうと、見たことの無い笑顔を浮かべる。
「幸せな時も、困難な時も。富める時も、貧しき時も。健やかなる時も、病める時も。
……死があなたと分かつまで、私はあなたを愛して、慈しみ、一緒にいる」
僕は彼女の言葉を聞きながら、ゆっくりと、宛てがわれた薬指に証をはめ込む。
彼女ははめ込まれた薬指を慈愛の瞳で眺めると、左手を握ってこちらに微笑んでくる。
「これから関係を変えることなく、あなたと一緒に。ずっと、ずーっと、一緒に」
交際を断られ続けて早十数年、それでも僕は君が好き。 さーど @ThreeThird
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