十九、本当の世界 ~Reala mondo ~
――あなたは何を泣いているの?
私の心の中で、なんだかすごく懐かしい声が響いた。
振り返って見あげると、さっきの絵梨香と同じような光り輝く白い服に包まれた優しそうな若い女の人が立っていた。
「お母さん?」
私は思わず立ち上がって、そう叫んでた。
白い服のはずなのに、花がたくさん描かれているようにも見える。
でもそれは、服があまりにも透明なので足元に広がる花畑の花を映しているんだってすぐにわかった。
女の人は、ゆっくりと微笑んだ。
「私はお母さんじゃありませんよ。お母さんのお父さんのそのお父さんの、そのまたお母さん」
「え? じゃあ、ひいひいおばあちゃん?」
指を折って数える私に、女の人は微笑んだまま静かにうなずいた。
ひいひいおばあちゃんがこんなにも若い。
でもこの世界では、みんなが二十歳前後になってしまうんだった。
「私はあなたが生まれたときから、ずっとずっとあなたのそばにいてあなたを見守ってきたのよ。そして、あなたがここに来てから一度だけお会いしているんだけど」
ハッと、私はすべてを理解した。
私がこの世界に召喚された直後に見た、あの光の塊とその中に浮かび上がっていた人影……それがこの私のひいひいおばあちゃんだったんだ。
今の私、とても素直にこの人の話が聞ける。そしてどんどん涙が流れてtまらない。
ひいひいおばあちゃんなんてもちろん会ったことはないし、写真さえ見たことがない。
私は平成生まれでお母さんはその前……
え? 平成の前って昭和だったっけ? その前は?
元の世界にいた時は知らないはずはなかったのに、なんだかわからない……まあ、いいや。
「あのう、絵梨香は?」
「絵梨香さんはもう本当に遠くに行ってしまった」
「じゃあ、もう、会えないんですか?」
「それはわかりません。絵梨香さんは魂のふるさとに旅立って行ったの」
ここも異世界なのに、さらに異世界?
そういえばここは本当の世界に行くための待合室だって、アキラさんも言ってた。
魂のふるさとって、本当の世界のこと?
「そのとおり。ここで人は皆、本当の自分になるの。本当の自分になって本当の世界に行くのよ」
たしかに、法律も道徳もないからしちゃいけないということがない自由の世界。心がすべてあけっぴろげになるから隠しごともできないし、それだけに人目を気にする必要もない世界……。
だからみんな本当の自分になるんだってアキラさん、言ってたね。
「まずここで魂のレベルが決定するのよ。そしてそのレベルに相応の世界に引き寄せられるの。本当の世界は大まかに二百以上の階層に分かれていてね、その魂のレベルの相応の階層に自ら赴くのことになるのね」
なんだか巨大なダンジョン?
「あなたがたがいうダンジョンというのは地下に延びる階層よね」
ひいひいおばあちゃんなのに、そんなことまで知ってる? いや、これは私の理解を読み取って言っているんだってすぐにわかる。
「本当の世界の階層は地下にも延びているし、天上にも延びているの。下に行くほど暗くて冷たい世界、最下層は極寒凍結の
「天上へ行く人も、自分で選んで?」
「最初から天上へ行ける人はまずいないわね。だんだんと上がっていくのよ」
「努力すれば上がれるのですか?」
ひいひいおばあちゃん、微笑んだまま静かに首を横に振った。
「あなたが元いた世界は精進努力の世界。でもこの世界は努力の世界ではなくて、サトリの世界。基本的に違う階層に自由に行き来することはできないし、ほかの階層の人たちと接することも不可能。でも、サトればスーッと上に上がれるの」
なんだか話が宗教めいてきたぞ。
「この世界には宗教なんてものは存在しないの。あるのは法則だけ。サトリとは差を取ること、例えば天上界にいる人の魂のレベルと自分の魂のレベルの差を取って、天上界にいる人と全く同じ想念と心になってしまえばたぁちまち天上に入れるってこと」
「天上にいる人の想念とは?」
「いつも感謝に満ちて明るく、ス直で、優しく、心の下座に徹し、誰にでも利他愛で親切で温かく、一切の執着がなく、態度言葉遣いが丁寧なのね」
「はあ……」
宗教がないって、この世界では「神様」を信じる人はいないのかな?
「神様は天上よりもっと上の、高次元の世界にいらっしゃるのよ。でも、この世界も、あなたが元いた世界もすべて『神』の息吹の中に存在している。それはどの宗教とも関係ないこと。『神』といって抵抗があるのなら宇宙の法則、あるいは『宇宙意思』と考えてもいいわ」
それより、絵梨香は……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます