第4話 離れゆく心

翌日、私はまだ気持ちの整理がつかないままだったが、学校にいった。

内心、今日だけは休んでいいか…とも思ったけど、私は1度も休んだことはなかったしプライドが許さなかった。


教室をそっとのぞくと、葡波くんは案の定 まだきてない。

昨日、あんな…ことになって葡波くんにはどんな顔であったらいいのかわからないけど、ひっぱたいて出てきちゃったのは、なんだか申し訳なかったかも…。

葡波くんの席は後ろで私は前の席。

とりあえず顔を合わせずにすみそう…。


授業の途中、後ろのドアが荒々しくバタンッと開けられた。葡波くんだとすぐにわかった。担任が注意をするが、聞いてない。

横柄な態度に担任はあきれてまた授業を再開してしまった…。

なんとなくは視線は感じつつも、私は休み時間はすぐにトイレに立ち、放課後はすぐに部活にいくようにしたので、葡波くんと顔を合わすことはない…と思ってた。


茶道部の部活が終わり茶室の片付けを後輩にまかせ、1人で部室で次回の茶会などの日程調整などをしていた。


コンコンとノックの音。

「桃瀬先輩、茶室の片付け終わりました。」

と1年の柚木さんの声。

「そう、ありがとう。帰っていいわよ。お疲れ様!」

「お疲れ様でした!お先に失礼します。」

と元気よく帰っていく。


はぁ…

私は楽しいなんてあまり感じたことがない。

今まで、両親とくにお父様に気に入られたい一心で、なんでもそつがなくこなしてきた。

その中に自分が楽しいための理由なんてなかった…。

茶道だって女として教養を磨くためだし、今も淡々と毎日をこなしてる。

私はうまくやれてるわ。

いろんなことが頭をめぐっていると…


バタンッと扉が開く音がした。

そして、勢いよく閉める。

そこにはあの葡波くんがいた…。


私は驚いて声がでなかった。

葡波くんがゆっくり近づいてくる。

「なんで俺を避ける?」

「葡波…くん…。」私は心臓の鼓動が高鳴るのを押さえられなかった。

葡波くんはそばにあるデスクに腰かけ

「はぁ…。」と大きくため息をつく。

そしていきなり

「昨日は悪かった…。突然あんなこと…。」

「えっ!あ……。」

なんか…昨日の今日だからてっきり怒鳴られるかと思ってたし、朝から避けてたし…。

なんて答えればいいのか戸惑っていると…


「あんたが父親の言いなりになろうとしてるのが無性にイラついた。あんた、やりたいことがあんのになんで我慢しなきゃなんねぇんだ?俺は納得いかねぇ…。」

と徐々に間を詰めてくる。

私が座ってる机を挟む形で向かい合う。

こうやってみると、葡波くんてやっぱり迫力ある…。


「だから…無理だっていってるでしょ!それに葡波くんが納得しなくても関係ないでしょ!私の問題なんだから…。もうほっといて。」自然と声を荒らげてしまった。

しばらくして


「俺とあんたは似てる…。」と少し落ち着いたかのように話始めた。

自分も父親の会社を継ぐためたくさんのことを我慢してきたこと…。

耐えられなく、反発心で家出をしたり、不良グループとつるんでいたこと…。

祖母が見かねて父親から離し、自分の家に引き取って、今の学校に編入させてくれたことなど…。

「だから心配だ…。あんたのことが気になってしかたない。」

とさっきの瞳とは違って、優しく少し寂しげにいった。

「そうなんだ…。そんな大事なこと話してくれてありがとう。でも私葡波くんとは違うし大丈夫!」

そうよ。今までもやってきたんだから、これからもやっていけるわ。

「あんたってほんと頑固だな…。ところで1つ聞くが…あんた、父親のいうことならなんでもきくんだな?」

なんでそんなこと聞かれるのかわからなかったけど

「ええ。お父様が喜ぶことなら…。」

「そうか…わかった。」


と同時に部室のドアが勢いよく開けられた。

そこには息せききった蓮の姿が…。

「蓮!」

高梨 蓮は私の幼馴染で元婚約者。

最近、ちゃんと可愛い彼女がいるイケメン男子でとおってる。

なんでも後輩の柚木さんが、葡波くんが部室に入っていくのをみたらしく、心配になって蓮に知らせたらしい…。

もともと心配してくれてたから…。


「おい、美桜、大丈夫なのか?葡波…お前なにやってんだよ!美桜に何した!」

「蓮…違うの!何もしてないよ。ただ話してただけ…。大丈夫。」

と蓮に説明すると少し落ち着きをとりもどした。


「ずいぶん心配性なんだな…元婚約者さんよ。婚約解消したんだから彼女が誰と何やろうが問題ねえだろ。たかがキスくらいで…。」

蓮がひるむのと同時に

私はまたまた葡波くんにビンタした。

今度は思いっきり!

「いってー!いきなりなんだよ…。」

「たかがキスって…なによ!」

「えっ…。」


下を向き感情を押さえ震える声でいった。

「私のファーストキス返してよ!」

と走って部室を後にした。


残された2人は呆然としていた…


「おい高梨…お前ら婚約してたよな?まだ手だしてねえのか?まさかキスもしてねぇの?」

「えっ!ああ…。美桜にはそういう感情はないというか身内みたいなもんだから…。ってかお前は美桜に何したんだよ!」


「だからキスだけ…ちょっと強引に…。」

「強引にって…お前なぁ…。」


「しゃーねーだろ!男の部屋にほいほいついてくるぐらいならてっきり男慣れしてるもんだと…そうじゃなきゃよっぽどの世間知らずのド天然か…。」


「……。」

「後者か…まいったな…。」


2人はしばらく頭を抱えていた…らしい。


「高梨…なんであいつは父親にそこまで気を遣うんだ?」

「その前にお前…美桜に遊びで近づいてる訳じゃないよな?それならやめろ!」


「もしそうなら今ここでお前と話なんかしねえよ!」

「だよな…。」


蓮は葡波くんに全て話したらしい。


昔、お父様が事業で失敗し一家心中でもしかねないほどに追い込まれたこと。

その姿がわすれられないトラウマが私にあること。

自分との婚約も結局は会社存続のためだったこと…


2人がそんな話をしていたなんて私は何も知らなかった…。























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