Tomorrow is Merry Christmas


 12月23日、午後9時47分。

 職場のそばの公園、背もたれのない木のベンチに、暖房で火照った身体を醒ますような風が吹く。

 快晴とは言いがたい、灰色と藍色の入り組んだ空。その色を、真新しい人工灯の光がばやばやと消し去っている。

 足元は、午前中の雨に濡れたまま、乾くことなく黒ずんでいる。

 はあ。

僕は顔を上げた。

 で、いまは何をしようとしていたんだっけ。

「ねえ」

 そこに、足音がした。

 青いジャンパーで着膨れしていた、そんな子供がひとり、僕の前で足を止めていた。

 別に珍しくもなんともない。人がいれば、人だってくる。大人も子供も通る。

 彼と同い年の時は8時に寝かせられていた自分たちの世代が、眉をひそめるようになってずいぶん経つ。

 だから思った。こんな時間のこんな場所に子供を歩かせるなんて、どんなバカ親だと。

「なんだい」

「おじさん、どうしてそんなに悲しそうなの?」

 おじさん……。

「明日から、クリスマスだからさ」

 僕は答えた。

「ふーん、へんなの」

「どうしてさ」

「だって、クリスマスなんてこないもん」

「へ?」

「ママがそういってた!」

 振り向いて手を振りながら、その子は一目散に駆けていった。

 あっけにとられて、口をぽかんと開けたままその背を見送った。

 どこからきたのだろう。僕は走り去った先にいるのかさえ分からない、彼の親の顔を想像した。

 その言葉が本当なら、おおかた、クリスマスプレゼントを買いたくなくてそんな嘘をついたのだろう。

 でも。

 もしもこの夜が明けなければ、クリスマスはやってこないのだろうか。

 バカらしい。

 もしこのまま夜が明けなかったとしても、時計の針は休むことなく回り続け、日付は変わり、人々はいぶかしみながらも普通に一日を始めるだろう。

 たとえそれが、一週間でも、一ヶ月でも、一年でも。問題だ問題だと言いながら、恐れもせず、立ち止まりもせず、考えもせず。変わらず職場へ行き、鳴る電話や来客に頭を悩ませるだろう。

 それが、大人というものだ。

 だけれど。

 僕は久しく忘れていた、口元を緩ませるというアクションをする。

 やってくる明日の一日が、もしクリスマスイブじゃなかったとしたら。このままクリスマスがやってこないとしたら。

 少しだけ考えてみるのは、悪くないと思った。

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a Scene 月宮アル @A_tsukimiya

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