第341話 宇宙艦隊戦②

「<ガルーダ>級、二隻目を撃沈しました。残り六隻……そのうち二隻が転進、速度を上げてこちらに接近してきます!」


「砲撃戦では不利と見て船体をぶつけるつもりのようね」


「<ニーズヘッグ>の全長は四百十一メートル。それに対して向こうは二千メートル超え……これ程のサイズ差と質量差ですから体当たり一発で本船は落とされかねませんわ」


「当てられたらね。この船に不用意に近づけばどうなるか教えてあげましょう」


 接近する<ガルーダ>級二隻は砲撃を<ニーズヘッグ>に集中しながら高速で近づいてくる。

 ハンダーの巧みな操船術によって<ニーズヘッグ>は船体を回転させながら回避し、三種のエレメンタルキャノンを撃ち込み<ガルーダ>級二隻のエーテル障壁を無力化した。


「前方<ガルーダ>級二隻のエーテル障壁消滅しました。再展開まで百三十秒と推測!」


「障壁再展開前に討ち取ります。エーテルフェザー発生器にエーテルエネルギーチャージ開始、弾幕張りつつ<ガルーダ>級二隻の間に本船を滑り込ませます!」


 <ニーズヘッグ>は砲撃をかいくぐり二隻の<ガルーダ>級の間へと入り込んだ。


「――今よ! エーテルフェザー最大出力!!」


 シェリンドンの命令と同時に<ニーズヘッグ>の両舷から数十キロメートルにも及ぶエーテルの羽が展開される。

 それは長大な翼を模した刃となってすれ違いざまに<ガルーダ>級二隻の船体を真っ二つに斬り裂いた。

 

「敵飛空艇切断部にエレメンタルキャノン一斉射、撃てぇーーーーーー!!」


 <ニーズヘッグ>は斬り裂いた<ガルーダ>級とすれ違うとエレメンタルキャノンを切断した箇所に放つ。切断面から爆発が広がっていき二隻の<ガルーダ>級は大爆発を起こした。

 加速離脱した<ニーズヘッグ>のブリッジでは残り四隻となった<ガルーダ>級の配置が表示され、シェリンドンは次の手を考えていた。


「次で決着をつけます。アメリ、ドラゴニックバスターキャノンの発射シークエンスを開始。<ニーズヘッグ>は敵艦隊の側面に移動、ハンダー君頼むわね」


「了解しました!」


「了解! <ニーズヘッグ>、敵艦隊側面に移動始めます。ステラ、エーテルフェザーの調子は?」


「先程最大出力で使用したので一時的にパワーダウンしていますわ。フェザー発生器に異常無し、今は出力六十パーセントを維持するのがやっとの状態ですわ。それに加えて特殊砲を使用するとなれば主機は使えなくなります。発射シークエンスが始まれば運動性能がガタ落ちしますわよ!」


「やってみるさ!!」


 <ニーズヘッグ>は敵艦隊の側面へ向けて移動を開始、その動きを察知した各<ガルーダ>級は編隊を維持しながらエレメンタルキャノンの火線を集中させる。

 エーテルフェザーの出力低下に伴い機動性が低下しながらも<ニーズヘッグ>は他の飛空艇を圧倒する動きで弾幕を回避しながら所定のポイントを目指す。

 その間、宇宙を舞う巨竜の体内では最大の一撃を放つべく着々と準備が進められていく。


「船首砲門部と主機とのバイパス開放、ドラゴニックエーテル永久機関よりエーテルエネルギーチャージを開始。チャンバー内エーテル圧上昇……!」


 特殊砲ドラゴニックバスターキャノン発射の為、メインエンジンであるドラゴニックエーテル永久機関から船首砲門部に膨大なエーテルエネルギーが送られ始める。

 船首部においてエーテルエネルギーの増幅と特殊砲発射に向けてのカウントダウンが開始される。


「船首砲門開放、エーテルエネルギーチャージ率、八十パーセントに到達――」


 しかし、ここで問題が発生する。メインエンジンのエーテルエネルギーがドラゴニックバスターキャノン発射へ回された為、<ニーズヘッグ>の推進系やエーテルフェザーの出力が更に低下し、敵飛空艇の弾幕回避に精一杯になり所定ポイントに近づく事が困難な状況に陥っていた。


「ちょっとハンダー、艦隊の側面ポイントから離れていきますわよ!」


「分かってるっつーの! せめてもう少しだけ推進力が上がれば……」


「もう少しだけ持たせて! 今、主機の一部エネルギーを推進系とエーテルフェザーに回すバイパスを構築しているわ」


 シェリンドンは船の指揮を執りつつ、船長席に備えられているコンソールを神速の指使いで操作し<ニーズヘッグ>のエネルギー伝達システムをリアルタイムに書き換えていく。


「――ドラゴニックエーテル永久機関と船首砲門の直通バイパスから第一、第二エーテル永久機関及びエーテルフェザー発生器に一部エネルギーを分配開始……っ、なら船首へのエネルギー伝達率を五十パーセントカットして再アプローチ……よし、各バイパスエネルギーライン構築完了、稼働開始……!」


 その常人離れした手腕を目の当たりにしブリッジクルー達は改めて錬金技師シェリンドン・エメラルドの実力の高さに驚いていた。

 戦闘中の余裕が無い状況であるにも関わらず、システムの一部を書き換える作業は一瞬で終わり<ニーズヘッグ>のエーテルスラスターとエーテルフェザーの出力が持ち直す。


「パワーが上がった。これなら……!」


「巡航システムにエーテルエネルギーを割り振った分、特殊砲のチャージ速度は落ちているわ。<ニーズヘッグ>はチャージ完了まで敵弾幕を回避し注意を引いて! こちらの狙いに感づかれたら戦闘が長引くわ」


 再び優美なエーテルの羽を放ちながら余裕で弾幕を躱す巨竜は再び目標ポイントを目指し飛翔する。


「船首エーテルエネルギーチャージ率、八十パーセントに到達……八十五……八十六……八十七……」


「敵飛空艇は編隊維持しつつ回頭、こちらに向かってきますわ! エーテルエネルギーの増幅を確認、エレメンタルキャノンの波状攻撃が来ます。回避注意してくださいな」


「あいよっ!」


 <ガルーダ>級四隻によるエレメンタルキャノンの一斉射が何度も行われ漆黒の宇宙が明るくなる。その中を飛ぶ<ニーズヘッグ>の船首では砲門部から超高密度のエーテルエネルギーが溢れ出していた。


「……九十八……九十九……臨界点に到達! ドラゴニックバスターキャノン、発射可能になりました」 


「ハンダー!」


「言われなくても指定ポイントに今着いたところだ。奴等の側面に回り込んだ。後は頼みます、主任!」


 <ニーズヘッグ>の遙か前方には四隻の<ガルーダ>級が直列に並ぶ形で側面を見せていた。回頭を始めてはいるが、その動きは俊敏な巨竜と比べて緩慢だ。四隻の巨鳥が体勢を整える前に勝負に出る。


「敵艦隊を正面に捉えました。特殊砲、射線取れています。――主任!」


「皆、良くやってくれたわ。あなた達は本当に最高のチームよ! ――ドラゴニックバスターキャノン、ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 シェリンドンの叫びと共に<ニーズヘッグ>の船首砲門から極限まで高められたエーテルエネルギーが発射され宇宙を割くように一筋の光となってかける。

 無防備な側面を晒していた一番手前の<ガルーダ>級はドラゴニックバスターキャノンにエーテル障壁ごと撃ち抜かれ、爆発四散しながら他の<ガルーダ>級に衝突し巻き込んでいく。

 たった一撃の砲撃によって四隻の巨鳥は連鎖撃沈し、間もなく宇宙の藻屑になった。

 戦闘前は圧倒的な存在感を示した八隻の<ガルーダ>級はたった一隻の<ニーズヘッグ>に損傷を与える事も出来ずにスクラップと化した。


「全ての<ガルーダ>級の撃破を確認しました」


「皆、お疲れ様。本当に良くやってくれたわ。――<ドラパンツァー>はどう?」


「健在ですわ。損傷が見られますが操者は無事です。あちらも敵部隊を全て撃破した模様ですわ」


「さすがね。それでは<ドラパンツァー>を回収した後に本船は先行した味方を追ってオービタルリングに侵入します」


「「「了解!」」」


 これにより宇宙海戦は聖竜部隊の完勝で幕を閉じた。戦いの舞台はこれより最終決戦の地オービタルリングに移行する。

 いち早く内部に侵入しガブリエル操る<シヴァ>を下したハルトはオービタルリングの中枢システムエリアに到達しようとしていた。

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