あきらめかけた恋心

水天使かくと

あきらめかけた恋心

僕は3年目の会社員だ。

入社当時から想いをよせている同期の女子社員がいる。

彼女は綺麗タイプではなく、可愛いタイプの女の子だ。

昔から、僕は可愛い子がタイプのようで、いつも好きになる子は子犬みたいな無邪気な女の子が多い。

だから今回好きになった同期の彼女も、そんな感じだ。

屈託のない笑顔で、誰とでもおしゃべりができる彼女は他の男性社員からも好感度高めで人気だった。

僕が初めて彼女に好感をもったのは、入社当初、僕のミスで営業で担当していたクライアントを怒らせてしまった時、別件で担当していた彼女が、そのクライアントのお気に入りということでなんとか事をおさめてくれた。

それから僕は彼女を好きになった。

僕はそんな彼女に当初から、アタックし続けている。

食事や映画に誘ったり、彼女の好きな本や音楽を見たり聞いたりして、会話できるきっかけをさがそうとしてたんだが、ことごとく撃沈…。人の心を動かすのは簡単じゃない…。

1歩間違えればストーカーにでもなりかねない。


そろそろ潮時…かな。

この恋は諦めよう…そう、僕は思っていた。


僕の会社から家までは15分くらいだ。

やはり近いのに勝るものはない。

会社帰りに家まで歩いていると、バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨にあった。

とりあえず近くのカフェの屋根下に雨宿りさせてもらう。

すぐに雨宿りしたので、さほど濡れなくてすんだ。

このまま濡れて帰ってもよかったんだか、すぐやむだろうと待つことにした。

すると、少しの時間差で、彼女が必死で走ってきて、僕のちょうど隣で雨宿りを…。

彼女は髪も体も鞄もびしょ濡れで、慌ててハンドタオルで拭いているがおっつかない。

彼女は慌てているためか僕に気づかない…。

僕は彼女にそっと話しかける。

「大丈夫?」

そして自分のハンカチを彼女に差し出す。

「あれ?先に帰ったんじゃ?いいの?ありがとう。」といってゆっくり受けとる。

彼女の濡れた髪や顔をふくだけでも、僕のハンカチはたいして役に立ってない。

「ごめんね…拭くものそれしかなくて…。」

「ううん、助かっちゃった!ありがとね。」

うー、やっぱ可愛い!

僕、彼女が好きなんだなぁ。


雨はなかなかやまなかった。

夏とはいえ濡れた体はだんだん冷えてくる。

「くしゅん…」

彼女がくしゃみをして少し身震いしている。

「大丈夫か?」

貸そうにも夏なので上着はない…。

「大丈夫…。ほんとついてないなぁ…。」と

彼女はポツンとつぶやき僕にほほえむ。

「なぁ、帰り電車…だっけ?」

彼女はたしか、最寄り駅から電車で10分のところだったか…。

「うん…。」

ここから駅までも早くても10分程、電車でも10分、自宅までも歩いてとなると…。

けっこうかかるじゃないか!

完全に風邪ひくだろ…。

しかも…

彼女をチラッとみる。


髪から滴り落ちるしずく…

びしょ濡れで肌にはりついたブラウス…

しかも下着もうっすら透けてるし…

こんなんで歩かせてもいいのか?

電車に乗せても大丈夫なのか?


あ、いやいや…こんなことを考えている僕もどうかと思うが、いろんな意味で彼女が心配だ。幸い、僕の家はすぐそこだし…誘ってみるか…。

「なあ…僕のうちすぐそこなんだけどくる?ちょっと走ってもらうけど…。」

彼女はキョトンとして驚いた様子だ。

そりゃそうだろ…好きでもない男の家にくるわけないよな…。

僕たちはしばらく沈黙のまま、雨音だけが響きわたる…。


「いく…。走れる…。」

「えっ!いいの?」

聞いた僕が質問してどうするんだ…。

「んふ…それ私のセリフ!」

と彼女は少し照れたように笑った。


まだ降り続く雨の中、僕たちは僕の自宅へと走った…。


あきらめかけた恋心にもう1度灯がともるのをあらためて感じた瞬間だった…。











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