第338話 聖竜の背中を守る者②

 アザゼルの叫びに応じるように<ナーガ>の背部に設置されている六基の隠し腕が射出され、各腕が魔法陣を展開するとエレメンタルキャノンを一斉に放ち始める。

 その乱れ撃ちを回避していると避けたエレメンタルキャノンが周囲の量産機を撃墜していく様子がフレイの目に入った。


『こいつ……味方を巻き込んで……!』


『はははははは! 味方だって? そんなデク人形が? バカも休み休み言いなよ新人類。この世界において我々クロスオーバー以外の生命体など無価値に等しい。言うなれば奴隷みたいなものさ。新人類にしたって我々が支配する『テラガイア』に生み出した奴隷に過ぎない。そんなちっぽけな連中が創造主に立ち向かってくるなんて度し難いにも程がある!!』


 <ナーガ>はその場に留まり<ドラパンツァー>を弄ぶようにエレメンタルキャノンを放ち続けた。フレイが手を下すまでもなく敵機の数は減っていき戦いは一対一の状況にもつれ込む。


『……戦術も何もあったもんじゃねえな。てめえの頭の中はマジで自分たち以外はゴミ同然みたいだな』


『だから最初からそう言ってるじゃないか。お前を殺したら次はあの船を殺る。エンジンを壊して動けなくしてから少しずつ船体を千切ってやる。あ、でもその前にブリッジを壊す方が面白いよなぁ。それが終われば最後は中に入った連中だ! ガブリエル達を相手に背後ががら空きになっている瞬間を襲ってやる。きっとまともな抵抗も出来ないまま絶望した顔で死んでいくだろうねぇ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』


 アザゼルが上機嫌で笑っていると<ナーガ>の顔面にエーテル弾丸が撃ち込まれコックピットに衝撃が生じる。

 笑い顔から怒りの形相に変化したアザゼルの視線の先には両腕のガトリング砲全四門を一箇所に集中し構える<ドラパンツァー>が居た。


『……砲門を一箇所に集中させた事で威力を上げたのか。それでこちらのエーテル障壁を貫通した……と。へぇ、バカそうに見えて少しは考えてるねぇ。――けど、その代償は高くつくよ』


『代償……? 知るかそんなもん。それよりもさっきてめえが言った事は何一つ叶わねえよ! <ニーズヘッグ>には指一本触れさせねえし、聖竜部隊の仲間たちがてめえの存在を知ることは無い。――何故ならここで俺がぶっ潰すからだ!! 跡形も無く……な』


『ハァ!? タンクモドキの雑魚が……生意気なんだよ!!』


 怒りに燃えるアザゼルは感情にまかせて<ナーガ>を<ドラパンツァー>目がけて正面から突撃させる。自機の周囲には六基の腕部ユニットを配置しエレメンタルキャノンによる弾幕を張る。

 

『……正面から来るなんて舐められたもんだぜ。アザゼル、てめえに戦場の恐ろしさを骨の髄まで叩き込んでやるよ!!』


 フレイはエーテル障壁を最大にした<ナーガ>に<ドラパンツァー>の集中砲火を浴びせ、腕部ユニットを撃墜しつつその強固なエーテルの鎧を削り取っていく。


『ちぃっ! こんなタンクモドキの何処にこれだけの火力が!? こいつは竜機兵ですらないんだぞ。それがどうして<ナーガ>の障壁をここまで削れるんだ?』


 予想を大きく上回る<ドラパンツァー>の攻撃力に驚きアザゼルは回避行動に移った。その瞬間を逃さずフレイはエーテルダブルガトリング砲で追撃し百メートル以上の長さはある敵機の尾部に無数のエーテル弾を撃ち込んでいく。


『今さら逃げたところで遅い! ここまで接近すれば、そのデカい図体に当てるのは簡単なんだよ!!』


『くっ、この――!!』


 宇宙を縦横無尽に動き回る<ナーガ>に食らいつきながら<ドラパンツァー>の兵装が次々に火を吹き、障壁を食い破り装甲を削り始める。

 劣勢な状況が続きプライドに傷を付けられたアザゼルは機体を翻すと火線に晒されながらも再び正面から突っ込んだ。


『舐めるなよ雑魚がぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 出力最大……ボーガバティーーーーーーーーーー!!!』


 肉を切らせて骨を断つ――アザゼルが敢行したエーテル障壁最大の高速突撃は自機にダメージを負わせながらも<ドラパンツァー>の左肩の装甲と左側のエレメンタルキャノンを奪い去った。


『がぁぁぁぁぁぁぁっ!! ヤロウッ、まだだ……まだやれる!!』


『機体性能も操者の実力も、全部こっちが上回ってるんだよ!! お前は大人しく宇宙の藻屑になって死んでろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


 術式兵装ボーガバティーを繰り出した<ナーガ>は<ドラパンツァー>に止めを刺すべく軌道を変えて再突撃のコースに乗った。

 フレイは破損した兵装を切り離すと使用可能な兵装で迎撃を開始する。その最中、主力兵装であるエーテルダブルガトリング砲の残弾がゼロになり砲身は虚しく空転した。


『くそっ、こんな時に!』


『弾丸が止んだ? アハハハハハハハハ、弾切れか! 運が無かったねぇぇぇぇぇ!!』


 両腕のガトリング砲をパージし身軽になった<ドラパンツァー>はエーテルスラスターを全開にして回避しようとするが、<ナーガ>の高速突撃を躱しきれず右脚を破壊され吹き飛ばされた。

 コックピットには衝撃が走りフレイは視界が歪みながらも必死に機体の体勢を立て直す。その前方には術式兵装が終了しながらも攻撃の手を緩めようとしない敵の姿があった。戦闘によって半分近くの尾部を失いながらも巨大な体躯を誇る<ナーガ>は、半壊状態の<ドラパンツァー>からすれば万全の状態に等しい。

 この圧倒的不利な状況においてもフレイは勝利を諦めてはいなかった。


『いい加減諦めなよ。運も実力のうち……お前には運を味方に付ける実力すら無かったって事さ』


『運……か。それが幸運だって言うのなら俺はとっくの昔にその恩恵を受けてるぜ。ダチ共を助けられず自暴自棄になっていた俺を拾ってくれたドグマの皆、散々馬鹿にしていた俺を仲間として受け入れてくれたハルトと竜機兵チームの皆、こんなデキの悪い兄貴を再び兄と呼んでくれた妹――この仲間たちとの出会い全てが俺にとってかけがえのない幸運なんだよ!!』


『出会いが幸運だって? 陳腐だね。だったら、その安っぽい繋がりに満足しながら消えていくんだね。すぐにその幸運で繋がった仲間たちも後を追わせてやるよ!!』

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