待合
(……遅い)
新宿駅東口の喫煙所で、私は森田を待っていた。約束の時間を10分過ぎ、もうすぐ店の予約時間になるのに、何の連絡も来ていなかった。4月の夜はまだほんのり肌寒い。
〈起きてる?〉
もしかしたら寝ているかもしれないと思ってLINEをした。この前の格好からして、少なくとも平日の昼間にスーツを着るような仕事はしていないはずだ。時給のいい夜勤バイトをしていても不思議ではないし、それならこの時間に寝ている可能性もある。
〈とりあえず先に店行ってる。私の名前で予約してるから〉
今朝のバイト前に買ったタバコがもうすぐなくなる。私は喫煙所をあとにして、靖国通りの方に向かった。
予約した居酒屋のビルの前で着信が来た。森田からだ。
「わりー、職質されてた」
通話に出るなり、能天気なテノールボイスが響いた。森田にとって、職務質問はどうやらよくあることらしい。スピーカー越しの電車の音がうるさい。到着はもう少し先になりそうだ。
「ちょうど今から店入ろうとしてたとこ。今日は森田の
そう言うと森田は少し不満そうな声を漏らしたが、私は無視してエレベーターに乗った。遅刻の理由は事故のようなものだったとはいえ、連絡なしに待たされたことに少しイラついていた。エレベーターのドアが閉まると、電波が悪くなったのか通話が途切れた。
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