第5話 羽ばたける未来
朝、教室に入るとなぜかすでに葡波くんが席についている。
しかも、制服を正し、髪型も整えていて、一瞬誰かわからないくらいだった。
「葡波くん…?だよね。一体どうしたの?」
「よう!まぁ…これは…ある人との約束だから気にすんな!今日から俺もちゃんとしようと思ってな。それより昨日は悪かった…。」と頭を下げてきた。
教室のみんなが私たちを不思議そうにみる。
まぁいいか!葡波くんが真面目になるならいいことよね。
放課後、蓮が昨日のことを心配して教室までやってきた。
「あれから大丈夫だったか?」
蓮の表情は曇っていてほんとに心配してくれている。
「大丈夫!なんだか心配かけてごめん…。」
というやりとりをしている中、葡波くんがこちらに視線をやり、少し微笑んだようにみえたけどすぐに帰ってしまった。
「あいつ急に雰囲気変わったけどどうしたんだ?」と蓮も不思議がる。
「うん、そうなのよね…。なんか約束なんだって…ある人と。」
今日は部活もなく久々に蓮と帰ることする。
「なあ、美桜…お前、葡波のことどうおもってんだよ。」
「えっ!なに急に!」
どうってそんなこと…わからない…。
ただ、なぜだか葡波くんにはなんでも話せてしまう。私と彼は似てるっていってたからそれで…?
「あいつは悪い奴じゃねえよ、きっと…」
「そうね…でも蓮が他の男子を誉めるなんて珍しい!」
「ほっとけ!」と照れながら私の家の玄関先で別れた。
自宅に着くとすぐに両親によばれた。
なんでも大事な話だそうだ。それは私にお見合いの話がきているとのこと。
この縁談がうまくいけば会社も何もかも安泰だということをお父様から聞かされた。
お父様のこんな笑顔を最近みたことがない…。
でもお母様は私を心配してくれている。
「わかりました。お受けします。」
とだけ答えた…。
これでいいの…と自分の心に言い聞かせた。
翌日、蓮が慌ててかけよってくる。
「お前、見合いするのか?」
父親に聞いたようで情報が早い…。
「うん、後悔なんかないよ。これでいいと思ってる!」と笑ってみせた…。
そこへ葡波くんが「どうした?」とわりこんでくる。
強引なとこは変わってない!
蓮が見合いをうけることを早口で話してしまう。もう!余計なことを…。
「あんたが決めたならいいんじゃねえの。父親も喜ぶしな…。ただ1度決めたなら気持ち変えるんじゃねえぞ!」
とだけ言い残し帰っていく。
言われなくてもわかってるわよ…
戸惑っている蓮を置いて、私は足早に帰宅する。
とある週末にお見合いはとりおこなわれた。
私はきらびやかな振袖を身にまとい、高級料亭の一室で両親とともに待つ。
私にもう迷いはない…。
ただあるとすれば…
葡波くんともう一度だけ話したい…
あの時のように怒ったり…笑ったり…照れたり…そういう感情をだせたのは葡波くんだけだったから…。
考える間もなく、お見合い相手とそのおばあ様らしき気品のある方が来られた。
私の目の前にお見合い相手が座ったが、緊張と不安でなかなか顔を合わせられず、うつむいたままだ。
両親とおばあ様が互いに笑顔で挨拶をかわしている。
私は緊張のため喉が乾き、目の前のお茶に手を伸ばした瞬間、つかみ損ねて湯飲みをたおしお茶をこぼしてしまった…どうしよう…。
「あっ、すみません…。」
すぐに拭こうと慌てていると強く手首をつかまれた!
「なにやってんだよ!緊張しすぎ!」
「えっ!」
とっさに顔をあげるとそこには葡波くんがいた!夢?錯覚?
いや…ちゃんといる!
「なんで、葡波くんがここに?」
スーツをさらりと着こなしネクタイを締めた姿はまるで会社社長のようだ!
おばあ様が笑顔で話しかけてくる。
「美桜さん、ごめんなさいね…。孫の翔がどうしてもあなたとのお見合いをとせがむので…。ところであなたたちお知り合い?」と優しく頬笑む。
両親も少し驚いていたがホッと緊張がほぐれたようだった。
程なくして
「ではあとはお若い人同士で…。」
とおばあ様と両親は退室する。
何話したらいいの?とっさに
「はぁー!お見合いなんて疲れるもんだな。」と足を崩す。
「いったいどういうこと?ちゃんと説明して!」
「そうだな…。」
といって葡波くんは話はじめた…。
実はおばあ様は私達の学校の理事長であり、たくさんの会社を束ねるとある財閥のご令嬢だとか。
父親とは折り合いが悪く、今はおばあ様と暮らしていることは前に聞いていた。
おばあ様の経営されている子会社とお父様の会社は取引先にあたり、おばあ様にお願いをしてこのお見合い話を進めてもらったのだと…。
「その交換条件が学校で真面目に勉強すること…たったんだ。」
「でも、そうまでしてなんでお見合いなんか計画したの?」
「それはな…。」と立ちあがり広く豪華な日本庭園を歩こうと誘った…。
私もついていくが、不慣れな振袖や履物でつまづきバランスを崩しかけた時、葡波くんの大きな体と手が私を包んで支えてくれた。
「ご、ごめんなさい…。」
「ほらな、しっかりしてるようで危なっかしいんだよ。あんたは…。」
「ごめん…」
「あんたは父親を気にして自分のしたいことに蓋をする。言っても聞く女じゃない!じゃあ、俺があんたと見合いして婚約…いずれ結婚しちまえばあんたは好きなことができる!させてやれる!父親も文句はないはずだ!」
「なにいってるの…それじゃ、葡波くんが我慢することになっちゃうじゃない!そんなのよくない!」
そう言ったと同時に大きな体と手につつまれ抱きしめられた!
「好きだ…好きなんだ…好きになっちまったんだから仕方ねえだろ!」
私は驚きと緊張で体が固まってしまう…。
それを悟ったのか、葡波くんがゆっくりと力を緩めるが離してはくれない…。
「ごめんな…俺はいつもあんたを泣かせてしまう。でもこれからはあんたを守ってやる!もう籠の鳥じゃない…俺の胸に羽ばたいてこい!」
私は目に涙が溢れるのを感じた…。
葡波くんの腰に手をまわし、思いきり抱きついた…自然に流れ落ちる涙を止めることもできずに…。
「好きです…葡波くんが好き…大好き!」
ふいに体がフワッと浮かび私は葡波くんに軽く抱き抱えられた!
「お前の初めては俺が全部もらう!ファーストキスはもうもらったけどな…。」
そういいながら
彼は強引じゃない優しいキスをしてくれた…
それから5年…
私は晴れて獣医になった。
葡波くんは父親とも和解し、大学で経営学を学び、今は代表取締役としての訓練に日々励んでいる。
そして明日…私たちは結婚する!
鳥籠じゃない…
自由で温かな家庭を見据えて!
鳥籠から連れ出して 水天使かくと @sabosuke
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