第52話 余談
いろいろあり過ぎた六月公演も無事に全日程を終えて、わたし達一年生も、初の大入り袋をゲットした。少し誇らしげな気分になったものの、中身がたったの五円玉一枚とわかり、がっかりした。
少し考えれば分かることだが、入場無料なんだから利益なんか出るわけない。大入り袋とは縁起物である。
初舞台の余韻に浸る間もなく、我らが演劇部は、すでに次回公演に向けて始動していた。
そんな日の練習終わり。いつも一緒に下校しているウサコの姿が見えなかったので、部室前にいた烏丸部長と奥寺さんに聞いた。
くるっと振り返った烏丸部長は、天使のような笑顔だった。
「やあ、カメちゃん! 俺たち、これから行きつけの喫茶店にお茶しに行こうと思ってるんだけど、一緒にどう!? だーいじょうぶだって、本当にお茶するだけだから! その後なんかないよ、約束する! あるわけないじゃなーい! ないないないない、ナイチンゲール!! ほら、見て見て! この目が嘘をついているように見える!? キラキラ輝いてるでしょ!? あっ、実はそんなこと言って、カメちゃんの方がその後のことを期待してるんじゃない!? もし、そうなら言ってよ! んもう、バッチリ期待に応えちゃうからさ! ウソだよ、ウーソ! そんなに怖がらなくても良いじゃなーい、ねえ!? お願いだよー、カメちゃーん! もう、奥寺の顔は、ほとほと見飽きちゃってるんだよ! えっ、ウサコちゃんも一緒なら来てくれるって!? で、そのウサコちゃんは!? さあ、俺は見てないけど……」
「二人とも知らないの?」
奥寺さんはそう言って、わたしと烏丸部長の腕を掴み、階段を駆け降りた。
「痛いって! 何なんだよ、奥寺!?」
奥寺さんは、わたし達を引き連れて正門の方へと走る。そして、何やら発見したと思いきや、慌ててわたし達に物陰に隠れるように促した。
「ほら。あれ、見てくださいよ。見つからないようにね」
「?」
わたしと烏丸部長は、奥寺さんの示す方を覗き見た。
そこには、今まさに正門を出ようとする二つの人影--真っ金髪の女子生徒と、ライオンのたてがみのような長髪の男子生徒の後ろ姿があった。
あれは、ウサコと八田さん?
「ええええええええええええええええええええええええっ!?」
わたしと烏丸部長は驚愕の声を上げた。
「えっ? えっ? えっ? もしかして、あの二人は付き合ってんの!? ウソでしょ!? ねえ!?」
烏丸部長は、いつも以上に目を血走らせた。
「亀岡、どうなの?」
奥寺さんがわたしに尋ねてきた。
「それはないと思いますけど……。だって、あの二人をよく見てくださいよ」
確かに、ウサコと八田さんは並んで歩いている。
--が、二人の間には常に2メートル以上の距離が保たれてれいた。当然、楽しげに会話を交わしている様子もなく、無言でただ黙々と歩いているだけだった。
「付き合ってないとしたら、何なのさ!? 偶然にしては、出来過ぎじゃない!?」
と、烏丸部長。
「さあ」
この時、わたしは
それにしても、あの意味不明な距離感はどこぞの密教の荒行、もしくは新しい遊びでも開発しているのだろうか。
いや、驚いた。実際に目の当たりにすると、本当にハチャメチャなツーショットだなあ。
そうか。今日なんだ、食事会。
「ふぃー」
あの兄妹の間に、わたしの席が用意されている場面を想像しただけで、滝汗が出る。ないない、そんな最後の晩餐。命がいくつあっても足りないって。
まあ、ひょっとしたら、これを機会に仲良し兄妹になる……、かもしれない。
劇的に陰キャなわたしが、ドラマチックに高校デビューするためには、演劇部に入るという荒療治しかないっ! ぞうじ @R-Deco
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