菊底編み

「な、な、な、なんだこりゃああああああ!?」


 驚愕すべきは、三点。

 こんなにも野太い声が出たこと。

 大小さまざまで濃薄さまざまな紫の岩石に囲まれた空間にいること。

 目線が唯織に合っていること。掌がちっちゃいこと。身体が異様に軽いこと。つまりは幼児化したこと。


「な、な、な、なんだこりゃああああああ!?」

「一度で気を済ませろ莫迦」

「いやいやいやいやいやいやいやいや。済ませられるかあ!?おいおいおいおいおいおい。ここはどこわたしはかれん「ババンバ」のメニューを全種類制覇するために人生をかける女」

「くだらねー」

「くだらねー方が人生長生きできんだよ!!」

「はいはいはい。すみませんね。いきなり私の古巣に連れてきてしまいまして。しかし仕方ないんですよ」

「いやいやいやいやいや。なんで私も連れてきたなんで私も幼児化私とも結婚する気か!?」

「いえいえいえいえまさかまさか。唯織さんが悲しむ顔を見たくないだけですよ」

「じゃあなんで幼児化!?」

「七歳以上の人間がいきなりこの空間に足を踏み入れると、頭に竹が生えますから。この竹は強制的に寿命をおよそ百二十年にして、花が咲くと同時に消滅させてしまうんですよ。私は唯織さんにはもっと長生きしてほしいので、とりあえず幼児化させてもらったのです」

「なんだ、おまえの性嗜好かと思った」

「いえいえいえ。どの年代でも唯織さんを愛していますから」

「うえ、鳥肌立った」

「ははは」

「オッケーオッケー。結婚してオッケー。長年の友達の私は予見するよ。相性バッチシ幸せな結婚生活を迎えられるって」

「一人だけ逃げようとしても無駄だ。私と結婚しない限り、呪いは解かないぞ」

「オッケーオッケー。結婚して即離婚しよう。バツイチオッケーモーマンタイ」

「錯乱してるな」


 唯織は己の額に人差し指と中指を当ててから、かれんの額に中指を当てた。

 急速に意識を失い倒れかけたかれんの身体を、唯織は難なく受け止めた。


「妬けますね」

「だろうな」

「唯織さん。本当にかれんさんを愛していないのですか?」

「愛してない。が。結婚するなら、かれんとだけだ。未来永劫、変わらんだろうな」

「何故?」

「言っただろう。くだらない目的の方が長生きできるってな。私はくだらない目的を堂々と宣言するくだらないかれんとなら、この世を謳歌できると知っている。悪いな。おまえがどうしようが、心は変わらん」

「いえいえいえ。無生物だろうが生物だろうが、変化は必須。ですから。諦めませんよ」

「どこを気に入ったんだか」

「さてさて。聴きたいですか?」

「いや」




 次にかれんが目を覚ました時、やはり景色は変わっておらず、しかし、どこかまろやかな雰囲気になった唯織と九尾の妖狐がおりましたとさ。


 次回、舞台はここ魔界で物語は続く。




「「ババンバ」に帰してくれええええええ!!」

「九尾の妖狐が諦めたら一緒に帰ろうな」

「諦めませんよ」
















「では、義春さん。毒の植物を回収することが悪魔の仕事なので、人間界が終わり次第、魔界に行きましょうか?」

「おお!唯織とかれんちゃんに会えるな!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奇想天満 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ