地下の星
乳歯
再会
「あれ、もしかして高橋?」
下北沢駅のホームで懐かしい声が聞こえた。振り返ると、ギターケースを背負った背の高い細身の男がこちらを見ている。無造作に伸びた癖毛が肩につきそうになっていて、切れ長の目には前髪がかかっている。丈の長いグレーのチェスターコートに、細い脚を強調する黒のスキニーと、手入れの行き届いたドクターマーチンの黒いブーツを合わせていた。
「うわ森田じゃん久しぶりー。あんたもライブ終わったところ?」
声の主、森田裕二は高校の同級生で、高校時代の親友である歩美の元彼でもある。高校生のときは、当時私の彼氏だった洋平と4人でよくつるんでいた。それぞれ別の大学に進み、私と洋平は割とすぐに別れたけど、歩美を通して森田とのつきあいは続いていた。歩美の口から森田と別れたという話を聞いたのは、就活の愚痴を言い合っていた頃だから4年生の4月ぐらいだったはずだ。それ以来森田と会った記憶はないから、少なくとも3年は経っていることになる。
「そーそー。俺も、ってことはもしかしてお前もバンドやってんの?」
森田は歩美のことには触れずに話を続けた。
「バンドじゃなくてソロだけど一応ね。名前とかメイクとか色々変えてるからあんまり大きい声で言いたくないんだけど、これ」
そう言って私はフライヤーを手渡した。森田は、フライヤーに写るモノトーンのゴスロリ衣装に身を包んだ"東條ミヤビ"という女と、目の前の私を何度も見比べて目を丸くしていた。
「マジかー、化粧やべー……」
「悪かったな地味顔で」
「いやそういう意味じゃねーよ!」
そんな言い合いをしながらゲラゲラと笑っていると、電車の到着を知らせるアナウンスが鳴った。
「あっ、やべー俺急行だったわ。とりま今度飲み行こーぜ。また連絡するわ」
そう言って森田は慌ただしくホームのエスカレーターを降りて行った。
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