第5話

 こんにちは@miyakopekoです。


『女神です』


 今回はお城の探索パートになります。


『探索っていうか窃盗というかガサ入れじゃん』


 異世界転生RTAはすでに知っているストーリーをなぞるわけではありませんので、主に3つの行動指針を同時に進める必要があります。

 1つは正規ルートを迅速に進めること。

 これはそれなりに進んでいますね。


『クラスのみんなとがんばるルートだね』


 2つ目は邪道ルートです。

 今やっているようにお城の中で後半に手に入れられるアイテムやモンスターの狩場を探すことです。

 こちらがうまくいけばクラスのみんなとはお別れになります。


『やめようね』


 最後はバグルートです。

 完全に想定外の方法で一気にクリアを目指すRTA走者が発見すべきルートです。


『ん? 2番目の邪道ルートと一緒じゃない?』


 おっと説明している間に巡回の兵士らしき足音が聞こえてきましたね。


『このお城って床が石造りだから意外と足音が響くね』


 さっそく意味ありげに飾られている騎士の鎧セットの陰に隠れましょう。


『もうやってることが城に潜入した賊なんだけど』


 これくらいは異世界転生を普通にクリアする主人公でも普通にやる行動です。


『どうなってんの異世界勇者』


 ちなみに今も物陰から飛び出して兵士を殴って気絶させましたが、


『気絶させましたじゃねえんだわ』


 ここで注意ですが、命を奪ったり、後遺症が残るような残虐な攻撃で行動不能にしてはいけません。

 異世界転生にはレーティングがあり、全年齢にお見せできるような行動をとっていれば比較的に安全です。

 しかし、残酷な行動ばかりとっていると物語のレーティングが上がってしまい、敵まで信じられないようなエグイ攻撃をするようになります。

 もっと最悪な場合になると突如として世界が消えてクリア不能になります(3敗)

 ですので、こうやって軽く気絶させてアイテムをいただくくらいにしましょう。

 お、兵士の剣ゲットですね。

 これでユニークスキルが使えるようになりました。


『全年齢にお見せできる行動(強盗)』


 ついでに兵士の服もいただきます。

 これで堂々とお城を歩くことができますね。

 気絶させた兵士は、もともと雷忠が身に着けていた服やベルトをうまく使って縛って、使っていなさそうな部屋に隠しておきます。


『手慣れすぎている……!』


 ちなみに、気絶させると簡単に言っていますが、これはなかなかコツがいります。

 達人になると首筋を手刀でトンとやるとガクッとなるのかもしれませんが、私にはできません。


『主人公ならそれくらいできそうだけど』


 私の場合は正確には気絶ではなくて、アゴを横から殴って立っていられなくしているだけです。

 これもリアルの私にはできないのですが、今はスキルで強化された左腕と右手を使ってなんとかできているという状態です。

 失敗して騒ぎになる可能性があるので、普通はやりませんが今回のお城探索では別です。


『スキルに依存してるからさっきから変な感じで左手をぎゅっと握った変なパンチもどきばっかりやってたんだね』


 皆さんもご存じだと思いますが、初期スポーン地点にはラスボスのいるダンジョンの入口や、ラスボスそのものがいる可能性が高いです。


『え、マジで?』


 今回のラスボスは邪神ですから、雷忠くんたちを召喚した場にいた神官らしき人たちが一番怪しかったのですが、イベントでまともなセリフがありませんでしたね。


『まあ神よ……くらいしか言ってなかったね』


 今回のシナリオで目立っていたのは王女さまと騎士団長、そして宮廷魔術師です。

 転生勇者に積極的に絡んできた3人がかなりラスボス濃厚になります。

 皆さんはこの中で誰が一番怪しかったと思いますか?

 ちょっとアンケートをとってみましょう。


★━━怪しい人は?━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

・ラゼリンヌ王女   0%

・ティアラ騎士団長  0%

・宮廷魔術師カラリス 0%

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★


『えぇ……王女さまなんて一番礼儀正しかったし。まあ、あえて疑うなら宮廷魔術師かな?』


 まあ簡単すぎましたよね。


★━━怪しい人は?━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

・ラゼリンヌ王女 100%

・ティアラ騎士団長  0%

・宮廷魔術師カラリス 0%

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★


『ウソでしょ!?』


 どう考えても戦闘力が無さそうで由緒ある血統の王女さまが怪しいです。

 ワンチャン邪神と人の間に生まれた血筋だったりする可能性もあります。

 おそらくですが正規ルートでは四聖将軍と呼ばれている敵と戦っていくなかで、実はライトスルー王国こそ邪神崇拝国家だった……みたいなシナリオではないでしょうか。

 もちろん全然違う可能性もありますが(笑)


『(笑)じゃねえよ。ええ、でもそれマジだったら女神の私に対する裏切りじゃん。ひどい!』


 というわけで解説しながら時に堂々と、時にコソコソと動いた結果、王女さまの部屋らしき場所までやってきました。


『なんかこう……王族の部屋にレベル1みたいなあなたがあっさり来れるのっておかしくない?』


 ぶっちゃけた話をすると、うまくいったからこうやって公開しているわけですからね。

 ガチ寄りのストーリーだと、ここに来るまでに無礼討ちなんてことも十分ありえます。

 ただリアルな王族であっても、そこまでガチガチの警備体制を敷くことはそうそうありません。

 部屋の近くに何十何百人も警護の人間がいたらVIPの人も落ち着いて眠れませんよね。


「そこにいるのは誰ですか……あら、足指の勇者様ではありませんか」

「はい、勇者の雷忠です」

「どうやってここに、それにその服装は兵士の……? いえ、わたくしに何のご用でしょうか?」


 少しおどろいていますね。

 なにか後ろ暗いことでもあるのでしょうか。


『そりゃよく知らん男が夜にいきなりやってきたらおどろくわ。ごめんなさいして帰りなってば』


「はい、実は私は王女さまがずっと気になっていたのです」

「わたくしのことが……?」

「そんな……幼なじみの雷忠が王女さまのことが気になってたの……!?」


 は?


『幼なじみの山田ちゃんがキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』


 全然気づいていませんでしたが、山田に後をつけられていたようです。

 これは完全に予測できた事態だったのに見逃していた私のミスですね。

 思い返せば、山田は雷忠くんが変な行動をとるたびにツッコミをいれていました。

 これは幼なじみの監視がかなりきついことを示す要素であり、クラスメイトが話し合いに夢中になっていても山田だけは雷忠を見ている可能性が高かったわけです。

 やはりデリートすべきだったか……?


『思考が主人公じゃないんだよなあ』


 しかし、見られてしまったからにはしかたありません。

 変な恋愛イベントはロスでしかないので、強引に話を進めてしまいましょう。

 まずは恋愛ムードを壊してシリアスにするために、兵士の剣を抜き放って肩にかつぎます。


『なんかそっちの世界の時代劇で見たことある構えだね』


「な、なにをする気ですの勇者様……?」

「邪神退治です」


『まだなにも確認してないのに姫様=邪神で決めうち!?』


 いま考えればかなり乱暴なプレイングなのですが、この時はちょっとトイレにも行きたくなっていて、思考が乱れていました。


『サティファドゥーン世界<(超えられない壁)<トイレタイム』


 ただし、間違っていたらほぼクリア不可能のになりますので、いきなりお姫さまを斬りつけることはしません。


『よかった、いきなり斬りつけるのかと思った』


 スキルで強化した腕と同じくスキル如意剣で伸ばした剣で、お姫さまの近くの物をてきとーにぶった斬ります。


『お~。剣が伸びたらなんなのって思ったけどそうやって使うと遠距離攻撃になるのね』


 壊しても大丈夫そうななんか安っぽい木彫りの像の首を叩き斬りました。

 これでこちらの戦意は伝わったと思いますので、王女さまが邪神だったら

正体をあらわしてくるでしょう。


『は???????????』


 もし正規ルートをひたすら進んでしまえば、ボスを3~4体は倒さないと王女さまにたどりつけませんからね。


「ああっ!? そ、それはわたくしの……わたくしのぉ……!!」


『ぐ、ぐおおおおおおお!? ば、ばかなっ!? わたくしの……グブ! 我の身体が……なぜ……わかったぁ!?』


 えっ?

 なんだかよくわかりませんが、斬りつけた像がブクブクと黒い泡をたてながら崩れていきます。

 っていうか女神さま大丈夫ですか?


「雷忠……いったいなにが起こってるの!? 昔いっしょに遊んだときみたいにいきなり近くにあるものをぶっ叩いたらお姫様が苦しんでるけど!?」」


『グぐぐ、四聖将軍を一人でも滅していれば、我もここまでのダメージは……だめだ……身体が……滅んでいく……姫の子として宿ることもできぬまま……消え……て……グフッ』


「なるほど」

「な、なにがなるほどなの雷忠!?」


 今回はお姫様が黒幕ではなくて、操られていただけのようです。


「おそらくはお姫様の近くにあった像に邪神が封じられていたりしたのでしょう」

「だから雷忠が像を壊したら邪神が滅びたのね!」


 そして最初のほうのチュートリアルで言われていた四聖将軍を倒していけば、邪神の封印が弱まっていく流れだったんだと思います。

 そして無事に四聖将軍を倒すと主人公かクラスの誰かとお姫様が結婚して子供ができます。

 その子供に邪神が宿って完全復活というストーリーラインだったのだと推察できます。

 邪神を倒すにしろ封印するにしろ最愛のわが子に手をかけなければならなくなるところでした。

 なかなかエグイシナリオですね。

 まあ憑依転生勇者も似たようなことやってる気もしますが。


「ううん……わたくしは一体なにを……?」

「やったわ雷忠! どうやらうつわ……じゃなくて、お姫様は無事みたいよ」


 お姫様が少し心配でしたが、早期に邪神の支配が解けたので助かったようですね。

 騒ぎを聞きつけた王様やクラスのみんながどんどん集まってきています。

 これでエンディングとなります。

 さて完走した感想ですが……今回の大きなミステイクは一番疑うべき異世界転生を起こした張本人である女神を容疑者から外してしまっていた点ですね。

 思い返せば正義の女神のくせに、私が非道な言動をとってもツッコミをいれるだけでたいして説教してきたりしませんでしたからね。

 それに転生冒頭からずっと私とコンタクトをとってきていたので、下手に感情移入してしまう可能性もありました。

 今回はラッキーヒットでしたが定石どおりに邪道ルートやバグルートを並行して模索したのが良い方向に進んだと思います。

 ただキャラとしては女神はけっこう気に入っていたのでエンディングまで一緒にいられなかったのはちょっと残念です(笑)

 また別の世界線で邪神復活したり、共闘ルートを走れたりすることに期待です。


「ふぉっふぉっふぉ、さすが足指の勇者じゃ! まさか一晩もたたぬうちに邪神を倒すとは」

「ふっ、雷忠。貴様ならばよい騎士に、いや騎士団長になれると思ったのだがな。帰ってしまうのは残念だ」

「私はうれしいですけどね。もし雷忠殿がこの世界に残ってくださるのならば私は宮廷魔術師を引退しなければなりませんから」

「まあカラリスさまったら、うふふ」

「わっはっは!」

「はっはっは!」

「ふぉっふぉっふぉ」


 なにわらってだこいつら。


「さて、名残惜しいですがお別れですわね勇者さまたち」

「へへ、最初はちょっといらっとしたけど面白かったぜ!」

「ああ、貴様も骨のあるやつだったよユウキ。腰抜けという言葉は取り消そう。謝罪する」

「いいってことよ! お気楽に冒険しようとしていた俺たちを守るためだったんだしな!」

「ユウキったら偉そうに、がんばったのは雷忠じゃん!」

「雷忠くんマジパネェよ」

「あーし的になし寄りのなしからあり寄りのなしになったフィーリングあるし」

「あーね、それわかるー」

「雷忠……ほんとにありがとう。助かったよ。雷忠はやっぱり私の自慢の幼なじみだよ……」

「それでは勇者の皆さま……名残惜しいですがごきげんよう、本当にありがとうございました」


 王女様が呪文を唱えるとクラスメイトが不思議な光に包まれます。

 再び狭いトランクに押し込まれるような感覚がやってきたので無事、帰還ですね。


The End?


 いい感じでエンドがでてきたのでここでタイマーストップです。

 今回はトゥルーエンディングという条件でしたのでこれで終わりですね。

 それでは長い間お付き合いありがとうございました!





【用語・ネタ解説】

・レーティング

本来的な意味とは異なり、ここでは作品閲覧における年齢制限を指す。年齢制限は法的に決まっているものから自主的に定めているものもあるが、ここでは曖昧に残酷な表現とそれに対するなんらかの規制のことを指している。


・ワンチャン

ワンチャンスの略。一つはチャンスがあるということ。高い確率ではないが確率は0ではないという時に、ワンチャンいけるのような形で使われる。


・VIP

Very Important Personのことだが、慣習的にただ立場や身分が高い人全般を指す場合にも使われる。


・キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

文字通り来たという意味。待ち望んでいた人物が来たり展開になったりしたときに使われる。発祥はネット掲示板と言われることが多いが真偽は不明。なお環境依存文字が含まれるため?になっている可能性がある。


・真エンディング、トゥルーエンディング

エンディングはゲームの目的を達成した時に起こる一連のイベントやエンドクレジットなどを指す。単純に物語の終わりを指す場合もある。ゲームの中にはエンディングが複数用意されている場合もある。本作では隠された目的まで完全に達成した場合のエンディングを真エンディングと呼び、仮の通常エンディングをトゥルーエンディングと呼んでいるが、厳密な定義は人や作品によって異なる。

なお別のエンディングも用意されていることをプレイヤーに気づかせるために暗に何らかの形で示されている作品も存在する。

RPGの場合は別エンディングにいくためにボスが用意されている場合があり、裏ボスと呼ばれる。

裏ボスは意外な人物であることが望ましいが、初見でも注意深く見ればわかるようにしてある場合が多い。

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【女神コメ付き】異世界転生【解説あり】 @miyakopeko

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