第37話 それぞれの想い
「はぁ…はぁ…はぁ…」
満身創痍で、しかし2つの脚でしっかりとフィールドに立つエレン。
「よっ、お疲れさん。」
そんなエレンの横にいつの間にかライトが移動していた。
「はぁ…はぁ…あー、本当に疲れたわ。ライト、抱っこ。」
先程までの威勢と態度が一転、すぐにライトに甘えるエレン。
「はいはい。」
苦笑しながらもエレンをお姫様抱っこするライト。
「ふぅ…。初恋を拗らせた女の相手は本当に疲れるわ。」
「漸くお前にも分かったか。」
「何よ。まるで私が拗れてる女みたいじゃない。」
「もちろん。大体、事あるごとに雇用契約書にサインさせようとしてる奴が良く言えたもんだな。」
「仕方ないじゃない。そんな程度普通よ、普通。」
「お前の脳内辞書に普通って文字は無さそうだな。」
はぁ…とため息を吐くライト。
「それにしても、お前これからさらに面倒な事になるぞ?」
「何で?」
「だってお前、自分からアプローチしても良いですよ〜って許可したもんだろ。…ったく、
「フフッ…そうね。ねぇライト、もしかして、嫉妬してるの?」
「当たり前だ。お前はいつも俺は私のものって言ってるけど、お前も俺のものってことを自覚してくれ…。まぁ、誰にも渡さないけどな。」
不敵に笑うライト。
「まぁでも仕方ないわ。あぁでもしなきゃ、彼女はダメそうだったし。」
エリスと初めて会った時から感じていた親近感、それは私がアランと出会った時理由が分かった。
彼女がアランを見つめる目は私と同じだったから。手を伸ばせば触れることができるのに、どこまでも遠い、そんな状況に悲観している目。まるで私の分身。
助けたいと思った。
他人に何がなんでも幸せになってほしい、と初めて思った。
だから、幸せを勝ち取った私が勝たなきゃいけなかった。負けるわけにはいかなかった。
彼女を救うためにも。
「ねぇ、ライト。」
「ん?」
「好きよ。大好き。」
エレンは頬を赤く染め、微笑んだ。
(エリス視点)
心地いい温もりに意識が覚醒する。
視界に映ったのは、愛しい彼。
「ア、アラン…?」
「気が付いたのかい?エリス。」
彼にお姫様抱っこをされながらフィールドの外へと運ばれていた。
アランの胸に顔を埋める。
ずるいけど、譲りたくない。
今だけは…今だけは私のもの。
「…ゴメンなさい。アラン。」
何に対してだろう。分からない。
「…後は任せて。」
彼はそう言うとフィールドの外に優しく私を下ろした。
そして私に背を向ける。
あぁ、これから行っちゃうんだな。
去りゆく背中を想像して1人悲しみに暮れる。
『奪い返しなさいよっ!!』
そうだ。私はまだ終わってないんだ。
負けヒロインなんかで終わりたくない。
幼馴染?婚約者?そんなの知らない。
欲しいのは彼の隣。
私の本当の願いを、エレンさんに気付かされた。気付かしてくれた。
「アランッッ!!!」
力の限り叫ぶ。
「私っ!絶対諦めないからっ!!!!」
婚約者なんかに負けない。
貴方の隣は私がいたい。
迷惑だろうと何だろうと、関係ない。
誰にも譲りたくないから。
「はぁ…。」
アランのため息が聞こえた。
「…その台詞、聞いたのは二回目だよ。」
「え?」
二回目…?二回目?
アランの言ってる意味がわからなかった。
「いつものように遅くまで公園で遊んで、その後一緒に三日月を見ながら帰っただろ?」
「三日…月…?」
私の脳裏にかつての思い出が蘇ってきた。
そうだ、あの日、私とアランはかくれんぼをしていたんだ。アランが鬼で私が隠れる人。
私はかくれんぼに自信があった。けど、どこに隠れてもアランはすぐに私を見つけた。
それが悔しくて、何回も何回も勝負した。
結局、私はアランに一回も勝てずに日が暮れてしまった。
「むぅ…悔しい…。アランくん、どうして私の隠れる場所すぐに見つけられるの?」
頬を膨らませながら小さい私がアランに尋ねる。
「エリスちゃんのことならなんでも分かるよ。」
「私、絶対諦めないから!」
フンッとそっぽむく私。
「あ、見てよエリスちゃん!お月様!」
夜空には大きな三日月が浮かんでいた。
「わぁ!きれい!!」
その三日月があまりに綺麗で、思わず私はアランくんの手を握った。
「ねぇ、アランくん。」
「なぁに?」
「大きくなったら、アランくんのお嫁さんにしてくれる?」
「うん!いいよ!」
「本当に!やったぁ!約束だよ!」
「うん!毎日一緒に遊ぼうね!」
そう言って彼と私は小指同士を結んだ。
「「ゆーびきーりげーんまんうーそつーいたーらはーり千本のーます!ゆびきった!」」
2人で指切りをして…。
それから2人で一緒に怒られて…。
三日月の光に照らされながらした約束。
あの時私と彼は——
私の意識が現実に戻る。
「ア、アラン…?もしかして…。」
アランが振り返る。
「やっと思い出した?」
苦笑しながら尋ねられた。
「ま、まさか、婚約者って…。」
「そうだよ。あの日から、僕にとっての婚約者は君だったんだ。危うく僕は針千本飲まされるところだったね。」
肩をすくめるアラン。
「う、嘘…。」
「嘘じゃないさ。いつからか、君が離れた時、僕がどれほど悲しんだか…。」
「ご、ゴメンなさい。」
「僕もゴメン。何にも気が付かなかった。幼馴染失格だね。」
「ア、アランは悪くない!約束を忘れていた私が全部悪いの!」
「フフッ。お互い譲らないよね。言い争ってたらキリがない。だから、続きは明日しようか?初めて会った公園で、日が暮れるまで…さ。」
そう言ってアランは微笑んだ。
あの頃と変わらない、私の大好きな、優しい笑顔だった。
「うん!!!!」
彼の背中が遠ざかる。
けれど、寂しくはなかった。
彼の気持ちが誰よりも近くにあったから。
「向こうも一件落着したようだな。」
そう言ってライトはエレンをフィールド内の端に下ろす。
「えぇ。そうね。」
「…んじゃ、行ってくるわ。少し休んでろエレン。」
「えぇ、分かったわ。ライト、妻である私がここまでやったのよ?負けたら承知しないわよ。」
「おう。絶対勝とうぜ。2人でな。」
そう言ってライトは歩き出す。そしてフィールドの中央でアランと向かい合う。
「ライトくん、そしてエレンさん。本当にありがとう。」
「…何言ってるんだ?俺は何もやってないぞ。」
「あの時、僕を含めた会場のほぼ全ての人がエリスの勝利を、エレンさんの敗北を確信していた。けれど、君だけは、自分の恋人を信じた。」
「まぁな。アイツがあんな程度で諦めるんなら俺も苦労してないさ。本当に毎日毎日大変なんだからな?」
「フフッ。だけどそんなエレンさんに、いやそんなエレンさんだからこそ、エリスを助けられた。もう一度言わせてくれ。ありがとう。」
「言ってることは最低だけどな。」
苦笑するライト。
エレンの言っていたことは、恋人が居ても居なくてもアタックして奪い取れということだ。己の幸せのために。
「ま、アイツらしいっちゃあアイツらしいか。…さて、もう会話は必要ないだろ。」
ライトの表情が一転、戦士の顔つきになる。
魔術で強化された木刀をを構える。
「そうだね。始めようか。」
アランも自身の周囲に魔法陣を展開させる。
ライトvs.アランの闘いが始まろうとしていた。
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