第337話 聖竜の背中を守る者①

 オービタルリングから距離を取り宇宙を飛行する<ドラパンツァー>。その前方には数十機の装機兵から成る大部隊が展開されている。

 近づいてくる敵の大軍を前にフレイは落ち着いていた。地上とは勝手が違う宇宙での<ドラパンツァー>の動作を確認しその感覚を確かめる。


『……よし、シミュレーター通りに機体が動く。スタンディングフォームなら宇宙でも問題なくやれそうだな。地上戦用だと思っていた装機兵がこうも宇宙に対応できる事を考えると大昔の機動兵器の流れを汲んでいるって話も頷ける』


 装機兵の系譜について色々と考えながらもフレイは思考を戦闘モードに切り替える。

 <ドラパンツァー>の両腕に装備したエーテルダブルガトリング砲のセーフティを解除し両肩に搭載されているエーテルホーミングサンダーの発射口を展開、いつでもそれらの武装を発射できるようにスタンバイする。

 そして機体背部に二門装備されているエレメンタルキャノンを稼働させ砲口を前方に向けた。こうして<ドラパンツァー>の砲撃態勢が整いコックピットでは射程範囲内に収まった敵機を次々にロックオンしていく。


『良い感じでこっちの射程範囲に入ってきたな。でもまだ、もう少し……砲撃を始めれば一気に敵が動く。初撃で一機でも多くの敵を撃墜するにはもう少しだけ引きつけて……撃つ!!』


 射程範囲内に入っていた敵部隊が遠距離攻撃を開始しようとした直前でフレイは<ドラパンツァー>の兵装を一斉射した。

 一般の装機兵のものとは一線を画する威力のエレメンタルキャノンは魔法陣ではなく砲門から発射され、レーザーの如く宇宙を走ると射線上にいる敵機をなぎ払う様に撃墜していく。

 

 <サーヴァント>と<量産型ナーガ>は回避行動を取りながら速度を上げて<ドラパンツァー>に接近を試みる。

 フレイはエーテルダブルガトリング砲による無数のエーテル弾丸で牽制しつつ追尾性能が高いエーテルホーミングサンダーを直撃させ次々に敵機を撃墜していった。


 極限まで高まっているフレイの戦意は機体性能に反映され<ドラパンツァー>の火力は支援機とは呼べない恐るべきレベルに達していた。

 搭載している全ての兵装はエーテル障壁ごと敵機を撃ち貫き瞬時に宇宙の藻屑へと変えていく。


『はんっ! お前等の実力はこの程度かよ。生体ユニットだか何だか知らねえけど、血の通ってない奴が装機兵の性能を引き出せる訳ねえんだよ!!』


 <ドラパンツァー>の無双劇がしばらく続いていると敵部隊の動きに変化が生じる。前衛と後衛に分かれ、前衛部隊が盾となって無数のエーテル弾と複雑な軌道で迫る雷撃を受け止める。

 前衛部隊の機体が撃墜される中、その屍を越えて後衛部隊が前に出ると<ドラパンツァー>に向かって加速する。

 敵の動きに合わせてフレイは機体の正面を敵部隊に向けたまま後方に移動する。 

 そのスピードは遅く敵機との距離は縮まり近接戦闘に入るかと思われた。すると<ドラパンツァー>の脚部装甲の一部がストライドし内部の砲門が露出した。


『近づけば勝てると思ったか? 悪いがこの距離も俺の距離だぜ! 脚部砲門開放、アヴァランチ炸裂弾一斉射ッ!!』


 脚部砲門から炸裂式エーテル弾が雪崩の如くばら撒かれる。猛スピードで接近していた<サーヴァント>と<量産型ナーガ>はまともに回避行動を取ることも出来ずエーテル弾の雪崩に飲み込まれ爆発と閃光が広がっていった。

 雪崩に飲み込まれた者は大破ないしは中破し宇宙に投げ出される。その瞬間をフレイは見逃さない。

 今度は機体の脚部外側に搭載されているレールガンを稼働させ雷のエーテルでコーティングした実弾を加速発射し満身創痍の敵機に次々に止めを刺す。


『これで、敵装機兵部隊の約三割を撃破。対してこっちはガトリングの残弾六十パーセント、機体エーテルエネルギーは八十パーセントか。――へっ、こいつらを全滅させても余裕で釣りが出るぜ!!』


 大部隊を相手に見事な大立ち回りを披露するフレイ。このまま圧倒するかと思われたその時エーテルレーダーに一際強大なエネルギー反応が表示され、そこから発射されたエレメンタルキャノンが<ドラパンツァー>をかすめた。


『この威力は……! 雑魚共の比じゃねえ。こいつは……』


 コックピットモニターには全長百メートルを超える機体が映る。フレイはその姿に見覚えがあった。

 かつてカーメル三世からこの世界の真実について語られた際に『オシリス』を強襲してきた大型装機兵<ナーガ>――熾天セラフィム機兵シリーズ開発以前の古い機体ではあるがそれでも戦闘力は現存する一般装機兵を凌駕する性能を誇っている。

 聖竜部隊が初めて戦ったクロスオーバー所属機でもあり、当時はその圧倒的な性能によって軽いトラウマを植え付けられた。その元凶と同じ機体が宇宙を泳ぐようにして<ドラパンツァー>目がけて接近してくる。


『間違いねぇ、『オシリス』で戦った<ナーガ>だ。まだ同型機が残っていたのか!?』


 <ナーガ>を射程範囲に収めるとフレイは各兵装で迎撃を開始する。<ナーガ>はその巨体から予想出来ない機敏さで回避すると螺旋を描くような軌道で一気に距離を詰めた。

 そこにアヴァランチ炸裂弾をばら撒き<ナーガ>に直撃、大規模な爆発が起こる。


『やったか!?』


『くくく……そんな確証の無い攻撃でやられるほど<ナーガ>のエーテル障壁と装甲はヤワじゃないんだよ』


 爆発の中から無傷の姿を現わす<ナーガ>と共にコックピットに男の声が木霊する。声と同時にモニターに映し出されたのは中性的な姿の少年だった。


『お前は……アザゼル! でも何故だ!? お前は『オシリス』でハルトが倒したハズだ。あの攻撃を受けて生き残れたハズは……』


『ああ、オリジナルはその時に死んだみたいだね。俺はオリジナルが万が一に備えて残しておいた複製体さ』


『つまりコピーって事かよ。『ドルゼーバ帝国』での戦いには参加していなかったな』


『あの時はこの<ナーガ>が改修中だったからね。まあ、それが完了していたとしても地上に降りるつもりは無かったよ。あんな重力と汚らわしい生物に支配された場所に何の価値がある?』


 <ナーガ>が尾部から出した無数の触手を<ドラパンツァー>目がけて伸ばしてくると、それらの先端部分をエーテルダブルガトリング砲で撃ち払い、本体をエーテルホーミングサンダーで攻撃する。

 <ナーガ>は頭上にエーテルハイロゥを展開すると強化されたエーテル障壁で直撃コースの雷撃を全て弾いた。


『エーテルハイロゥだと!? あの機体は熾天機兵じゃなかったハズだろ! それが何で……』


『だから改修を施したって言ったじゃないか。見た目は以前と同じでも中身は最新の技術で強化されているんだよ。後継機である<サーペント>や<ナーガラーゼ>、それに<量産型ナーガ>のパーツを取り入れ遙かにパワーアップした。それに元々<ナーガ>は宇宙戦でポテンシャルを発揮する機体なのさ。――つまり何が言いたいか分かるかい?』


『さあな、もったいぶってないで言えばいいだろ』


『そんな地上を這いずり回るしか取り柄のないタンクモドキで俺に勝てる訳ねぇぇぇぇぇぇだろぉぉぉぉぉぉぉぉ!! とっとと死ねよやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る