二十、いちばんの幸せ ~La plej feliĉa ~
私はまた悲しくなった。そして思わず下を向いた。
「せっかくどこまでもいっしょに行こうって言ったのに……」
「でもいつか、また会える日がくるかもね。何百年かしたら」
「何百年?」
「ええ。あなたと絵梨香さんは何百年か前もいっしょにいたことがあるし、
スケールが大きすぎる。
「でもその時はもうお互いが分からなくなっちゃってるんじゃないですかあ?」
「それでも、魂は響き合うはずよ」
「そうですね。たしかにそうかもしれません。だって、絵梨香はどこにも行ってなくって、私の心の中にいますから。私の心の中で、永遠に生き続けるんですものね。だから私にとっては、みんなが絵梨香なんです」
「誰もがそう考えるようになったら、それでもう天国よね。天上は追い求めるものではない。自分が住む世界に天上を作ることね」
「天上を作る?」
「誰もが幸せである世界。それが天上」
たしかにそうかもしれない。みんなが私で、私の中にみんながいて……。
「いちばんの幸せって何かしら?」
私は思う。ほしいものが何でも手に入るとか、したいことがなんでもできるとかじゃあない。
みんなが幸せであること、それが私にとっていちばんの幸せ。そんな世界が天上っていうのかなあ?
「よくサトったわね。一人が幸せでも、みんなが幸せではないと幸せとは言えない。だって、人は幸せになるために創られた。みんなで幸せになる責任があるのよ。さあ、あなたは地上に帰って、そんなみんなが幸せな地上天国建設要因として働いてちょうだい」
「地上? 地上って、私が元いたバーチャル三次空間のことですか?」
「ええ。あなたはもともとマルトクレーム、つまり特別な存在としてこの世界に召喚されたのよ。だからこそ、今のようなお話をあなたにだけはしたの。でも、あなたが体験できるのはここまで」
「私、元いた世界に帰らなきゃいけないんですか?」
はっきり言って、いやだ。あんな所に帰りたくない。
あんなうそといつわりが満ち溢れた世界なんて……お互い心が見えないもんだから腹を探り合って、他人をも自分をもごまかして生きている演技の世界……本音より建て前が優先される世界……あんな世界に帰るなんて、死んだっていやだ。
「三次空間はたしかにいちばんの修行の場。でもそれは人間の欲望がそういうふうにしてしまったにすぎない。さまざまな魂のレベルの人が雑居する世界である地上の荒波にもまれて、それでもあなたは力いっぱいがんばって、精一杯生きていってね」
私はまた、静かに涙を流した。
「それが魂の修行となって、磨かれていく。もう今のあなたは、昔のあなたとは違うはず。どうか、さらに魂の成長を遂げて。魂のレベルを上げて」
私、心の準備をしなきゃいけないみたい。
「ここはただ
言っていることはわかる……。
「地上での生き様がいかに魂のふるさとと関係してくるかをしっかりと認識して、生きることを大切にしてね。私はこれからも、あなたのそばに寄り添ってる。でも、あなたには私は見えない。でも、またいつかお会いできるでなず。あなたと……」
その優しい声は、心の中でだんだん遠くなっていく。なんだか頭がボーっとしてきた。流されていくって感じ。それから私の意識は、十分の一くらいに縮まっていった。
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