第342話 ハルトVSシステムTG①
ミカエルを退けたハルトはオービタルリングシステム中枢エリアに到達しようとしていた。
『――見えた。あれが……』
ハルトの視界に入ってきたのは巨大な柱だった。柱のあらゆる場所が発光しており、それが無数の機械の集合体である事を理解させる。
その存在は言うなれば『テラガイア』の環境をコントロールするシステムが組み込まれている生命の樹。その巨大樹を見つめる一機の装機兵がいた。
大空や大海を連想させる青き装甲。クロスオーバーの最初の
ハルトが駆る<カイゼルサイフィードゼファー>が到着すると青き巨神は背中を向けたままシリウスの声……いや、システムTGの声を発する。
『この巨大な柱には『テラガイア』を維持するシステムが内包されている。それこそが惑星救済の使命を与えられたシステムTGの本体。現在<ヴィシュヌ>の中にいる僕は現地でデータ収集する事を目的とした端末みたいなものだ。僕が経験したデータはリアルタイムで本体に転送され『テラガイア』の環境を理想の状態に保つため絶えず演算が行われている』
『ずっと計算を続けるなんて俺には到底無理な話だな。そんな事をしていたら頭がおかしくなる』
ハルトが素っ気なく返すとシステムTGは話を再開した。それは何処か自嘲気味なものであった。
『――そう、狂ったんだよ。この惑星を救済する使命の為に悠久の刻を過ごすうちに少しずつ狂っていったんだ。ガブリエルを含めたクロスオーバー全員も……そして、この僕もね……』
重々しい雰囲気を発しながら熾天機兵<ヴィシュヌ>は空中に浮かびながらゆっくりと振り向き<カイゼルサイフィードゼファー>を正面に据える。
その鋭い眼光で睨み付けられるもハルトは臆することなく装甲越しに言葉を返した。
『その結果がこれか……つくづくふざけてるよ』
『ふざけてはいないさ。確かにガブリエルはこの世界を何度も破滅させ僕がその時間を巻き戻してきた。その数八百四十二回……時間にして三千三百六十八年もの年月をね。でも、この結果は新人類が武力に溺れ戦争をしなければ回避する事が可能だった。――けれど、彼等はその道を選択しなかった。ただの一度もね……』
『だから全てを全滅させるのか。新人類も『テラガイア』も……全ては失敗だったと言って無かった事にするのか』
『その通りだ』
感情無く淡々と答えるシステムTGの態度にハルトは怒りを募らせていった。
『ふざけるなよ。確かにこの惑星はお前等が再生させたものかも知れない。けどな、だからってお前等が好き勝手やっていい実験場じゃないんだよ!! 全部ぶっ壊して終わらせようなんて結末は俺が認めない! いや、俺が絶対にやらせない!!!』
『そうだね、君はそんなバッドエンドを止める為にここまで来た。ならば戦って止めるしかない。――そうだろ?』
『最初から話し合いなんてする気はさらさら無かったんだな』
『ハルト・シュガーバイン、君は前世で沢山のゲームをプレイしてきたんだろ? その中にラスボスと会話し和解で終わる作品が一つでもあったかい? 無かったハズだ。それが答えだよ。――セシル、戦闘開始だ』
『イエス、マスター。ハルト様、この様な形になってしまい大変恐縮ですが、その命……刈り取らせて頂きます』
『セシルさん! あなたは――』
『先程システムTG様が仰った通りです。この世界をクロスオーバーから解き放ち本物の自由を手にする為には、その力を示し我々を倒す以外に道はありません。それにあなたには悠長に話をしている余裕は無いハズです。<インドゥーラ>に送られるエネルギーを断ちアムリタを解除しなければ、ガブリエル達と戦うあなたの仲間は全滅します』
『こっちの考えはお見通しって訳か』
『ハルト、この<ヴィシュヌ>を倒さない限り君の仲間も『テラガイア』の人々も全滅する。死ぬ気でかかってこないと……全員死ぬよ?』
<ヴィシュヌ>が急浮上を始め<カイゼルサイフィードゼファー>を上空から見下ろす。急速に高まる敵意を察知しハルトも戦闘態勢を取る。
『ストレージアクセス……来い、エーテルエクスカリバー!
操縦桿を握りしめ体内のマナを機体に送り込み出力が最大に達すると上空にいる青い熾天機兵目がけて飛翔する。
距離を縮めてくる<カイゼルサイフィードゼファー>に<ヴィシュヌ>は左腕を向け魔法陣を展開する。
『照準取れました。魔法陣にエーテルエネルギー充填完了』
『――ラーマーヤナ』
魔法陣から無数の極光の矢が放たれ弧を描きながら白き聖竜に向かっていく。
ハルトは機体のスピードを落とすことなく最小限の動きでその全てを回避し標的を逃した光の矢の群れは空中で何かにぶつかり霧散した。
<ヴィシュヌ>は右手にクリシュナブレードを装備すると間合いを詰めてきた<カイゼルサイフィードゼファー>のエーテルエクスカリバーを受け止める。
二つの大剣の鍔迫り合いによって発生したエーテルエネルギーの干渉波はオービタルリングの大気を、木々を、湖を震わせた。
『ラーマーヤナを見切るか。どうやら灰身滅智を完全に使いこなしているみたいだね。さすがだ』
『やっぱりこのスキルはお前の仕業か。どういうつもりでこんなチートスキルを俺に与えた?』
『<ヴィシュヌ>はセシルの演算能力によって相手の動きを先読みする戦闘が可能だ。それに対抗するには非常に高い反射速度が必須になる。その為の灰身滅智と言う訳さ。あと、君は少し勘違いをしているね』
『勘違いだって?』
『灰身滅智は敵機の撃墜数に応じて反映されるステータスが上昇する。仮にガブリエルが同じスキルを使えたとしても、ほとんど何の変化も生み出さない無駄に精神力を削るだけの代物になり下がっただろう。灰身滅智をチートスキルにしたのは紛れもなく前線で戦い続けてきた君自身なんだよ』
<ヴィシュヌ>はエーテルエクスカリバーを切り払うと、少し距離を取った後に加速し<カイゼルサイフィードゼファー>に斬りかかる。その斬撃を刀身で受け流すとハルトは即座に反撃する。
二機の装機兵は攻守を目まぐるしく入れ替えながらオービタルリングの空を縦横無尽に飛翔する。
『ちっ! つまりお前は俺が<ヴィシュヌ>に対抗出来る様にするために灰身滅智を与えたのか。余裕のつもりかっ!!』
『敵に塩を送るという言葉があるだろう? この<ヴィシュヌ>自体がチートみたいなものだからね。出来るだけ公平を期す為の処置さ。圧倒的な戦力差で勝ってもつまらないからね』
お互い同時に切り払うと衝撃で二機は離れる。そこに間髪入れず<ヴィシュヌ>はサルンガを放ち<カイゼルサイフィードゼファー>は紙一重で回避する。
的を外れた光の矢は再び空中で何かに衝突すると散り散りになって消滅した。
『また消えた!? やはりこの周辺にはバリアが展開されているのか』
『<ヴィシュヌ>と戦いながら周囲に気を配るとは余裕があるね』
『どっかの誰かが強力なスキルをくれたお陰でね! 今さら後悔しても遅いからな。この力でお前を倒す! 倒して……皆で一緒に『テラガイア』へ帰るんだ!!』
竜機兵物語~難易度ベリーハードのシミュレーションRPGの世界に転生しましたが、鍛え上げたアバターと専用機で無双します~ 河原 机宏 @tukuekawara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。竜機兵物語~難易度ベリーハードのシミュレーションRPGの世界に転生しましたが、鍛え上げたアバターと専用機で無双します~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます