第340話 宇宙艦隊戦①

 <ドラパンツァー>が敵装機兵部隊と戦闘を始めた頃、同じ宙域でもう一つの戦いが始まろうとしていた。

 <ニーズヘッグ>のブリッジでは全長二千メートル超の大型飛空艇<ガルーダ>の同型船八隻を前方に捉え戦闘準備を整えていた。


「<ガルーダ>級八隻、本船への包囲陣形取りつつ接近しています。敵飛空艇のエレメンタルキャノンの射程から換算してあと三分で戦闘に入ります」


「<ニーズヘッグ>の火器管制異常なし、主機からエーテルフェザー発生器へのエネルギー伝達良好、メインエーテルスラスター推力向上。……最高のパフォーマンスを発揮出来ますわ」


「――結構。これより<ニーズヘッグ>は高速戦闘モードに移行します。船内の重力制御に影響が出るわ。アメリ、全クルーへの注意連絡をお願い。ステラは引き続き火器管制システムとエーテルフェザーの調整を。高速戦闘へのモード切り替えに際して操舵システムをフルアクティブにします。ハンダー君、頼むわね」


「任せてください、主任。ようやく<ニーズヘッグ>の全力お披露目ですからね、腕が鳴りますよ」


 操舵手のハンダーの座席が変形し座位から立位のスタイルになると操舵席の周りに立体映像式のモニターが表示され簡易コックピットへと変貌する。

 ハンダーは指の関節を鳴らすとゆっくりと舵を握り深呼吸する。操舵手周りのモニターには船外の映像が映し出されていた。


 その間<ニーズヘッグ>の船内では全クルーへ向けてアメリが放送を行っていた。


『ブリッジより全クルーへ。これより<ニーズヘッグ>は艦隊戦に際し高速戦闘モードへ移行します。船内の重力制御に影響が出ると思われます。全クルーは各持ち場にて待機、身体を固定し備えてください。繰り返します――』


 船内放送が伝達されるとクルー達は大急ぎで持ち場に赴き所定の固定エリアで待機し始める。

 船内の各部署から固定完了の通知が届いたのを確認するとアメリはシェリンドンに報告し戦闘準備が整った。

 

「全砲門開放、エレメンタルキャノンへのエネルギー注入開始!」


「了解。全砲門開放完了……各砲門へのエーテルエネルギー伝達終わりました。いつでも撃てますわ」


 <ニーズヘッグ>は全エレメンタルキャノンの発射態勢を整えながらゆっくりと前進、それに対して八隻の<ガルーダ>級もエレメンタルキャノンを向けながら接近してくる。

 

「敵飛空艇艦隊、射程範囲に入りました!」


「全エレメンタルキャノン砲撃開始! <ニーズヘッグ>最大戦速、エーテルフェザーは出力八十パーセントを維持、敵飛空艇艦隊を突破し後方へ回り込みます! ハンダー君、回避運動を任せるわ」


「了解!」


 射程範囲内に入ると双方同時に砲撃を開始した。

 <ニーズヘッグ>は飛空艇の範疇はんちゅうを超える生物的な機動力を見せ、襲いかかる何十発ものエレメンタルキャノンを回避しつつ猛スピードで敵艦隊とすれ違い飛び去る。

 一方で<ニーズヘッグ>が放ったエレメンタルキャノンは全て<ガルーダ>級のエーテル障壁に弾かれ無効化されてしまった。


「本船のエレメンタルキャノン全て弾かれました! 敵飛空艇のエーテル障壁に変化は見られません。敵艦隊が回頭開始、エーテルエネルギーの上昇を確認――次の砲撃準備に入っています!」


「やはり通常のエレメンタルキャノンでは<ガルーダ>級の障壁を突破するのは不可能みたいね。それならばエレメンタルキャノンの術式を一部変更します! 一番から六番砲門を徹甲榴弾に、十五番から二十番砲門を誘導弾に変更」


 シェリンドンが指示するとエレメンタルキャノン設定担当のブリッジクルー数名が素早くコンソールを操作し、ほんの数秒でその作業を終え報告する。


「エレメンタルキャノン術式変更完了しました。徹甲榴弾式は威力が高い分通常よりもエネルギーチャージに時間が掛かります」


「分かったわ。<ニーズヘッグ>百八十度回頭、再度敵艦隊に接近しつつ砲撃を行います」


 <ニーズヘッグ>は宇宙を泳ぐように滑らかな動作で転進すると<ガルーダ>級を凌駕する運動性とスピードで飛翔し再び攻撃に転じる。

 

「砲撃を前面に突出した一隻に集中します。徹甲榴弾式エレメンタルキャノン、撃てぇーーーーーーー!!」


 <ニーズヘッグ>から発射された六発の大型エレメンタルキャノンは<ガルーダ>級のエーテル障壁に着弾すると同時に大爆発を起こす。 

 それによりエーテル障壁は砕け散るように消失し<ガルーダ>級の防御は丸裸状態になった。


「<ガルーダ>級のエーテル障壁消失しました。敵エレメンタルキャノンの魔法陣展開を確認、砲撃来ます!」


「先手を打ちます。敵魔法陣に誘導弾発射、砲撃を封じつつ敵飛空艇に徹甲榴弾と通常弾を撃ち込みます。それでは攻撃開始!」


 <ニーズヘッグ>から発射された誘導弾は弧を描く軌道で<ガルーダ>級の魔法陣を次々と撃ち抜きエレメンタルキャノンの発射を阻止していく。

 並行して発射されたエレメンタルキャノン徹甲榴弾と通常弾は無防備になった敵飛空艇に次々に着弾する。

 巨大な船体を炎上させ爆発を繰り返した<ガルーダ>級は間もなく轟沈した。


「<ガルーダ>級一隻の撃沈を確認。残り七隻包囲網を展開しつつ本船に接近」


「波状攻撃が来るわ。包囲網を突破しつつ狙いを一隻に絞り砲撃、各個撃破を狙います。面舵! まずは艦隊の右端にいる個体を沈めます」


「了解! 右端の<ガルーダ>級に向かいます。ステラ、エーテルフェザーの出力を百パーセントに上げてくれ。高速機動で連中を引っ掻き回す!」


「承りましたわ。エーテルフェザー出力百パーセント。ハンダー、頼みますわよ!」


 <ニーズヘッグ>を包囲する布陣を敷きながら七隻の<ガルーダ>級は一斉にエレメンタルキャノンを発射する。

 その弾幕の中を複雑な軌道で回避する<ニーズヘッグ>はフル稼働となったエーテルフェザーを大きく羽ばたかせると一気に加速し包囲網から脱出、回り込みつつ三種のエレメンタルキャノンを叩き込み二隻目を沈めた。

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