第15話 ほんの少しだけ

 それからの日々は、やはり退屈なものであった。日常なんてそんなにすぐには変わらない。充は身をもって知った。

 毎日同じ時間に起きて、学校へ向かう。ほとんど誰とも話さず一日を終え、放課後は図書委員の仕事を一人でこなす。空いた時間は好きな本を好きなだけ読む。ただその繰り返し。

 それでも、ほんの少しだけ違うことがあった。空が澄んだ青に染まっていると、少しだけ幸せを感じた。風の匂いを感じて、少しだけ生きていることを感じた。

 なんの変哲もない日常が、少し見方を変えるだけで、違った一面を覗かせる。充はそのことを知って、本当に少しだけ、生きることはそんなに悪くないと思った。

 普段は読むことのない作家の本を手に携えて、空を見上げた。

 空は笑っていた。

「あの。これ借りたいのですが」

 充は驚いて、手にしていた本を落としてしまった。

「済みません」

 本を拾い上げながら答える。

 目の前には、優しい目をした少女が立っていた。

「大丈夫ですか」

 少女も驚いたようにしている。

 その目はどこか笑っているようにも思えた。

「その本、私も好きなんです。独特な雰囲気がいいですよね」

 私はまだ生きている。

 少女が微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

図書室の少女 空乃 夕 @yuyakezora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ