第2話 研修
俺は女神フェリオと共に天界へ続く扉を潜り、光の中を進んでいくこと数分――光が晴れて、俺の目の前には神秘的な都市の光景が広がっていた。
『着きました! ここが天界の第四都市ネミュラです!』
「第四都市?」
『はい。天界には主に五つの都市区画が存在していて、中央部にある第一都市アルハスには《
「へぇ。要するにその第一とか第二とか、数字が増えるごとに住んでいる神のランク? みたいなやつが下がっている訳か」
『な、なんか言葉に棘がありますが……まぁ端的に言えばそうですね。第一、第二都市には上級の神格が住み、第三、第四には中級の神格が、そして第五都市には下級の神格――エイジさんに分かりやすく言えば、天使や神獣が住んでいます』
天界って言うのは、なんかこうエデンの園みたいなめっちゃ自然が多い印象があったのだが、案外東京――いや、この風景から見ればヨーロッパ諸国の都市に近いのだろう。神様たちが住まう世界とは思えないほどに、人間味が溢れている。
『こちらにエイジさんの新しい家がありますから、ついてきてください』
「ああ」
何かやけにスムーズな気がする。俺が魔王を斃してから数分しか経っていないのに、もう既に住居が用意されているなど、普通ならあり得ない。もしかして俺が魔王を斃すことを、この女神は想定していたのか?
『……エイジさんが怪訝な表情をするのも無理はありませんね』
「お前俺の心の声を読み取りやがったな?」
『それは女神なんですから、それくらい可能ですよ』
「へ~、俺もそういうの出来るかな?」
『エイジさんはまだ神の中では中級で、しかも私よりも格が低いんで無理ですね』
流石に人間上がりの神と純粋な神だと格が違うのは必然だと俺も思う。だが、それでも心の声を読むという行為をしてみたい――そう思いながら、俺はフェリオをじっと見つめて声を聴こうとする。
『ちなみに万が一私の心の声を聴いた場合、エイジさんの長くて、太くて、熱いモノを……捥ぎ取ります』
「い、嫌だッ! お前、男である俺を殺す気か!?」
俺は股間を隠す。見た目に反してなんつー恐ろしいことを……
『何を勘違いしているんですか?』
「だ、だよな。流石に男の大事な部分を捥ぎ取るなんて……」
『捥ぎ取るのは右脚です』
「そうかそうか、なら――って、どっちにしろ怖えーよッ?! 紛らわしい言い方してさ、女神ってのはすぐそんな物騒なこと言うのか?」
『乙女の純情を穢す行為は、右足一本じゃ生温いと思うんですが……』
「いや十分な代償だわ! ラッキースケベに遭った主人公ですら物投げられたり殴られる程度だよ? それに比べてお前、右脚って……」
『うるさいですよエイジさん。もう少し分を弁えてください』
フェリオに理不尽に振り回されているうちに、俺たちは目の前の一軒家で足を止める。見る限り、何処にでもある……何なら俺の家にそっくりな外観だ。神様の世界というのは案外人間味があるのだと、再び実感する。
「ここが、俺の新しい家……」
『では中に入りましょうか』
フェリオがそう言って扉を開けて中へと入って行く。外観をずっと見ていた俺は、どんどん進む彼女の背中へと走っていく。
――内装は、本当にありふれた一軒家のようなものだった。三年間近世的な世界で住んでいたからか、色々と懐かしみがある。例えばリビングには――
「え!? おい、これってテレビ……だよな?」
『そうですよ。エイジさんはこっちの方が馴染みがあるかと思って、仕入れてきたんです。あ、ちゃんと繋がりますから、安心してください』
フェリオがテーブルに置かれたリモコンを手に取って、電源ボタンを押す。するとテレビが点いて、番組が流れる。地球――というか、日本で流れていたメジャーな番組だ。流石は天界、こう言ったことも可能なのか……凄い。
更にフェリオはリモコンを操作する。すると、見覚えのあるドヤ顔が出てくる。
『ちなみにAma〇onやdア〇メとかも繋がりますよ』
「へぇ、凄い環境だな。大体のチャンネルは繋がるし、しかもアニメもほとんど見れるとか、聞く人が聞いたら卒倒するぞ」
『あれ? エイジさんこういうの好きじゃないんですか?』
「いや俺ゲーム専だから。アニメっつっても有名どころの深夜アニメくらいしか見たこと無いし、何なら俺の家にあったソフトと漫画全巻置いてくれ……」
アニメは有名どころしか見たことが無い、とは言ったが、エロゲー原作のアニメやゲーム原作などはマイナーであろうが見ている。エロゲーは兄が収集しているのを借りてやっていて、結構いい作品が多いから好きなのだ。
『折角説明書と格闘しながら整備したんですから、文句言わないでください! まったく、イルージアに行ってから随分と生意気になりましたね!』
「え!? お前がやってくれたのか? なんかこう、そういうのに詳しい神様に依頼してって感じじゃなくて?」
『私にそんな人脈ありませんよ! しかも依頼したらお金かかるんで、自分でやった方が幾分か効率がいいんです』
流石に意外だった。フェリオは容姿と表向きの言動は凄くいい人そうに見えるが、実際のところは俺を貶したりする相当気が強い方の女神……だと思う。そんなフェリオが、俺の為にわざわざ……これは。
『フラグが立ったとか、そういう訳じゃないですよ? 単に私は新たな世界の管理者となるエイジさんに標準的な環境づくりをしただけです。本当にエイジさんに気があってやってるわけじゃありませんよ?』
「お前そういう言動を俺の祖国じゃ何て言われてるか知ってるか? ツンデレって言うんだよ。もう少し上手く誤魔化せよ」
『……さて、この物件を売却する準備をしなくちゃいけないので、私は――』
「嘘ですごめんなさいやめてください」
俺は新居のリビングで、女神に向かって誠心誠意の土下座をする。今までにいただろうか、新居に来て早々土下座をする奴が。
少なくとも俺以外居ないはずだ。こんな珍しいこと俺にしか起こっていないはず。
『はぁ、そんな見苦しいことしてないで、次の部屋に行きますよ』
「ああ、分かった」
俺は即座に立ち上がって、フェリオの後についていく。
洗面所、風呂場、トイレ、倉庫、俺の部屋――様々な部屋を回り、そして俺たちは最後の部屋の扉を開けた。
『ここが書斎――というか、エイジさんの仕事場ですね』
「仕事場?」
『はい。エイジさん、貴方は今日から神の仲間入りを果たしました。……では問題です。神とは何をするのでしょうか?』
「さっきチラッと言ってたな。何だっけ……世界を管理する? だったか」
『その通りです。私たち中級の神格は一つから二つの世界を与えられ、その管理をするんです。具体的に言えば、世界を破壊しかねない人間を間接的に殺したり、逆に世界の危機を間接的に食い止めたりします』
「なんか大変そうな仕事だな」
フェリオが書斎に置かれたデスクトップPCを起動して、あるソフトを開く。するとマルチモニターに色々なものが表示される。彼女はそのうちの一つ、予定表のようなものを指さす。
『この予定表は、世界に後々起こる大きな
「つまりこれを参照しながら、世界が危なさそうだなーって思うことが起きそうなら、間接的にそれを阻止するってことでいいのか?」
『そういう事です! 理解が早くて助かります』
「でもさ、世界の危機なんてそう簡単に起きねーだろ?」
『そうでもありませんよ、世界とは未知数ですから。しかも人間は数々の過ちを犯しますからね、結構大変かもですよ』
確かに人間というのは数々の非人道的なことをやってきた。戦争や人体実験などがいい例だ。俺の転生した異世界イルージアもそう言った人間が多少なりとも存在したのを覚えている。魔王の為に子供を騙して惨い実験をしたりとか。
『だから、エイジさんにはこの仕事に慣れてもらう為に比較的簡単な世界の管理を任せます』
「それはありがたいな。流石にいきなり難しそうな世界を任されるのは困るからな。それで、その世界ってどういうもんなんだ?」
『今回エイジさんに管理してほしい世界は――これです』
フェリオがEnterキーを押す。するとモニターにその世界の概要が記載されているテキストファイルが出てくる。俺は大々的に表示されている世界の名前を読み上げる。
「エディラス……?」
『はい、今回エイジさんが管理する世界の名前です。どういう世界かというと、簡単に言えばイルージアと酷似した世界です』
「つまり剣と魔法がある世界ってことでいいのか?」
『そういう事です。こういった系統の世界というのはシステムが非常に単純で、初心者神格でも簡単に管理することが出来る、謂わばチュートリアルのようなものなんですよ』
「確かに俺みたいなゲーム好きやアニメ好きな奴にとっては簡単かもな」
剣と魔法の世界は、二次元界隈では王道中の王道で最早非オタの一般人ですら大体の世界観を理解しているくらいにはメジャーな世界だ。しかも俺みたいな結構な数のゲームをやって来た俺にとっては完璧に理解していると言っても過言ではない。
『そして更に注目すべきなのは、このエディラスという世界……イルージアと
「マジかよ!? てっきり多少違うものかと思ってたんだが……」
『一応説明しますと、地球含めた全ての異世界は、いずれも繋がっているんです。――いえ、具体的に言えばこれらの世界は
「パラレルワールド……ね。確かに人間が住んでる惑星なんてそう簡単に見つからないからな。それなら納得いくな」
『まぁそれはそれとして……兎に角、エイジさんには今日からこのエディラスの管理に専念してもらいます』
「まずは研修ってわけか」
どんなこともチュートリアルが無ければ分からない。今のような状態だと尚更システムを理解する為にこういったものが必要なのだ。――というか、思ったんだが、神の世界って、何処か地球に似てる気が――
「……まぁいいか。分かった、とりあえず色々教えてくれよ」
『勿論です! 是非、この先輩女神に任せてくださいっ!』
フェリオは「ふふん!」と鼻を鳴らしながら胸を張る。多分コイツ、後輩が出来るのが初めてだから張り切ってるんだろうな……俺はそう思いながら、椅子に座る。
『えっと、まずは先程の予定表を見てみてください』
「ああ」
俺は予定表のタブを開き、それを見る。モニターに表示された日時と予定表の日時を照らし合わせながら読んでいく。
「えっと……この〝異世界からの転生者が現れる〟ってのでいいのか?」
『あ、え、はい。そうですそうです! それで、デスクトップに〈神眼〉っていうソフトがあるんで、それを開いてください』
「分かった」
……なんか、パソコンの授業をしているみたいだな。小学生の頃の何も分からなかった状態を思い出す。懐かしいなぁ……あの時はキーボードを叩くにも人差し指で一つ一つ丁寧に入力したり、ソフトの操作にも苦労してたなぁ。
そんな懐古感に浸りつつ、俺はフェリオの指示通りに〈神眼〉というソフトを開く。するとまるでカメラのような画面が現れる。
『それで、先程の予定表に書かれていたコードを、この欄に入力してください』
フェリオが指をさしながら指示を下す。そんな彼女の顔が、俺の顔と近い距離にある。めっちゃいい匂いがする。流石女神様というべきなのか、普通の人間よりも遥かに華やかで甘い香りだ。
しかもフェリオは凄く美人だから、こうして近づかれると、少しドキドキする。
『……今、変なこと考えました?』
「考えてねーよ。単にいい匂いがするなーって、めっちゃ近いなーって思ったくらいだから、気にするな」
『え、あ、えぇ……す、すみません』
フェリオは俺と少し距離を取り、顔を赤らめる。俺は今無意識に言ったけど、もしかしなくても照れたのか? 普段は少しうるさいけど、可愛いところもあるな。
そう思いながら俺は彼女の指示通りにコードを入力していく。
すると画面が切り替わり、森の中が映し出される。その中には、一人の俺より二、三歳くらい年下っぽい外見の少年が立っていた。
少年は黒髪黒目という、一目で日本人と分かる容姿をしており、ブレザーをその身に纏っている。予想通り、高校生だ。そして、彼は「ここは何処だ?」と言わんばかりに周囲を見渡している。
「こいつがさっきの予定表にあった〝転生者が現れる〟ってやつか?」
『そうです。この〈神眼〉は世界を傍観する為のソフトで、特定のコードを入力すれば、指定の場面を映し出すことが出来るんです。あ、ちなみに検索機能もあって、適当な単語を入力すればその条件に合った場所が出てきます』
求人サイトとかグー〇ルとかヤ〇ーみたいな検索サイトと似ているな。どっちかと言うとグー〇ルに近い気がする。地図もあるし、検索機能もあるし。
「便利だなぁ……んでま、俺はコイツの行動を監視すればいいのか?」
『…………』
「どうしたんだよ、聞いてるんだぞ」
『いえ……なんか呑み込みが早いんでムカついてるだけです。私だったら絶対に「次はどうするんですか?」とか聞くところを自分で勝手に理解して……ぶつぶつ』
「いや、お前の頭が悪――痛いっ!?」
俺が正論を口にした瞬間、腕に痛みが迸る。フェリオが俺の腕を本気で抓っているのだ。いくら自分より理解力があるからって、理不尽過ぎる。
『えーと、何でしたっけ。あー、監視でしたっけ? その通り、この転生者さんが次の未来が起こるまで監視して、何か怪しい言動や大きな分岐点となる行動をするかを確かめるんです』
「分岐点? この予定表の通りにならないケースがあるってこと?」
『たまにありますね。色々と突飛な行動をする人が稀にいるんで、もし予定表の通りにならない場合は自動的に別の分岐に移動して、また別の未来が出てきます』
「なるほど。そこらへんを注意してやっていくわけか」
『ですね。じゃあ、早速その転生者さんの行動を監視してください。ちなみにそこにあるヘッドホンでその世界の音声を聞き取ることも出来るんで、活用してみてください』
「ああ、分かった」
俺はヘッドホンを手に取り、装着する。すると、まるでそこにいるかのようにやけに現実的な環境音が耳に入る。虫の鳴き声や草木が揺れる音――そして、監視対象の声が、聞こえてくる。
《ここは何処だ……? 俺は確か、トラックに轢かれて……気づいたらここに居た。クソッ、訳が分からない。まぁ、とりあえず森を抜けなきゃな》
「なんか俺みたいな境遇のやつだな。こいつも多分俺と同じように女神にトラックぶつけられて転生したんだろうな……可哀そうに」
『エイジさん、うるさいですよ。集中してくださいよ』
「あいあい。……あ、そうだ。なぁ、フェリオ。こいつの資料とかって無いの? 仮にも監視対象なんだから、あるだろそういうの」
『……チッ、貴方みたいな勘のいい
質問をするだけで睨まれて舌打ちをされるとか、本当つくづく理不尽だな。
『それに関しては〈深窓〉っていうソフトを開いて、先程のコードを入力すれば表示されます』
「えーっと、〈深窓〉……これか。んで、コピー&ペースト……っと。よし!」
先程と同じ要領で、俺は操作をしていく。すると数個のタブが現れる。そして、俺はそれを拡大してその資料に目を通していく。
――この少年の名前は
軽いかもしれないが、可哀そうだ。本当に。
そして、俺は彼のステータスへと目を通していく。
――そこで、俺は衝撃を受けた。
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牧宮 凌空 16歳 9月8日 男 レベル:1
基礎ステータス
攻撃力:999 防御力:999 敏捷性:999 精神力:999
HP:999 MP:120000
魔術適正:あり
保有属性:火属性 水属性 風属性 土属性 雷属性 光属性 闇属性
時空属性 無属性
スキル一覧
【
【風属性魔術】【土属性魔術】【雷属性魔術】【光属性魔術】【闇属性魔術】
【時空魔術】【無属性魔術】【
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目の錯覚か? 魔王との激闘の後だから、疲れているのかな? 俺は何度も何度も瞬きをして、目を擦って、再び牧宮凌空のステータスを見る。
――うん、変わってない。
そして、俺は遅れて口に出す。
「…………は? はああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
チート行為は異世界でも許しません! ~魔王を討伐した元勇者は、神となって異世界に蔓延るチーターを撃滅す~ 暁 葵 @Aurolla9244
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