四 謎の花
そして、翌早朝、空と山の境が紫色から橙色に変わろうとしているその頃、僕は眠気眼を擦りながら、まだ暗いアパートの裏で謎の種から育った植物の前に立った。
しかし、僕はすぐにその眠気眼を大きく見開くこととなる……予想通りに、だが驚くべきことにも、本当にその花は咲いていたのだ。
葉や茎同様、まさにヒマワリのようにたいへん大きく、でも明るい黄色ではなくドギツイ赤紫色をした、白い斑点のあるなんとも不気味な花だ。
また、花弁とは他に
さらにその周囲には、朝の清々しい空気に混じって鼻腔を掠める、悪くいえば腐敗臭のような、だが、なぜだか癖になるような蠱惑めいた香りが充満している。
なんというか、その怪しげな花の姿と雰囲気に、僕は熱帯の密林に生息するという〝食虫植物〟を無意識に連想した。
あの、植物なのに昆虫達をおびき寄せて食べるという、なんとも摩訶不思議な珍しい生物だ。
もしかして、ここら辺の小鳥や猫がいなくなったのって、じつはこの植物が食べちゃたからだったりして……。
……なーんてわけないか。
小さな虫ならまだしも、さすがに大きな鳥や猫が食べられるなんてことあるはずがない。
やはり、この花の麻薬的な匂いと妖艶な美しさに少々酔ってしまったのか?
図らずも僕は、そんなありえないバカげた妄想に捉われてしまった。
「…ハハハ…慣れない早起きなんなしたから、まだちょっと寝ぼけてるのかな?」
我ながらアホウな考えを抱いてしまう自分を独り自嘲しつつ、なおもその妖しげで珍妙な花を見上げ続ける僕だったが……。
「……ん?」
やはり寝ぼけているのか? 目の錯覚か? 不意に、赤紫の花弁の中央で殊更存在をアピールしている巨大な雄蕊が、風もないのに微かに動いたような気がした。
「……気のせいだよな?」
と、目を細めて呟いたその瞬間。
「…んぐ!?」
不意に触手の如く伸びた雄蕊が僕の頭に絡みつき、ノコギリ歯の生えた萼が花弁とともにすべて閉じると、まるで肉食獣が食らいつくかのように、そいつは一瞬でパクリと僕を花の中に飲み込んだ。
(謎の種 了)
謎の種 平中なごん @HiranakaNagon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます