第6話天ホ艱難

私はどちらかと言うと恵まれてる方だと思っていた。


「あら、美帆乃みほのちゃんは今日も可愛いわね〜」


お母さんと一緒にお出かけすると必ずそう言われていた。

子供ながらに褒められて嬉しくなる。

お母さんも私が褒められて嬉しそうにしていてきっと私達は幸せだったのだと思う。


でもその幸せは小学生になってから打ち砕かれるのだった。

保育園児の時は何も考えず男の子だろうが女の子だろうが構わず一緒に遊んでいたけど、小学生になり一つ成長すると異性と言う縛りが出てくる。


小1〜2ぐらいまでは良かったのだが、小3ぐらいの時に友達が好きだと言っていた人に好きだと言われた。

今思い返してもそれが本気の愛だったのかは分からないが、告白されたと言う事実だけが大事で、その友達とは距離を置かれる様になった。


小3〜小4となる頃には、友達と呼べる人は居なくて私に好意がある男子にしか話しかけられなかった。

多分そう言う光景が他の女子は嫌だったのだと今なら分かる。


本当は女の子同士で遊びたいのに誰も遊んでくれない…そう思いながら1人寂しくブランコを乗る日が続いた。


でもこんな私に転機が訪れた。

ある日の合同体育の日にグループを作らないといけないけど、誰にも声をかけられず孤立していた私に声をかけてくれた女の子がいた。


それがかえでだった。

その時何で私に声をかけてくれたのか分からないけど、私には天使……ううん、白馬の王子の様に見えた。


それから楓のおかげで友達も増え毎日が楽しかった。

楓がボディガードをしてくれるおかげで、変な男の子に声をかけられる事も減ったし

楓が男の子だったらなぁ…って思う事もあった。勿論楓は可愛い女の子なんだけどね。


二つ下の弟とも仲良くしてくれたり私の人生は順風満帆だと言えた。

でもその幸せも長くは続かなかった―――



―――そう、私にとっての一番の地獄の日を迎えたのだ。



その日は母親からの電話で目が覚めた。


「良い?落ち着いて聞いて!」

そう前置きをし母親は静かに語る。


「この家に泥棒が入ったみたい。今お父さんが見に行ってるから美帆乃みほの優兎ゆうとの事お願いね?」


言葉は静かに平静を装ってたが、内心はかなり動揺していたのか

 母親は、それだけ伝えるとすぐに電話を切った。


寝起きで{ぼ〜}っとする中、私は二度寝の誘惑を断ち切りながらも何とかベッドから出る。

私と弟の部屋は2階にあり隣同士だ。

だから私は、そーっと扉を開け隣の弟の部屋に入る。


「ぐがぁー!ぐがぁー!」

部屋に入ると弟のイビキが耳に入る。

先程チラッと携帯を見た時に時刻が深夜の2時を回っていたのを思い出す。


そりゃこんなにも熟睡してるよね…と思いつつ弟の体を揺する。

しかし起きる気配がないから仕方なく声をかける


「優兎!起きて!!」

あまり大きな声を出すと危ないので私は小声で言う。

しかしそれでも起きる気配がないので私は弟の頬を{パチン}と叩く


「な!なんだよ!!」

あまりにも急な事で驚いたのか弟が声を荒げる。

私は慌てて口元に人差し指を付け『シーー』と言った。


弟は不思議そうな顔をするも私の必死な形相を見て何かを察する。

だから私は

「泥棒が入ったみたい」

と静かに伝える。


「はっ?泥棒??」

と弟が困惑を隠しきれない時



パリィィィン


と何かが割れる音が響き


「うわああぁぁぁぁ!!!」


と男性の怯えた叫び声が響き渡った。


「今の声!!」

弟と同じ事を思い互いに顔を見合わす。


今の声お父さんの声に似てた…いや、本人の声だ。

正直何かの気のせいだろと思ってた私は、この声を聞いて急に不安に駆られる。

心臓も{バクバク}と早く脈を打ち冷たい嫌な汗が体を滴る。


弟も同じく現実を理解したのか、先程の柔らかい表情とは一転し硬い表情をしていた。


「ね、姉ちゃん!け、け、警察!!」


恐怖や不安で声が震えながらも必死に絞りだす弟。

ここは弟の部屋だ。なので私は

「携帯!早く!」

と、弟に促す。


「そ、そうだ!携帯!!いつも枕元に…」

そう言いながら携帯を探す弟。

すぐに『あった!』と言い携帯を手に取るも


「うわ…充電切れてる……」


恐らく携帯を触りながら寝落ちしてしまったのだろう。

充電器に挿すのを忘れていたらしい。

月明かりに照らされた部屋を見渡すと勉強机に充電器が置いたあったが、今から充電器を挿し復活するまでの時間を考えると

私の携帯を使った方が早いんじゃないかと思った。


それに私の部屋にはクローゼットがある。

扉があり一つの部屋となってるタイプのクローゼットじゃなくハンガーラックにカーテンを付けたタイプのクローゼットだが、服で埋まってるのでそこに隠れる事が出来るはずだ。


「私の部屋に行くよ」

弟も流石に口が固くなり素直に頷く。


ガチャ

ゆっくり弟の部屋の扉を開ける。

歩く度に{みし、みし}と鳴る。

普段は全然気にならない音だが、今だけはうるさく聞こえる。


そして隣の私の部屋の扉のノブに手をかけた時


「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


と女性の叫び声が響き渡る。

一瞬{ビクッ}としたが、私は集中して扉を開ける。


ガチャ


ゆっくり、それでいて早足で私と弟は部屋に入る。

入るや否や

「今の母さんの叫び声だよね?」

弟が、泣きそうな顔をして言う。


「優兎、アンタはあそこのクローゼットに隠れて」

正直私も泣きたいぐらい怖くて不安だったが、両親の安全が分からない以上姉の勤めをしないといけないので

怖い気持ちをグッと抑え弟に指示を出す。


「ね、姉ちゃんは?」

震える声でそう聞く弟に私は

「良いから!早く!!」

と怒り口調で言う。


弟は渋々カーテンの中に入っていく。

それを見届けて私は自分の携帯をひらう。


ガクガク

携帯を持つ手が震えて

ポトン

と携帯を落としてしまう。


自分が思ってる以上に動揺してるみたいだ。


「ふぅーーはぁーー」

一度深呼吸をして携帯をひらう。


そして110番を押そうとするも指が震えて上手く押せない。

スマホを両手で持つも

ポトン

と、手の震えで携帯が手から滑って落ちてしまう。


落ち着け…落ち着け落ち着け落ち着け!!!


自分に再度そう言い聞かせて足元に落ちた携帯をひらう。

その時だった―――



ガチャ


「おっ!はっけ〜ん!!」

目出し帽を被った男の人が入ってきた。


私はすぐに携帯を投げ、落ちた音を誤魔化す為に

「キャッ!」

と短い悲鳴をあげる。


横目で携帯を見ると理想の場所に落ちていて一安心する。


「子供が居たのか」

先程の人とは別の目出し帽を被った人が入ってきた。


「見られたからには殺す」

後から入ってきた人が、そう言って血が付いた刃物を構える



「い、いや!」

私は怖くて逃げたくなる。

でもそんな事をしたら隠れてる弟が見つかるかもしれない。


だが、私の足は地面にくっついたみたいに恐怖で動かない。

そのくせ膝はガクガクと震え今にも倒れそうだ。


「まっ!待ってくれ兄貴!!」


「なんだ?」


「へへへ、こいつかなりのマブだ。ただ殺すだけじゃ物足りねえよ」


「ーったく。お前も好きだねぇ〜」


「正直よぉ〜さっきの女もマブだったからヤリたかったんだよ。それなのに兄貴が…」


「はっ!?お前何しに来てんだよ…」


「まあまあ、これも込みで楽しみましょうや」


「そうだな」


「「ケラケラケラケラ」」


そう笑いながら目出し帽を被った男性2人は私の腕を掴む


「い、いや!離して!!」


抵抗するも力で敵う訳もない



「良いねぇ〜抵抗してくれた方が燃える」

そう言って私の服を掴む


「いやいや!嫌だ!嫌だ!!」


私も高校3年生だ。

この人達が私に何をしようとしてるか分かってる。

だからこそ必死に抵抗する。


「うるっせーなー!!」

そう男性が言うや否や右脚のふくらはぎに激痛が走る



「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


痛みが走った所を見ると先程の刃物で刺されていた。


「良い声で泣くじゃないか」


あまりの痛みで気絶しそうな感覚に陥る。

もう何をされてるのか分からない。

ただ痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い



「ほれもういっちょ聞かせてくれ」


ズブっ



「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



痛いよ痛いよ痛いよ。

イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ



「ちょっ兄貴!ヤル前に殺す気か?」


「なぁにこの程度じゃ死なねーよ!それに刃物は2本刺した。抜かない限り血が噴き出す事もねぇ!」


「はっ!!2本刺されたまま2本挿されるって事ですかぃ!そりゃあ良い!」


「「ハハハハハハハハハハ」」



何が行われてるのか分からない。

考えたくもない。

アドレナリンのおかげで痛みは感じなくなったが、そのせいで体に入ってる物の感覚が分かってしまう。


薄れゆく意識の中で私は弟が隠れてる所を見る。

先程投げた携帯が無くなってる所を見るとちゃんと弟が拾ったみたいだ。


お願いだから弟は生きて!

私はもう…きっと駄目だから……



そして気付いた時には、どこかの部屋のベッドにいた―――



知らない天井を見ながら頭の整理をする。

布団を捲るとドラマとかで入院してる患者さんが着てる様な服を着ていた。

って事は、ここは病院??そう思ってた時


ガララララ

とドアの引く音が聞こえナース服を着た女性が入ってきた。

恐らく胸に付けてる心電図の反応を見てやってきたのだろう。


古野美帆乃フルノミホノさん大丈夫ですか?」


起きあがろうとするも両足に激痛が走る


「いっつぅ〜」


「無理しないでください!傷口が開きます」


そう言いながらナースさんは私を横に寝かせる。


「あの…私…」

そう言いかけた時


「すいませ〜ん。ちょっとよろしいですかぁ〜?」

と、男性の声が聞こえた。



ドカドカとこちらの返事も待たず中年の男性と20代ぐらいの男性が入ってきた。


「ちょっと!!まだ古野さんは話せる状態じゃありません!!!帰ってください!!!」

ナースさんが必死に抵抗するも


「いやぁ〜こちらも仕事なんでね〜。それに邪魔をするなら公務執行妨害になりますけど良いんですかぁ〜?」

中年の男性が、ねちっこくイヤらしく言う。


そう言われたナースさんは悔しそうに唇を噛み

「10分です!!それ以上は認めません!!!」

そう言って部屋を出て行く。



「いやはやすいませんねぇ〜私達はこう言う者です」

そう言って二人の男性は警察手帳を見せる。


「時間が無いので早々に良いですかぁ〜?」



話の流れで警察だと理解していた私は、あの事について聞かれるのだと覚悟していた。

だが、その前にこちらも聞きたい事がある!


「その前に良いですか?」


「んんっ〜なんですかぁ〜」

相変わらずのねちっこくイヤらしい口調は、どこか人を馬鹿にしてるようで苛立ちを覚える。


だが、それらを一旦我慢して私は聞いた


「両親や弟はどうなったんですか?」


「んふぅ〜ん?事件状況ですねぇ〜?勿論説明しますよぉ〜。三里みつりくん?お願いしまぁ〜す」


そう言うと部下と思われる若い男性が{コホン}と咳払いをし口を開く


「2035年10月2日の深夜2時頃、古野邸に2人組の泥棒が侵入。父親の古野義孝ふるのよしたかさんは、犯人達と争った後、鈍器のような物で頭を殴られ死亡。母親の古野摘恵ふるのつみえは刃物のような物で首を裂かれ死亡」



淡々と説明する刑事に苛立ちを覚える。

お父さんもお母さんも殺された??

えっ?!ま、待って!?

そう思うも刑事の口調は変わらず淡々と説明を続ける


「その後、古野家長女の古野美帆乃さんが泥棒二人組に足を刃物で刺され強姦…これで合ってますか?」


「えっ、と……」

私は言葉が詰まった。

あまりにも淡々と言われたので、自分が犯された事に頭が理解出来てなかった。


「あの晩の事を思い出してください。あなたを襲った二人組の顔は見ましたか?」


思い出す…?あの事を思い出せと言ってるのか?!

そうだ…私は……両脚を刃物で刺され、痛がる私を無視して胸や身体中を触られた


「あ……あぁぁ…」


突如{ぐにゃり}と視界が歪む。

目の前の刑事二人が、目出し帽を被った漢二人に入れ替わった。


「やだ!!!やめて!!!痛い!!!痛いの!足がっ!あっ!あああぁぁぁぁ!!!」


そう泣き叫ぶも男達は私の身体を舐め回したり触ったりする


「やだ!気持ち悪い!!!やめて!!!やめて!!!」


そして男達はズボンを脱ぎ硬くて熱い物を押し付ける


「いやいやいやいや!!!やめてやめてやめてやめてやめて」


そして私の中に――



「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



その直後{ガララ}と力強くドアを滑らした音が響き渡り

「何をしてるんですか貴方達はっ!!!」

女性の怒声が響き渡った。


「ああぁぁ!!!ああああああ!!!」


私は涙を流しながら体を震わせていた。


「古野さん!大丈夫ですか?古野さん!!」



ここからの記憶はない――



それから気付けば2年程経っていた。

自分が今までどう生きてきたのか分からずあの日の事が夢だったんじゃないのかとすら思える程に何もかもがボンヤリしていた2年だった。



「姉さんおはよ」


そう声をかけてくれたのは弟の優兎ゆうとだった。


「ゆう…と…?」

私が声を発すると優兎はとても驚き


「姉さん俺が分かるの?」

と質問してくる。


私は軽く{コクン}と頷く。

そして両親が殺された事や叔母の家に引き取られてる事を知った。


優兎が言うには私はずっと放心状態だったらしい。


「良かった…姉さんが元に戻って本当に良かった…」

そう言いながら{ポロポロ}涙を流す弟。


そうか、私はずっと苦労かけてたんだ。

あの日救った命に私は救われてたんだ。


気付けば私も涙をボロボロと流していた。


「優兎生きていてくれてありがとう」


そうして私達キョウダイは泣きながら抱き合うのだった。

お互い生きていた事に感謝するように。。。








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