第38話 ライトvs.アラン前編

先に仕掛けたのはライトだった。

地面が陥没するほどの力強い踏み込みと共にライトの姿が霞んで消える。

とほぼ同時にアランの目の前に現れ、一閃。


が、木刀は空を切った。


ライトの剣撃の余波により突風が巻き起こり、観客席の生徒たちの前髪を揺らす。


「…ここまで速いなんてね。見えなかったよ。」


頭上からの声にライトが空を見上げる。


アランが宙に浮かんでいた。

彼の周囲には無数の青い魔法陣が形成されている。


「一撃で決めるつもりだったんだがな。」


ライトが苦笑する。

先程の一撃は、ライトの現時点での魔力を全て肉体強化に費やしたものだった。

それもただ全身にかけただけではない。

踏み込みの際、両足のみ全魔力を込めて強化し、剣撃の際、両腕に超高速で移動させた。

まさに渾身の一撃。それを躱されたことにライトの額に冷や汗が生じた。


「どういうことでしょう。ライト君のあの一撃はアラン君を確実に捉えていた…。」


一部始終を見ていたロイドが呟く。


攻撃が当たる寸前、文字通りアランが消えたのだ。


「空間転移魔術だな。アラン。」


「さすがだね。御名答さ。」


ライトの導き出した答え、そして肯定したアランにギョッとする一同。


空間転移魔術。賢者マーリンが得意とする。現時点で人類が扱える魔術の中で最高峰の難易度と出力を醸し出す。

通常、時間と人数を多くかけて漸く1人を運ぶレベルであるため、戦闘で使える者はほぼいない。今回、王立学園から決闘場に来たように、大規模な設備を使用し、主に移動手段で使うことが多い。

一個人が容易に使える代物では決してなかった。


「今度はこっちから行かせて貰うよ。」


宙に浮いたまま、アランが不敵に笑う。


《錬金 金剛石槍ダイヤモンドランス


アランの周囲にダイヤモンドの槍が形成される。その数約20本。

それぞれが意思を持った生物のようにライトに襲いかかった。


「「「「なっ!?!?」」」」


王立学園の生徒たち、主に上級生たちが絶句する。

自分たちが知っているアランではないと分かったからだ。


「ありゃマジでバケモノですな〜。本当に自信無くすよ〜。ウチの切り札なのにさ〜。」


包帯を腕に巻いたシオンが苦笑いする。


「けど…」


壮絶な音が響き渡る。宙に舞う破片が太陽の光を反射してキラキラと輝いた。

ライトが自身に襲いかかる槍の雨を一瞬で全て粉々に砕いたのだ。


「こっちのバケモノも負けてないけどね。」


眼前で繰り広げられるレベルの違う闘いを前に生徒たちは唖然としている。

声援の一つですら聞こえない。


「そうこなくっちゃ。」


アランが快活に笑う。


「そうでなきゃ、あの時僕が憧れた君じゃないからね。」


アランの呟きは巻き起こる突風によって流されていった。






「チッ!!!!」


ライトは盛大に舌打ちをしながらフィールド上を駆ける。

先程まで自身が居たところには氷の槍が無数に刺さっている。

空からの灼熱の業火を切り裂きながらまた駆ける駆ける駆ける—。


フィールドは極寒の吹雪が荒れ、灼熱の炎虎が駆け抜け、雨が雷となって降り注ぐ、まさに地獄。


一瞬でも気を抜いたら即終了の展開にライトの神経が擦り削られていく。


(あの野郎っ!空中じゃ手の出しようがないっ!!)


ギリッと歯軋りすると上空に浮かぶアランを睨む。

下手に空中へと攻撃を仕掛ければ次の瞬間蜂の巣なるのは目に見えている。

故に現在ライトにできることは、ただただ攻撃を躱し、捌くことだけだった。


持久戦は圧倒的にコチラの不利だろう。

アランは、エレン以上の火力を持つ魔術を涼しい顔をして連続で発動している。


底が見えない。先に自分の体力の限界が訪れるのが先だろう。


(どうするどうするどうする…っ!)


冷や汗が頬をつたる。


だが考えている余裕はないらしい。

無数の金剛石の槍が自身へと向かってくる。


それを砕きながら更にアランの魔術を躱し、勝機を掴もうとする。


「まさかこれほどとは…。いくら魔術が使えなくとも、ワシとほぼ互角のあのライトが、こうも一方的だとは…。」


眼前に広がる弟子の試合を目にして、フォルトが呟いた。


「やはり速いね。でも、もう終わりだよ。」


アランは宣言すると共にとある魔術を発動させた。


《魔術 花吹雪 千本桜》


「なっ!?その技はっっっっ!!」


ライトが驚愕の表情を浮かべる。


フィールドを取り囲むように無数の桜の木が現れる。

その幻想的な桃色の花びらが吹き荒れる。


広範囲、高威力の魔術。


この技は…かつて自身が最も得意な技の一つだった。


「ライトくん!!!!!!」

「ライト!!!!」


ニックとフォルトの悲鳴に近い声が響き渡る。

と、同時にフィールドが花びらに埋め尽くされた。


《魔装召喚 冥王ルシファー》


辺りが白い光に包み込まれ、桜が霧散する。


「くっ!!」


真下から吹く凄まじいオーラの風にアランのバランスが崩れ、地面に着地する。


フィールドの中央には銀髪の天使が降臨していた。


「それが君の本気なんだね…。」


圧倒的な存在感を醸し出すライトにアランの表情が固くなる。


「あぁ。文字通り切り札だ。」


「じゃあっ、お手並み拝見と行こうかっ!!」


《プロミネンスインパクト》!!!


アランの巨大な赤い魔法陣から太陽のような灼熱の熱を含んだ火球が放出される。


その熱は観客席まで感じる程。


だが——


《消えろ》


ライトの一言と共に杖から放出される紫色の光線が火球を一瞬にして飲み込み…


「なっ!?!?!?」


驚愕の表情を浮かべるアランに襲いかかった。


「ガハッ!!!」


「「「アラン!!!!」」」


盛大に吹き飛ばされるアラン。

観客席のフロン帝国学園の生徒たちが叫ぶ。


「完全に火力負けした…?アランが…?」

「あ、アラン…!?」


カズとエリスが目を見開く。


「はぁ…はぁ…はぁ…。僕の全力の魔術を打ち消すだけじゃなくて魔術障壁まで貫通するなんて…はぁ…はぁ…。」


一撃で大ダメージを追ったらしい。

アランが肩で荒い息をしている。


立場が逆転した。


「…やっぱり使うしか無いようだね。僕の予想は正しかった。」


そう言うとアランは自身の胸に手を当てた。


《聖剣解放》


アランの胸が光輝く。

膨大な魔力が溢れ出す。

そして…彼の胸から黄色に耀く剣が現れた。

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