第31話恋の策謀事件4

こうして時が経ち平穏な日々が流れていく。しかしヘルメスはそんな生活に嫌気がさしていた。あれからアフロディティーはキューピットに夢中になりデートを重ねている。それはヘファイストスも好ましくないと思っていた。


そんなある日のことだった。

「あれ?私のサンダルがないわ。」

アフロディティーは夕食後に寮に戻ったところだった。いつもならクローゼットにしまってあるはずの金のサンダルがないのだ。

「どうしたの?」

同じルームメイトのウンディーネとガイアがアフロデティーに聞いた。

「私の金のサンダルがなくなってるのよ。いつもならクローゼットの中にしまってあるのに。」

アフロディティーは思わず叫んだ。

「変ね。だって私達は今日はアフロディティーと食事を取っていたのよ。」

ウンディーネが首をかしげる。

「それに女子寮は監督の先生が見張っているはずだから男子はありえないし・・・ってことは他の寮の女子か他の部屋の女子かしら?」

アフロディティーの金のサンダルは片方だけがなかったのだ。

「どこかで落としたのかもよ?」

ガイアがアフロディティーに聞いたが彼女は首を横に振った。

「手に持ってたっていうの?靴なんだから履かないといけないんじゃない?それに落としたなんて見覚えないわ。」

「よし、明日みんなに聞いてみましょう。」

ウンディーネの言葉に2人は頷いた。

と、その時アフロディティーが手にしていた片方の金のサンダルの中から紙切れが落ちてきた。

「これは何?」

気がついたガイアが拾って読むとガイアは顔色を変えた。

「サンダルを返して欲しければ俺の恋人になるんだな。」

「えええ?」

3人はしばらく驚きの表情を変えなかった。

翌日の朝食の時、アフロディティーはこのことを男子達にも話した。

「なるほどね。」

ケンタウロスが話を聞いて頷いた。

「それじゃあ昨日の夕食にみんなが何をしていたか探ればいいんじゃないかな?」

マールスがみんなに聞いた。

「なるほど。」

みんなが頷いてそう話しているとワル3人がケンタウロス達の前を通りかかった。

「まさかお前ら!?」

ケンタウロスが後ずさりしてワルに言った。

「はっ?何のことだ?」

「お前らだな。アフロディティーのサンダルを盗んだのか?」

ユニがワルに蹴りを入れようとしたがワル3人が首を横に振った。

「勘違いもいいかげんにしろよ。いくら俺らでも女子寮は入らないぞ。」

サタンがユニを睨んだ。

「疑ってごめん、違うんだったらいんだ。」

ケンタウロスがその場を沈めてくれたので喧嘩にはならなかったのだ。

「でも怖いよな。手紙まで入ってたんだって?」

ディオが身震いする。

「本当に嫌になっちゃうわ。」

そんなアフロディティーは呆れ顔だった。

しかしこれは悪夢の始まりに過ぎなかったのだ。

それからみんなはそれぞれ席について食事をし始めた。

「あとは放課後に話しましょう。」

ウンディーネの言葉にみんなが頷きサンダルの件は一旦話すのをやめた。

 そしてあっという間に放課後になった。アフロディティーはガイアとウンディーネと寮監督のギュム先生の部屋を訪れていた。

「失礼します。」

3人でノックをしてドアを開けるとギュム先生は机に向かって何か書物をしていた。

「あら、珍しいわね。どうしたの?」

ギュム先生はにっこりして3人を招いてくれた。

アフロディティーは先生に昨日のことを話した。先生なら何かわかるかもと思ったからだ。

「なるほどね。でも寮の出入りのドアはいつも私が見張っているけれど男子生徒なんて来なかったわよ。もし男子生徒が来たとしたら事情を聞いて対処するわね。」

「そうですか・・・。」

アフロディティーはがっくり肩を落とした。

「でも、もしかしたら窓から侵入したとか?はぁ・・・私としたことがこれは私にも責任があるかもしれないわね。」

ギュム先生はため息をついた。

「そんなぁ、先生に処罰は下りませんよね?」

ガイアが残念そうに言った。

「わからないわ。でも生徒の部屋の中まで見張るなんて寮監督でも無理だもの。そこはプライベートってものがあるじゃない?でも監督として行き届いていなかったと判断されれば処罰は下るかもしれないわね。」

ギュム先生は首を横に振りお手上げのポーズをした。

「もし処罰が下るとしたらギュムナスティケー先生は寮監督を降りるのでしょうか?それと処罰は誰が決めるのですか?」

ウンディーネが困惑した表情で先生に質問した。

「処罰は校長先生が決めるのよ。だって学校で1番偉いお方でしょう?それと処罰が下ったら・・・そうかもしれないわね。そしたらみんな、ごめんなさいね。」

「えええ?」

3人ともがっかりして俯いた。

「大丈夫よ。校長先生に話せばきっとわかってくださるわ。それにしても誰が盗んだのかしらね?あなた達の周りで思い当たる節の生徒はいないのですか?」

ギュム先生は3人をなだめて言った。

「わかりません。アマイモン君やエリゴス君、サタン君にも聞いたんですけど違うって言うので彼らを信じようと思います。それに彼らの目は真剣でした。なので嘘じゃないと思うんです。」

アフロディティーが必死に訴えた。

「うーん。厄介なことにならなければいいわね。」

ギュム先生と3人の女子達はしばらく考え込んでいた。

 この日の夕食の時も朝と同様にアフロディティーの盗まれたサンダルの件について話が行われた。そこにはヘルメスとヘファイストスの姿もあった。

「誰が盗んだのかこれじゃあ見当がつかないよな。」

ヘルメスは腕組をして頷いた。

「でもあんな手紙受け取ったら誰でもぞっとしちゃうわよね。」

ウンディーネが身震いした。

「アフロディティーに聞くけどあの金のサンダルは誰からもらったものなの?それとも自分で買ったの?」

ケンタウロスがアフロディティーに真剣に聞きいた。

「お母さんからもらったのよ。生まれた時からあったからいつもらったのかは覚えていないけど。」

 翌日になった。あのアフロディティーの件以来特に変わったことはなかったのです。でもアフロディティーは不安でいっぱいだった。もしあのサンダルがいらないと言ったら犯人はどんな反応をするのだろう。そしてキューピッドも彼女のためになんとかしないとと一生懸命に考えていた。自分にできる何かをしてあげたいという思いはますます強くなっていった。

「やあ、アフロディティーおはよう。」

キューピッドは彼女に笑顔を振りまいて彼女からの不安を消そうとした。

「おはよう。」

最近のデートでも彼女はそっけない態度を取っていたがあれはサンダルが盗まれたのが心の中に引っかかってるからだとキューピッドは自分に言い聞かせていた。

「辛いのはわかるけどさ。デートの時くらい・・・。」

キューピッドが彼女に言ったその時だった。

「あなたに何がわかるって言うのよ?こんな時に笑顔になんかなれないわよ。私の気持ちも知らないでよくも言えたわね。」

アフロディティーはテーブルを叩き叫ぶとキューピッドの頬を平手打ちした。

「私はあなたの遊びに付き合っている暇はないんです。こっちは真剣なのに・・・私の身に何かあったらどうしてくれるの?」

「そんな言い方しなくてもいいだろう?僕だってサンダルの件が引っかかってるのはわかってるんだよ。でもいつまでもそっけないとイライラするんだよね。」

キューピッドが頬を膨らませて彼女の前に立ちはだかりました。

「キューピッド、アフロディティーおはよう・・・って僕らはいない方がよかったのかな?」

そこに丁度ケンタウロスとユニ、ディオがやって来たが2人の喧嘩の邪魔はしてわいけないと過ぎ去った。

「遊びって・・・僕らは真剣に交際してるんじゃなかったのかよ?」

キューピッドが彼女の腕を引っ張ったのだ。

「痛い!離してよ!」

彼女は必死に抵抗した。

「でも最近のアフロディティーはどうかしてるよ。この前僕があげた花束を嬉しそうに受け取ってくれたのに数日経ってやっぱりいらないなんておかしいよ。カバンの中に見慣れない歯ブラシがあったけどどういうことだよ?」

キューピッドは彼女を攻めた。

「勝手に人の物を見ないでよね。別に私のなんだからいいじゃない。もう放っておいてちょうだい。」

アフロディティーは彼から逃れて去って行った。これは何かの前触れだろうか?

 アフロディティーは怒りに燃えていた。そしてキューピッドに嫌気がさしていた。もう彼のことはうんざり、できれば彼の前から消えたいと思うようになったのだ。そんな中声をかけてくれたのがマールスだった。

「やあ、アフロディティー。おはよう・・・どうかしたの?」

「何でもないわよ。」

「女の子が怒ってると肌に良くないよ。」

マールスは彼女に一緒にご飯を食べないかと誘ってくれた。

「別にいいわよ。」

2人は料理を運びテーブルに着くとほっと胸をなで下ろした。

「やっと落ち着いてきたみたいだね。」

マールスがにっこり笑った。

「そうね。なんだかマールスといると元気が出るわね。」

それからは2人で食べながら話した。

「僕の本当の名前はマーウォルスって言うんだ。」

「へえ、そうなんだ。知らなかったなぁ。」

「僕は三機能イデオロギーを捧げられたのさ。」

マールスは話題を変えてアフロディティーを楽しませた。

「三機能イデオロギーって何?」

彼女がマールスに聞いた。

「これはデュメジルの研究のなかでも最も知名度が高いのが神話群に共通した三分構造が見られるという”三機能仮説”なんだ。『三区分イデオロギー』『三機能体系』『三機能イデオロギー』『三機能構造』この4つからなるのさ。」

マールスは一息ついてから話を続けた。

「この仮説によれば、原印欧語族の社会と宗教および神話は、上位から順に『主権』『戦闘』『その他生産など』の三つに区分され、このイデオロギーが社会階層や神学の主要部分を構成していた、というんだって。それぞれ第一、第二、第三機能 (F1, F2, F3) と呼ばれるんだ。 F1はさらに『呪術的至上権』と『法律的至上権』に分割され、相互補完的に機能するのさ。前者は攻撃的で暗く、霊感に満ち、激しいと表徴されるが、後者は理論的で明るく、穏やかで善意に満ちていると表象されるのさ。 同様の分割はF2にも見られるけど、F1ほど明確ではないんだ。 F3は、神話によれば本来集団には存在せず、後に闘争を経てF1, F2に加わったのさ。 また三機能を包括する女神の存在も確認されるんだって。」

「マールスっていつも詳しいから感心しちゃうな。」

彼女は彼の話に夢中になった。

「いや~、ウンディーネほど詳しくないけどね。」

2人は話に華を咲かせながら朝食を食べた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時と光と風の中で Kurumisaki @kurumisaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ