第339話 聖竜の背中を守る者③

 勝利を確信したアザゼルはエーテルサリッサを装備すると<ドラパンツァー>目がけて<ナーガ>を接近させる。その動きはこれまでと同じく真っ正面からの突撃だった。

 その戦術を感じさせない油断しきった動きを見てフレイは呆れていた。


『アザゼル……お前は他のクロスオーバーの連中とは違う。今のあいつらだったら、例え自分が確実に勝つと思ってもそんな隙だらけな攻撃はしねえよ』


『ハンッ! 負け惜しみとは見苦しいねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 高速で接近した<ナーガ>がエーテルサリッサの穂先で<ドラパンツァー>を串刺しにしようとした瞬間、フレイはストレージからエーテルバズーカを取り出しその砲身で攻撃を受けた。

 

『ちっ! そんな物一撃で粉砕出来るんだよ!!』


 エーテルサリッサがエーテルバズーカを斬り裂くと爆発し<ナーガ>を爆煙が包み込む。

 アザゼルの視界から<ドラパンツァー>の姿が見えなくなり、彼は次に視界に捉えた時が自分の勝利だと確信していた。

 爆煙が消えると標的である半壊したタンクモドキは多少距離を取ったのみで隙だらけのまま宇宙を漂っていた。「勝った」と心の中で叫んだアザゼルは異変に気が付く。

 

『な……に?』


 爆煙が霧散した時、花のつぼみを彷彿とさせる構造物が<ナーガ>を囲む様に三基設置されていた。それが何なのか分からず疑問に思うとつぼみが開き機械仕掛けの花が咲く。

 次の瞬間、満開になった三基の構造体から凄まじい電撃が放たれ中心部にいる<ナーガ>を襲撃した。


『ぐああああああああああっ!! 何なんだこれは!?』


 三基の花を模した構造体――ライトニングコレダーの直撃を受けた<ナーガ>は全身に電撃が流れ駆動系はショートし完全に動きを封じられる。

 コックピットブロックは防御装置によって守られておりアザゼルは無事だったが、それでも機体内を流れるエーテルを通して多少のダメージがフィードバックされ痛みを感じていた。

 中性的で美しかった顔は苦痛と屈辱を受けて歪み、モニターに映るフレイを睨み付ける。睨み付けられた当人は冷たい視線をアザゼルに向けていた。


『アザゼル、俺はこの世界を生み出してくれたお前等を凄いと思うし感謝もしてる。――けどな、だからと言ってその支配を甘んじて受けるつもりは無い』


 フレイが落ち着いた声色で想いを語っていると<ドラパンツァー>のすぐ側にストレージが展開され、その中から機体の全高を優に越える巨大な砲身が出現した。

 それを目の当たりにしたアザゼルの顔が青ざめる。


『何だ……それは……』


『これか? これはこの最終決戦の為にドグマの皆が用意してくれた<ドラパンツァー>の奥の手だ』


 淡々と述べると<ドラパンツァー>は出現した大砲のグリップを右手で握り砲口を<ナーガ>に向け発射姿勢を取る。

 砲身部に設置されているフォアグリップを左手で握り砲身を安定させるとコックピットモニターに表示された照準が<ナーガ>を捉える。

 三基のライトニングコレダーによって<ナーガ>はダメージを受けつつ身動きが取れない状態であり、そのコックピットにいるアザゼルはまさかの逆転劇に驚きを隠せないでいた。


『どうしてこんな……俺の勝利は絶対だったハズだ!! それが……』


『さっき言ったばかりだろう、隙だらけだってな。戦いは一瞬の判断ミスが命取りになる。だからこそ戦闘中に相手を軽んじたり油断するなんてのは三流の仕事なんだよ。ランド教官が耳にたこができるぐらい言っていた言葉だぜ!!』


『ぐ……チク……ショウ……チクショーーーーーーーーーーー!!!』


『俺たちに未来を託して逝ってしまった仲間たちの分も俺が聖竜部隊の背中を守りきってみせる! お前はここで消えろ、アザゼル!! いけぇぇぇぇぇぇぇ、カンナカムイ!!!』


 <ドラパンツァー>が構えた大砲から雷撃の超高出力エーテル弾が発射され身動きが取れない<ナーガ>に直撃した。

 カンナカムイは<ナーガ>に命中すると雷の蛇の様な形状に変化しその全身に絡みつくと超高出力の雷撃で灼いていった。

 数十メートル残っていた尾部は連鎖爆発を起こし全てが消失、残った人型の上半身部分も自己修復が追いつかず満身創痍の状態になる。

 決着が付いたかと思われたその時、停止状態に追い込まれていた<ナーガ>の目に光が灯ると一目散に<ドラパンツァー>目がけて移動を始める。


『ハァ……ハァ……ハァ……よくも……よくもやってくれたなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! お前のお陰で俺の計画はメチャクチャだ!! そのふざけた機体の手足をもいでコックピットをゆっくり潰してやる。武器を使い果たした状態で抵抗なんて出来ないだろう。――俺の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 <ドラパンツァー>は役目を終えた大砲を宇宙に放り投げると両腕を広げて無防備な姿を敵の前に晒す。その姿を見たアザゼルは万策尽きたフレイが諦めたのだと確信した。


『フハハハハハハハハハハ、諦めたか!! いいねぇ、死に際はそれぐらい潔い方が格好良いよ。でもすぐには殺さないよ。ゆっくりじっくりなぶり殺しにしないと俺の気が収まらないんだよ!!』


 アザゼルは半壊したエーテルサリッサを前方に突き出しながらフレイ目がけて全速で突っ込んでくる。反撃など想定していない攻撃の構え。それを目の当たりにしたフレイは嘲笑する。


『本当にバカだな……お前』


 ストレージが展開されその中から二丁のエーテルダブルガトリング砲を取り出し装備すると突撃してくる<ナーガ>に砲口を向ける。


『げぇっ!?』


『この<ドラパンツァー>のストレージには予備の武装が沢山ある。まさに歩く武器庫なんだよ! これで落ちな、アザゼル!!』


 予想していなかった迎撃の準備を整えた<ドラパンツァー>を見てアザゼルは驚きの声を上げる。次の瞬間には二丁のガトリング砲が稼働を始め無数のエーテル弾の砲撃が開始された。

 エーテル障壁が消失し機体も半壊していた<ナーガ>は直撃を受けながらも<ドラパンツァー>への突撃を止めようとはせず真っ直ぐに向かってくる。


『一人で死ぬものかよ。勝てないのならお前を道連れにしてやる!! そうでもしなけりゃ俺の気が済まないんだよ。一緒に死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、フレイ・ベルジュ!!!』


 弾幕によって左腕を吹き飛ばされながらも<ナーガ>はアザゼルの執念が乗り移ったかのような勢いを見せ<ドラパンツァー>に肉薄した。

 フレイの命を奪おうと振り下ろされるエーテルサリッサ。その鈍い刃を左のガトリング砲の砲身で受け止めるとアザゼルの狂った笑いがコックピットに響き渡る。


『ギャハハハハハハハハハハ!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死――』

 

『うるせえよ』


 フレイは静かな怒りを込めた声を発すると右腕のガトリングの砲口を<ナーガ>のコックピットブロックに叩き込む。


『ひぃっ!? や……やめろ!! ヤメ――』


『ゲームオーバーだ、ド外道!!』


 フレイが叫ぶと同時にエーテルダブルガトリング砲が火を吹き<ナーガ>のコックピットは一瞬で破壊される。

 内部に直接エーテル弾を撃ち込まれ続けた事で内側から沸騰するように装甲が膨れ上がり<ナーガ>は爆散した。

 爆発に巻き込まれながらも<ドラパンツァー>はエーテルダブルガトリング砲を破損したのみで機体は無事だった。

 粉々になった<ナーガ>の残骸を見てフレイは独り呟く。


『……見ていてくれましたか教官。……見ていてくれたかヤマダ……ヒシマ……あんたらが前に教えてくれた決め台詞を使わせて貰ったぜ。皆の背中は俺がちゃんと守ってみせるから安心して眠ってくれ』


 聖竜部隊最強の支援機<ドラパンツァー>はその使命を全うしオービタルリングの守備隊を全滅させる事に成功した。

 そして同じ宙域で繰り広げられている飛空艇同士による宇宙海戦もまた決着が付こうとしていた。

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