第5話ユナセトモミ
「もしかして古野?
コンビニでお菓子コーナーの棚の陳列をしていた時に声をかけられた。
しゃがんで作業をしていた俺は声の主を見る為に顔を上げる。
するとそこには、スーツの様な格好をした見覚えのない女性が立っていた。
女性は整った顔をしていておそらく長いであろう黒髪を後ろに縛ってポニーテールにしていた。
一言で言えば美人の部類に入るだろう。化粧も薄いし一度見たなら忘れる事は無いと言える程の美人だ。
つまり俺は、この女性の見覚えがないって事だ。
「あの…どちら様ですか?」
なので、そう質問するのも当然だ。
女性は質問されて驚いた顔をしたが、すぐに理解したのか
「あ〜そっか〜分からないかぁ〜」
と、残念そうに呟く。
こうしてる間も学生時代の同級生達を思い出すが、全くヒットしない。
思い出したフリをして話を合わせようかと思った時
「また会えるからその時までに思い出しててね!」
そう言ってその場を離れて行った。
行った方向的に食品売り場だ。弁当でも買うのだろうか?
飲み物コーナーの上に設置してある時計を見ると12時を回っていた。
って事は昼飯を買いに来たのだと理解する。
そして女性が着てた服…スーツと思ったが、あれは銀行員の制服じゃないかな?って事はすぐ近くにある銀行で働いてる人か?
その日1日は、その女性の事を考えてバイトが終わった。
いつもの様に弁当を2つ袋に入れコンビニを出る。
コンビニを出ると河野さんが居たので一緒に帰る。
家に着いてからもあの女性の事を考えたが、全然分からず気付けば就寝の時間になっていた。
「結局誰だったんだ?」
と独り言を言って俺は目を瞑る。
*
「
女の子が俺の前を走る。
「待ってよ
俺は、その子を追いかけてる。
その女の子の名前は
その子は学校では地味な感じで、友達の多かった俺は
『あの子とどんな話するの?』
とか聞かれていた。
しかし俺と2人の時は活発で明るく良く話す子だったんだ。
なので小学生を卒業するまでは良く一緒に遊んでいた。
正直言って初恋だった。
小6の頃に『付き合ってください!』と告白した。
勝手に向こうも俺の事を好きだと思っていたので断られた時は酷くショックを受けた。
それがキッカケで疎遠になった……訳ではなく。
なんと中学生になった頃、彼女は髪を金髪に染め小学校の担任だった人を病院送りにしたのだ。
つまりヤンキーと言われる存在になってしまった。
周りの同級生達は
『アイツは危ない』
と口を揃えて言って誰も近付く事がなかった。
そんな雪那瀬朋美が不登校になり不良と呼ばれる人達とつるむ様になるのは当然だった。
中学校の校門を出ると赤色の特攻服と言うのか、長い丈のジャケットを羽織って胸にサラシを巻いて何ともまあ、時代錯誤も良い所…と言った格好をした女が俺を待っていた。
「お、出てきた〜。ユウト金貸してくれ!」
そう言って堂々とカツアゲをしてくるかつての初恋の人。
「貸すって事は返してくれるんだよな?」
「あったりまえじゃん〜5千円で良いよ」
「はぁ?!5千円!?中学生の財布事情知らないのか!?せいぜい2千円までだ」
「初恋のよしみって事で!な?」
そう言われると非常に弱い俺は、お金を貸す事にした。
それから数日後、帰り道に赤い特攻服を着てヤンキー座りをしてる女を見かけた。
その女は俺に気付いて近付いてきた。
「ほら、助かった返すよ」
その女は、そう言っていつぞやの5千円を返す。
「まさか返ってくるとはな」
そう悪態をついてもバチは当たらないだろう。
お金を返すとすぐに『じゃ、またな』そう言ってどこかに消えていく。
そんなやり取りを高校生になるまでに何回か繰り返した。
周りの友人は
『あんな不良と関わるのやめなよ』
と心配して言ってくれるのだが、どうにも俺は初恋の弱みなのか雪那瀬朋美に構ってしまう。
*
「ん…う〜ん…」
目を開けると眩い光が視界を支配する。
すぐに夢を見ていたのだと気付く。
「そうか…
昨日話しかけてきた女性と夢で見た初恋の人を重ねる。
髪も黒になっていたが、あの目や口元は間違いなく雪那瀬朋美だ。
最後に見たのがヤンキー姿だったから全然分からなかったんだ!
と、納得をする。
もし今日も来たら思い出してないフリをする。
そして残念そうな顔をした所に『またな、雪那瀬』と言ってやる!
そんな意地悪を秘めて俺は職場に行く。
時計をチラチラと確認して
「陳列行ってきます」
と、先輩に言って昨日と同じお菓子コーナーに陣取る。
レジは先輩と河野さんが居るから混んでも大丈夫。
さあ!来るなら来い!
と、意気込んだのに雪那瀬朋美は来なかった。
「お先に失礼します」
バイトが終わりいつもの様に弁当を持って外に出ると茶髪のポニーテールの可愛らしい女性が待っていた。
その女性は可愛らしい服にスカートで肩には小さめのショルダーバッグをかけていた。
いつも明るくてコミュ力もあり太陽の様なその女性といつからか一緒に帰る様になった。
側から見たら恋人同士と思われるんだろうか?なんて思ってみる。
河野さんと恋人?…いやいや、彼女はただの同僚。身長も低い割に胸はそこそこあって、そりゃ彼女に出来たら鼻高々とは思うが……
「ふふ」
思わず笑みが溢れる。
「どーしたんですか?!」
急に笑ったもんだから隣で一緒に歩いてる河野さんに不審がられる。
「いや、何でもないよ」
女性として意識してるのか?と言われれば、そりゃ意識してるだろ!と答える。
じゃあ好きなのかと問われれば、そこは悩む。
よく男女で仲良くてお互い意識した事ないって言う奴居るけど、あれは嘘だ。
他人である以上、少なからず異性の意識はある筈だ。極端な話、お互いの裸を見たら意識するだろう??
例えば着替えなんかも目の前で出来るか?
キョーダイでも照れ臭いのに出来るわけない!って事は意識はしてるって事だ。
だから男女である以上、俺は河野さんの事を意識はしてる。それが好きだと言う事なら好きって事で良いさ。
「ところでさ?一つ良い?」
恐らく何かしらの話をしてたであろう河野さんの言葉を遮り、俺は唐突にそう言った。
いきなりの事で驚いた感じだったが
「は、はい!良いですよ?」
と、返事を返す河野さん
「いや、別に俺は良いんだけどさ…何で敬語なの?」
なぜこのタイミングに!?と思われるタイミングで、ずっと疑問だった事を聞いた。
「あっ、それはですね」
と前置きをして{コホン}と咳払いをし、そのまま河野さんは言葉を繋いだ。
「ほら、私と古野さん以外は皆歳上でしょ?だから基本的に敬語じゃないですか?その流れって感じですね」
つまり敬語が染み付いて抜けないって事らしい。
「俺とはタメなんだし敬語使わなくて良いのに」
「あはは…そうですね。帰る時はタメで良いですか?」
「コンビニ内でも俺にはタメで良いよ?」
「働いてる時は敬語で統一しないと切り替え失敗しそうなんで、コンビニ内は敬語です!」
俺達は接客業だから切り替え出来なかったら大変な事になる。
幾ら店長のお気に入りと言えどクビになる可能性もある。
そんなリスクは負わせれない。
「じゃ、今から敬語なしね!」
「は、はい!」
「敬語なんだよなぁ…」
「な、なんか照れ臭いでs………照れ臭いね!」
「気楽に良いんだよ気楽に」
そーして、あっという間にいつもの分かれ道に着いてしまう。
「今日は何かあっという間でし……だったね!」
まだ不慣れな感じだがタメ口で河野さんは言った。
「楽しい時間は…ってやつだよ」
「そーだね!じゃ、またね!」
そう言って右手をひらひらと動かし駆け足で駅へと向かう。
「またね」
駆け足で行くもんだから俺のその返事が聞こえてるかは分からないが、俺もそう言って右手を振る。
そして家へと帰宅する。
玄関を開けると見覚えのない靴があった。
一瞬部屋を間違えたか?と思ったが、見覚えがないのは一足のみで、他の靴は見覚えがあった。
って事は、誰か来てるのか?と不審に思い恐る恐る家に上がる。
ウチは2人暮らし(今の所俺のみ収入ある)の割に良い所に住んでいる。
マンションの一室で、2人で住むにはそこそこ広い。
玄関を入ってすぐ左側にお風呂場へと続く扉がありそこを少し進むとトイレの扉。
そこを抜けるとリビングに繋がるのだが、そこは扉が閉まっていた。
いつもは開けっぱだから益々違和感があった。
{ガチャ}と扉を開けてリビングへと入る。
すると
「あ、帰ってきた」
と、パジャマ姿じゃない姉さんが視界に入る。
そしてリビングに置いてあるテーブルを見るとコップが二つ用意してあり、姉の対面先を見ると……
「あっ!」
そこには、先日の女性が座っていた。
服装は、銀行員の制服とこの前と一緒だが、髪は結んでなく綺麗な黒髪は腰辺りまで伸びていた。
「お邪魔してます…」
俺を見てそう挨拶をする女性は、昔の面影を見せない程のレディだ。
「いきなり家にいるのはズルくないか
「あっ、思い出したんだ?」
「最後に見たのがアレだったから分かんなかったんだよ!」
そう言いながら俺は姉さんの隣に座る。
「でも朋美ちゃん本当に綺麗になったよね〜?」
姉さんが、そう口を挟む
「そーですか?
「やだー!もう!褒めても何も出ないよ?」
姉さんと雪那瀬が二人で盛り上がってる中、俺は水を差すのを承知で、ずっと疑問に思ってた事を聞いた。
「ところで何で居んの??」
「あ〜それはね…」
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