二十一、私の中の絵梨香 ~Erika en mi ~
私は目を開けた。なぜか涙でぐしゃぐしゃの顔だった。
誰かが私を抱き起こして、激しく揺さぶっている。
知らない顔だ……。
「大丈夫かい!? しっかりして!」
体格のいい男。
そばには大きなトラックが停まってる。
「あ、気がついた。よかった!」
私は上半身を起こして、あたりをキョロキョロと見た。
「けがは? 起き上がって大丈夫かい?」
かなり興奮した様子のその男はそれでも少しだけ安心したようで、ため息なんかついて私の顔を覗き込んでる。
私はまだ何がどうなっているのか、状況がつかめていない。
「あのう、私、どうしちゃったんですかあ?」
「正面衝突だよ、俺のトラックと。自転車ごと宙を舞ったから、こりゃあやっちまったと思ったんだよ」
見ると近くに私の自転車がボロボロになって倒れている。
「本当にけがは?」
私はゆっくりと立ち上がった。どこも痛いところはなかった。
全くの無傷。
そして、つい今までお花畑の中にいた記憶がかたまりとなってはじけた。
だから余計に頭が混乱してきた。
「あのう……私、どれくらい意識失ってたんですか?」
「いや、たった今、あ、ひいちまったっと思ってトラック停めて、すぐに駆け寄ってきたところだけど」
「・・・」
とにかく、場をつくろわなくちゃなんない。
「あの、大丈夫です。ご心配おかけしました」
「でも、一応病院へ行ったほうが」
「いえ、本当に大丈夫ですから」
その時、私のポケットでスマホのバイブが震えた。
見るとお母さんからの通話着信だ。
「優美! 大変なことになったのよオ!」
「え? なに?」
「今、担任の北山先生から電話があって、クラスの南さんと竹村さんが……」
南さん……? そして絵梨香?
「大川の河川敷で、遺体で発見されたって!」
一瞬、私の体はフリーズした。
「南さんが竹村さんの首を締めてから、自分の手首を切って……。竹村さんを道連れにしての自殺……」
「そんな、だって私、たった今まで……」
言いかけて私は、口をつぐんだ。
そう、たった今まで、私は絵梨香といっしょにいたんだ。
そう、私は知っている、絵梨香が山の向こうに行ってしまったことも……。
心の中で何かがはじけて、私は慌ててキュロットのポケットを探った。
私の手には鎖の感覚があった。
慌てて取り出してみると、やはりそれは山の向こうに行く直前に絵梨香からもらった金色のペンダントだった。
――優美、それあげる。とっといて。
絵梨香の声が、まだはっきりと魂に残っている。
私、いたたまれなくなってトラックの運転手を残し、壊れた自転車もそのままに一目散に家へと走った。
涙が風に乗って後ろに飛んだ。
私は走った。
とにかく走った。
※ ※ ※
遠い昔はぬくもりもなく
心は何かを追い求めていた
何かが私をこんなに変えて
今は何かに包まれている
雨あがりの空に自分を置いて
ひとつのことを見つめたら
何かが見ている 今 私を
はじめて私は人を知って
自分を知った 今この時に
心の奥にしまい込まれた
それが私を呼び起こしている
夕暮れの街に
すべてがひとつに
そして私もその中ならば
それが希望に燃える時は今
私の中の絵梨香……どこまでもいっしょに行こうね……
(NUN KOMENCIGAS )
私が転生した異世界は、私の知ってる異世界じゃあない! John B. Rabitan @Rabitan
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