第36話 ヒロイン対ヒロイン

「貴女に何が分かるのよ!!」


激情のままに魔術を振るう。

心に溜めていたものが溢れ出て来た。


荒れ狂う無数の呪文がエレンさんに迫る。


「くっ!!!!」


満身創痍のエレンさんに全てを捌ける余裕は無く、ダメージはじわじわと入っていく。


「ずっと、ずっと、ずっと好きだったのに!」


そうだ。


「アランは…振り向いてくれなかった。」


忘れようとした。何度も何度も。


「だけど…諦めるなんてできるわけないじゃない!!」


彼だけを想って生きて来たから。


「私がどんなに頑張ってもアランの横には立てない。彼の隣には婚約者が居るんだから。」


それが彼の幸せだから。

それが私の幸せだから。


「だからだからだから!!!」


だから!!!!


「頼まれたことだけはしなきゃいけないの!!!」


それが今の彼と私の唯一の幼馴染かんけいだから。


「少しでも好きな人の力になりたいって思う私が!!!」


少しでもアランの幸せに役に立ちたい私が!


「貴女なんかに!!」


両想いで幸せを掴み取った貴女なんかに!!


「負けてたまるかぁぁぁぁ!!」


渾身の魔術の一撃を放つ。

私の感情をそのまま表現したかの如く、巨大な炎の虎がエレンさんに襲いかかる。


「ふざけないでっっっ!!!」


エレンさんの言葉とともに炎の虎が消滅した。


「何で…どうして。」



さっきまで満身創痍でもう闘える状態じゃなかったのに。


「はぁ…はぁ…。さっきから聞いていれば好き勝手ベラベラと喋って!」


目を吊り上げるエレンさん。


「貴女はアランの横に立てるように努力したの!?!?」


「したわっ!!」


私がどんな思いでここに立っているか、分からないくせに!!!


「でも!無理だった。私には才能がなかったの!!!!!」


そう。私には彼ほどの才能がなかった。

私が一歩努力する内に、彼は百歩先に行っていた。


努力しても永遠に埋まることのない、才能だった。


「何?じゃあ才能のせいだって言いたいの?」


そうよ。


「そうよ!!!私にアランや貴女みたいな才能があったら!!」


アランに才能が無かったら。

今頃、私は彼の隣で——


「寝ぼけたこと言ってるんじゃないわよ!!アランが才能だけでここまで成れる訳ないでしょ!!!!!」


エレンさんの言葉に胸が締め付けられる。


なんで?どうして?


「同じ立場だったから分かる。大好きな人が同じ立場だから分かる。周囲からのプレッシャー、力を持つ者の葛藤。アランは…ライトは…私はっ!!!それを乗り越えてきたの!!!どんなに辛いことがあっても!!」


辛い…どうして?


「才能だけで乗り越えられるほど甘いものじゃない!!生半可な努力で乗り越えられるほどのものじゃない!!」


「でもっ!でもっ!でもっ!!」


「全員全員全員!!涙を流して乗り越えて来たの!!私には分かる!!アランがどれほど苦しんできたか!!」


アランが苦しんできた…?何で…?


「貴女の努力なんてアランに比べたらちっぽけなものよ!」


違う違う違う違う違う!!


「違う!!私は精一杯努力した!けど!報われなかったっ!だからっ!だからっ!」


「だったら報われるまで努力しなさいよ!」


「っっっっ!!」


私は…努力してなかったの?

あんなに頑張ったのに?


「貴女たちのその様子から察するに、アランってかなりモテるのね。私と同じだわ。」


「何ですか?この後に及んで自慢話ですか?」


「婚約者が居るって言っても毎日毎日アプローチされるし。本当に鬱陶しい。やめてほしいわね。」


「さっきからなんなんですか!私を馬鹿にしてるんですか!」


「アランもそうだったんじゃないかしら?好きでもない女たちからアプローチされて。」


彼女の言葉にドキッとする。

そっか…私もきっとそんな風に思われていたんだな…。


「そうですね。だから私は身を引くことを選びました。」


自分は彼に相応しくない。


「ふぅん。じゃあ貴女、アランのこと好きじゃないんだ?」


「は?今までの話聞いていましたか?」


「ええ、聞いていたわよ。で?どうなのよ。」


「そんなの、好きに決まって…」


「なら!つべこべ言わずに奪い返しなさいよ!!」


「は?」


「婚約者だろうと恋人だろうと関係ないわ。好きなら奪いなさいよ!!」


何言ってるんだこの人は。


「貴女、さっきと言っていることが逆じゃ…。」


「少なくとも、私ならそうしてる。」


「……!!」


「絶対絶対絶対!諦めたりなんかしない!!彼の事情?そんなの知らないわ。どんな手を使ってでも奪い返して私にメロメロにさせる!」


「貴女、何言ってるんですか!そんなことしたら彼の幸せが…」


「なら、貴女はそれで幸せなの!」


もちろん。アランの幸せは私の幸せだから。


「幸せに決まってるじゃない!」


「嘘つかないでっ!!!!」


彼女の言葉にビクッとする。

嘘?嘘なんて付いてない。


「貴女の幸せは!!幸せになることでしょう!!」


違う違う違う違う違う!……違く…ない。


私は…アランと幸せになりたい。


「貴女、さっき言ってたわね。私は恵まれてるって。」


そうだ。この人は恵まれている。私が持っていないものを沢山持っている。だから幸せになれるんだ。


「私は最初、ライトに嫌われてたわ。」


「は?」


何でこの人が嫌われるの?意味がわからない。


「彼を何度も傷つけて。それなのに自分勝手に付き纏ったわ。」


何を言ってるの?

なんでそんなことができるの?


「何度も拒絶された。けれど、諦めたりなんかしなかった。彼の隣には私が居たかったから。」


どういうことなの?分からない。


「みんなそうだったんじゃないかしら。だからアランにも告白し続けた。彼の隣が欲しかったから。婚約者なんかに負けたくないから。」


やめて。


「みんながアランの隣に立とうと必死にしている時、貴女は何をしていたのっ!!」


やめて。


「自分の境遇に勝手に絶望して!」


やめて。


「自分に嘘をついて逃げ出して!」


やめて。


「それでいて、才能がどうとか努力したとかおこがましいわっ!!」


「やめてって言ってるでしょ!!」


全力で魔術を放つ。


残りの全魔力を注ぎ込んだ渾身の一撃がエレンさんに迫る。


——が

エレンさんは横に飛んで躱し、手に光の剣を作り出して私に肉迫して来た。


「っっっ!!」


慌てて魔術障壁を展開する。


「何にもせずに!!——」


バチィッ!と火花が飛び散り、剣と障壁が砕け散る。


「自分から——」


エレンさんの拳が私の鳩尾に入る。


「ガハッ!!」


「尻尾を巻いて逃げ出した——」


更に拳が入る


「ゲホッ!!」


幼馴染まけいぬなんかにっ!——」


彼女の蹴りが私の脇腹に入る。


「クッ!!」


「私が負けてたまるかぁぁぁぁぁ!!!」


彼女に背負い投げをされ、地面に叩きつけられる。


「ガハッ!!!!!」


意識が霞んでいく…。


なんで…どうして。私は勝てないの。


アランの役に立ちたい。


そんなたった一つの願いでさえ許されないの?


『嘘つかないでっ!!!!』


エレンさんの声が木霊する。


あぁ…そっか。私の願いは違ったんだ。


今も昔も変わらない。


私は…私の願いは…


アランと、幸せになりたかったん…だ…。





「フロン帝国学園代表、エリス選手、気絶により戦闘不能!!」


ロイドの声が響き渡る。


エレンは目の前で倒れ伏すエリスを見る。


「私が貴女に勝った理由はただ一つ。」




「私の、いえ、私たちの愛の大きさよ。」





エレンvs.エリス。

勝者 エレン。

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