第7話ホ腹飽満

叔母の家での生活は、私達キョウダイにとって幸せなものだった。

 それは嫌な事を忘れ楽しく生活していたと言う意味だが、裏を返せばあの事件を無かったかの様に演じていた生活でもあった。


私達が居るから4歳下の従姉妹の咲音さきねちゃんですら気を使って生活を演じている。

 それは優兎ゆうとも感じていたみたいで、私達は迷う事なくこの家を出ると言う結論に至った。


こうして私達は親の残した遺産を使いマンションの一室を借りた。


私は弟と二人暮らしを始めても外に出る勇気が出ず

時間はあっと言う間に過ぎ1年が過ぎていた。


そんな中、弟が私のリハビリに付き合うと言ってくれせっかくの休みを付き合ってくれた。


そんなリハビリの散歩は、私にとって思いもしない人との再会を果たした。

それはかえでだ。

楓と再会した事により私は益々社会復帰に力を入れた。


優兎は

「俺が居ない時は絶対に外出ちゃ駄目だよ!」

と言っていたが、優兎の休みを削らせる訳にはいかず

私は優兎には内緒で外を出歩く様になっていた。


優兎がバイトに行って帰ってくる時間は大体分かって居るので、私はそれに合わせる様に散歩に出た。

 だが、身体は私の思っている様には動いてくれず全然予定通りには進まない。

優兎と一緒に行った公園までを歩き少し休んでまた帰る……私の計算では1時間半もあれば大丈夫な筈なのだ。


でも実際はそれ以上かかってしまい、帰宅後シャワーを浴びて部屋で着替えていたら優兎が帰ってきて驚いた。

内心『バレてないよね?』とドキドキしたが、バレてはなかった。


その日、優兎が私に働く事を勧めてきた。

正直、社会復帰しようと頑張り始めてたタイミングだったのでチャンスと思った。

働けば嫌でも体力が付くし今まで弟に頑張って貰ってた分も返す事が出来る。

しかも給料も中々良いので、まさに私にとっては神のお告げと言った所だった。


私はすぐに面接の予定を取り付けた。


面接当日、なんとか地図を見ながらレストランまで辿り着いた。

電話で話した時、裏口が開いてるから入ってきてくれと言われていたので裏に回った。

 すると裏口には、面接官なのかスーツ姿のとても綺麗な人が立っていた


古野美帆乃ふるのみほのさんですか?」

その綺麗な人が私を見るや声をかけてくる。


「はい、今日面接をさせて頂く事になっている古野美帆乃です」

私は自分が思う礼儀を丁寧にする。


「自分は霞憐かすみれんです。ここのオーナー代理となる予定です。着いてきてください」


オーナー代理!?私は心の中で驚く。

そんな人が面接官なんだ…大丈夫かな?

それにしても霞さんって綺麗な人だなぁ…女性だけの職場ってチラシに書いてたけど顔面偏差値も高くないと駄目なの!?


そんな事を考えながら霞さんに着いて行くと一つの扉の前で立ち止まる。


コンコンコン


と3回扉をノックし霞さんは

「連れてきました」

と、言いながら部屋に入る。


私は

「失礼します」

と言い部屋に入るとそこにはテーブルと椅子が何個かあり一つの椅子に綺麗な女性が座っていた。


「あら、憐ちゃんお疲れ様。ありがとね」


「ちゃん付けはやめてください!さぁ、古野美帆乃さん座ってください」

と、先に椅子に座っている女性と対面する場所の椅子をずらし霞さんは私を誘導する。



「すいません」

と頭を下げ私は誘導された椅子に座りながらもオーナー代理の霞さんに対して親しい物言いだなぁ…と警戒する。


「私はこう言う者です」

目の前に座る女性が名刺を渡してくる。


その名刺を見ると水無月育穂みなづきいくほと書かれていた。

幾らなんでも私でも分かる…水無月育穂ってあの水無月育穂さんだ!

先程の霞さんに対する話し方もこれで納得した!

私は、急に緊張をしてしまう。


「ふ、古野美帆乃です…」

多分私の声は震えてる。

そりゃそうだ、目の前に居るのはあの水無月育穂さんだぞ?緊張しない方がオカシイ。


「あらあら緊張してるのね?リラックスよリラックス〜」

そう言ってはくれるが私の緊張は解けない。


「憐ちゃ〜ん?一応プライバシーだから…ね?」


「はぁ…ハイハイ、では外で待機してます」

相変わらずのちゃん付けに呆れたのか、ため息を吐いて霞さんは部屋を出て行った。


「じゃあ面接始めるわよ?」


こうして私の初の面接が始まった――



面接は優兎の乱入と言う形で途中で終わってしまったが、何とか合格を頂けた。

因みに面接の内容はただの雑談だった。

何でここを選んだの?と言うありきたりな質問は有ったが、それからは普通に雑談していた。

色んな事を話した。多分そう言うのを話して人となりを探ったのだと思う。


2週間後の仕事に向け私は優兎に内緒の散歩を続けた。


そんなある日、私は男性二人に囲まれた。

以前までの私は男性と対面するだけで危なかったが、トラウマも少し克服してきたのか何とか立っていられた。


「お姉さんさぁ〜かなりのマブじゃーん!俺達と遊ばない?」


茶髪の二人組で絵に描いたような不良の見た目をしてありきたりな事を言っていた。


確かにあのトラウマは克服に近付いているのかも知れないが、普通に男性に囲まれるのは怖いので私は震えていた。


「お姉さんほら遊び行こ行こ」

そう言って私は手を握られる。


「や、やめてください!!!」

恐怖を抑え必死に声を絞り出すが、そんなのお構いなしに私の腕を掴む。

周りを見ると皆下を向き見てないフリをして早足で駆けていく。

 そりゃそうだ、わざわざ危険な場面に首を突っ込むはずがない…と、周りからの救援を諦めかけたその時



「その人嫌がってるだろ?放してやれよ!!」

と声が響いた。


「あ?誰だよ良い所なのによ」

と悪態をつきながら不良2人は声のする方を見る。


私も一緒のタイミングで声のする方を見た。

するとそこには、スーツの様な格好をした長い黒髪をポニーテールに結んだ女性が立っていた。


「うひょー!そっちの彼女もマブじゃん!!丁度俺ら二人居るしこれで2・2じゃん!!」

「マブ過ぎてキュンでーす!!」

 と、不良二人が盛り上がる。


私は助けに来て貰って居ながらも、女の子じゃどうしようもないから誰か警察とか連れてきて欲しかった…と、心配する。

だが、この心配が思い過ごしになるとは思ってもみなかった。


「最終警告だ!その人を放しどこかに消えろ!!!」

私を助けにきた女性は臆する事なくそう言いながら男性2人の前に立ち塞がる。


「おいおい〜駄目だよ〜可愛い女の子がそんな顔しちゃ〜」

「そーそー!ほら笑顔笑顔」

不良二人は、女相手だからと舐めた態度を取っている。


「私は忠告したからな?」

そう言って鋭い目線で不良二人を射抜く。


「ちっ!メンドクセー!!生意気な目しやがって!」

そう言って男は女性に殴りかかる。


私は思わず目を閉じてしまう。


バチィ!!


強烈なパンチが当たった音が響いた。

こんな強烈な音聞いた事ない…私は女性の顔が大変な事になってると思い目を開けるのが怖かった。



「なっ!?て、テメェ!!!」


バコォ!!


更にもう一発重くて鋭い拳が当たる音が響いた。

……あれ?でも待って…目を瞑ってるが、違和感の様な物を感じる。

どうも私を助けにきた女性が、やられた感じじゃないぞ…??


場の空気の様な物を感じ取り私は目を開ける事を決意した。

目を開けるとそこには、不良二人が倒れていた。

女性は{パッパッ}と手をはたき、事が終わった事をアピールしていた。


「もう大丈夫ですよ」

先程のドスの効いた声とは違う優しい口調で私に言う。


「あ、ありがとうございます……」

この光景誰がどう見ても女性が不良二人を倒したと分かる。私はその現実に戸惑いながらも感謝を告げる。


「あれ?ってか美帆乃みほの先輩?」


「え?」


急に私の名前を呼ぶその子は、私を先輩と呼んだ。

って事は後輩??でも見覚えがない……


「あ〜…私ですよ雪那瀬ゆなせです」


雪那瀬?…私の知る雪那瀬と言う名前は、弟の幼馴染の雪那瀬朋美ゆなせともみちゃんしか居ない。

でも確か朋美ちゃんって髪を金に染めて…所謂レディースと言うかヤンキーと言うか…そんな子になってた筈。

でも目の前の子は、そんなヤンキーとは思えない綺麗な黒髪の清楚な感じの子だ。


いや、でも……朋美ちゃんは元々ヤンキーじゃなかった。

小学生の頃は黒髪で地味な感じの子だった……そっちの子の方で照らし合わせると…………


「えっ!?朋美ちゃん!!?」

そうだ、あの可愛らしい女の子が成長したら目の前の女性の様になるじゃないか!

そこで私は目の前の女性と弟の幼馴染の女の子が同一人物だと確信する。


「でも良かったです。美帆乃先輩を助けられて」


この可愛いらしい女性が、不良二人を倒した事にも合点がいく。

あの朋美ちゃんなら簡単だろう。


「ほんと助かったよ〜ありがとう!!ねえ?ウチに来ない?お礼したいし」


「え?あ、いや、でも……」


「あっ!ごめん!仕事中だった?」


「いえ、仕事は終わったんですケド……」


「ケド??」


「私、昨日優兎に会って…優兎は私の事気付いてない様子だったんです。だから家に私が居たら驚くんじゃないかな〜って…」


「あ、そう言えば今日の朝考え事してた顔してた!なるほどね〜。でもそんな事気にしなくて良いわよ!朋美ちゃんは私を助けてくれた恩人なんだから!!」



こうして私は朋美ちゃんを家に招くのだった。






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