どっぷりそのまま、剥き出しのモラトリアム

 地下アイドルを続ける二十代の女性が、偶然再会した高校時代の旧友と、居酒屋で近況を語り合うお話。
 落ち着いた手触りの現代ドラマです。実質的にほぼワンシーン、突飛な事件や大きな騒動もなく、淡々と続く日常を綴った物語。正確にはその日常の中の、何か小さな節目のようなものを描いたお話で、彼や彼女の生きる現実の、その地に足のついた描かれかたが魅力的でした。
 何か激しく慟哭するようなものではなくとも、でもジリジリ燻るような、このモラトリアム期に特有の足踏み感。そういう意味では少しネガティブめの主題ながらも、物語全体では前を向こうとしているところが素敵でした。特に何かが解決したわけでもないので、はっきりハッピーとは言えないまでも、それでも前に進もうという力を見せてくれるところ。物語としてのポジティブな姿勢の魅力。
 森田さんが好きです。これでちゃんと靴の手入れだけは欠かさないところがすごい。一見、貧して鈍してしまっているようでいて、でも一番大事な芯は全然死んでない。それならきっと大丈夫というか、おかげでハッピーエンドだと思えるところが嬉しいお話でした。