ハロウィン記念 番外編
チュンチュンと小鳥が囀る早朝。太陽が地平線から僅かに顔を出して居るが、街はまだ静かさが支配している。そんな王都のとあるアパートの前…
ピンポーン。
「届け物を届けにきましたー。ふわぁ…」
小さく欠伸をしながら配達員が荷物を渡す。
バタン。ガチャリ。配達員から小さな小箱を受け取った部屋主はしっかりと鍵を閉めた。
扉が再び閉まり、部屋が薄暗くなるが、
「ふんふふーん♪」
そんな様子とは裏腹に部屋主の期限は良い。
「ふふふふふ…。やったぜ…。」
部屋主は暗い部屋の中、ポツンと部屋の中央に置かれた机に先程受け取った小さな箱を置き、不気味な笑みを浮かべた…。
そして丁寧に包装を解き、箱を開ける…。
そこにあったものは…。
薄茶色の生クリーム。宝石の様なフルーツ。
可愛らしいゴーストやゾンビのイラストが側面や上に描かれている。
極め付けは、白いチョコレートのプレートに書かれている
『HAPPY!!HELLOWEEN!!』の文字。
一つのケーキがあった。
それもただのケーキでは無い。王都最高級のスイーツ店のハロウィン限定販売のケーキである。ちなみに一つで普通のケーキ30個は買えるであろう値段だ。
「うううう…やったぜ。この一週間、このケーキを買う為にどれほどの苦労があったことか…。」
部屋主、ライトは静かに涙を流した。
毎日ストーカーしてくる変態から逃げ、好き有れば引っ付いてくるアホの目を欺き、休日には(平日も)デートに(強制的に)連れて行こうとする暴君の隙をついて予約したのだ。そして、この一週間、ライトの食事はモヤシである。
「だがしかぁぁぁあし!!そんな苦労があってこそ、このスイーツは輝くんだ!!」
カーテンの隙間から覗く朝日がケーキに反射し、神々しいまで輝いて見える。
「フフフ…アホエレンは既に対策済みだ…。」
今日はハロウィン。街では仮装祭が開かれる。
確実に現れるであろう
「あぁ…。神よ…。我が人生に平穏あれ…。」
涙を流しながらフォークを手に取った…。その時、
ぴんぽーん。
部屋に響いた音に固まるライト。
「いや、まさかな。聞き間違いだ。来るには早すぎる…。うん、きっとそうだ。聞き間違い聞き間違い聞き間違い…。」
ピンポーン。
「…oh」
再度慣らされたベルが、ライトに残酷な現実を叩きつける。が
「待てよ?エレンなら呼び鈴なんて鳴らさずに入り込んでくるはずだし…。鍵がかかっているならそのままドアを破壊して入ってくるはず…。つまり…」
ぴんぽーん。
「エレンじゃ無い!!」
ホッと胸を撫で下ろし、来客に対応しようとドアを開けた。
「どなたですかー。」
さっさとケーキを楽しみたいライトはぶっきらぼうに返事をしてドアを開けた。
そこにいたのは…。
「おにぃちゃん」
黒みがかかった灰色、小さな赤いトゲトゲが付いた尻尾、フードには目と白い牙。幼いドラゴンの着ぐるみで仮装をしたエリ(第一章参照)がいた。手には小さなカボチャのバックを持っている。
「エリちゃん?どーしたのこんな朝早く…」
「とりっく、おあ、とりーと!おにぃちゃん!おかしちょーだい!」
「へ?」
固まるライト。
「きょう、はろいんでしょ!おかしちょーだい!!」
満面の笑みで言われる。
「…ちょっと待ってね。」
玄関先にエリを残し、家の中に入る。
(やべぇぇぇぇぇ!!何もない!!)
ライトは常時金欠である。お菓子を買う余裕など無い。
(流石に味付け海苔じゃあ…ダメだよなぁ。もやしなんて論外だし…。あ、角砂糖はギリセーフか?)
名案だとばかりにウキウキになって角砂糖をエリに持っていく。
「お待たせー、エリちゃん。」
「おにぃちゃん!わーい!」
何が貰えるのかとキラキラと目を輝かせるエリの姿がライトの心を締め上げた。
貰えないと微塵も思っていない、純粋無垢にお菓子を楽しみにしているこの女の子に、自分は角砂糖をあげるのか…。だが、他にあげられるモノなど何も…。
ライトの脳内に一つの選択肢が追加されるが、全力で無視する。
(…だ、ダメだダメだダメだ!アレは俺が…)
「とりっくおあとりーと!(キラキラの瞳)」
(俺の…)
「おかし♪おかし♪おかし♪(満面の笑み)」
(………)
ライトの視界にカボチャの中身が映る。その小さくて可愛らしいバックにはまだ何も入っていないようだ…。おそらく1番最初にここ来たのだろう。
(…おい!ライト!この可愛らしい笑顔の女の子の、悲しみに暮れた表情を見たいのか!さっさとケーキをあげるんだ!(悪魔))
(ダメよ!ライト!角砂糖なんてあげたら、折角楽しみにしていたハロウィンが台無しになっちゃうじゃない!(天使))
ライトの脳内で
「おにぃちゃん?」
コテンと首を傾げるエリ。
(…ふっ、すまないなエリちゃん。俺には…俺にはコレだけは譲れないんだ。)
意を決して言葉を紡いだ。
「おいし〜♪」
モグモグ。ライトの膝の上に座り、ほっぺたに生クリームを付けながら、幸せそうにケーキを頬張る小さなドラゴンが居た。
「喜んでもらって何よりだよ…エリちゃん。」
美味しいケーキを食べながらはしゃぐエリが膝から落ちぬように、優しく持ちながらライトは自身の口に角砂糖を放り込んだ。
「そーいえばエリちゃん。どーしてここに?」
エリの頬に付いたクリームをタオルで拭いながらライトが尋ねる。
「あ、そーだ!はい!おにぃちゃん!」
ポケットから一枚の紙を取り出し、ライトに渡した。
『ライト君へ。今日は仮装祭なのじゃが、ワシもエリの両親も忙しいので、エリの面倒を頼むわい。じゃ、よろしく。ぐっばい。 ニック』
(ニック学園長おおおおおおお!!)
もはやお約束の展開に頭が痛くなるライトだった。
(だが、まぁ…)
自身の膝の上で満面の笑みを浮かべる小さなドラゴンを見る。
(今日はこれでよしとするか…)
そう思い、えりを優しく撫でた。その時…
バーン!と勢いよくドアが開かれた。
「ライト!トリックオアトリートよ!いたずらさせなさい!!」
「帰れ」
いたずらする気満々の煩悩の塊のような悪霊の口に角砂糖を投げ込み、外に放り出した。
「ちょっと!ライト!いきなり何すんのよ!開けなさい!!」
「うるせええええ!!待合場所ここじゃねえだろ!!」
ギャーギャー喚きながら喧嘩する2人だったが、最終的にドアを破壊して入ってきたエレンの顳顬をライトがぐりぐりすることで決着した。
「もー…折角頑張って仮装してきたのに…」
エレンは黒猫のコスプレをしてきたようだ。猫耳に尻尾、首元の鈴、そして髪の毛は魔術で黒に染めている。ハッキリ言って、とてつもなく可愛い。
「まぁ…すげえ似合ってる」
「ホント!ライト!えへへへ♪」
頬を赤らめて嬉しそうに笑う想い人の姿を見てライトも怒る気はなくなった。
「あー!おひめさまのおねぇちゃんだ!」
「あら!エリじゃない。ほっぺにクリームが付いているわよ。」
エレンはエリの頬に付いたクリームを優しく拭う。
「ありがとうおねぇちゃん!お礼に一口あげる!!」
そう言ってケーキを一欠片切るとエレンへと向けた。
「あーん♪」
「あむ…うん!甘くて美味しいわね!」
「えっへん!」
ドヤ顔のエリ。格好はドラゴンと猫だが、2人の姿はまるで姉妹のようだ。
「あー、エレン。今日なんだが、エリちゃんも一緒でいいか?後で埋め合わせはするから。」
「ええ。良いわよ。またニック学園長の指示でしょ?仕方ないわよ。…まぁでも、」
エレンはライトの耳元に口を近づけた。
「今夜は寝かせニャいわよ♡」
チュッ。
頬に優しくキスをしてニシシと笑った。
「ッッ!はぁ…もう。」
赤くなった頬を誤魔化すように頭に手を当てるライト。
「さぁ、もうすぐ仮装祭始まるから。いくぞ。」
そう言って部屋を出ようとしたが…。
「ちょっと待ちなさい。」
エレンに止められる。
「?どうした?」
訳がわからず首を傾げるライトだったが
「よく見なさい。私たちの格好を。」
「?2人とも良く似合っているが?」
「そんなのは当たり前よ!言いたいのは貴方の格好!!」
エリやエレンは仮装をしているが、ライトは仮装していない。
「まぁ別に良いだろ。このくらい。」
「「良くない!!」」
ハモる2人。まぁもっとも、ライトに仮装祭のために衣装を買う余裕などないが
「ふぅ…まぁ、こんなことだろうと思ったわ。仕方ないわね!」
そう言ってエレンがパチンと指を鳴らすと、何着か服が出てきた。どうやら仮装祭の衣装のようだ。
「おー!おねえちゃんすごい!」
「まぁね!お姫様ですから!」
キラキラと目を輝かせるエリと、ドヤ顔のエレン。しかし、それとは裏腹にライトは固まった。
「まさか俺にこれを着ろと?」
「当たり前じゃない。」
「うん…。仮装するのは別に良い。だが…。」
エレンが用意した仮装。それは…サキュバス、魔女、口裂け女…etc主に女性用だった。
「他の無いのかよ!!全部女性用じゃねえか!」
「つべこべ言わずに着なさい!!ハァハァ…」
「興奮しながら言うな変態王女!」
その場から逃げようとするが…。
「エリ!ライトに仮装させるわよ!手伝って!」
「わかった!おねぇちゃん!」
どうしても想い人にコスプレさせたく興奮する黒猫と純粋にハロウィンを楽しみたい幼龍からは逃げられるわけもなく、
「は、な、せぇぇぇぇぇぇ!え、エレン!脱がすな!落ち着け2人ともぉぉぉぉお!」
ライトの悲鳴が響き渡った。
…つづく?
(気が向いたら仮装祭編と本編書きます。)
農民出身の貧乏学生、実は最凶の召喚士!?〜平穏に生きたいので離してください王女様!!〜 @hyouseika
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