第22話

その時、本部がびらんにおおいかぶさった。

「私が全力でこいつを押さえる。みんなその間に封印してくれ」

本部の胸の下でびらんが暴れた。

そのたびに本部の体が激しく揺れる。

本部のその表情は苦痛に満ちていた。

「早く。今がチャンスだ!」

草野がそう言い、手をかざしたまま大きな声で何かを唱えた。

桜井も起き上がり、再び手をかざして封印の想いをこめた。

もちろん大場もそうした。

「ううっ」

本部の口から苦痛のうめき声がもれる。

びらんは相変わらず暴れている。

しかし見ればその体は完全に小さな箱の中に入り、そして箱よりも大きな顔も、だんだんと箱の中に吸い込まれていった。

「ぐふっ! もう少しだ」

本部がそう言った後、びらんの体と顔が完全に箱の中に入った。

本部が体を転がし、箱から離れた。

そこへ草野がお札を取り出し、箱に張り付けた。

本部も体を反転させて木箱に近づき、寝転がったままお札を張り付けた。

「封印は完成しました!」

草野が声高くそう言い、桜井と大場は見つめあった後、思わず抱き合った。

しかし寝転がったままの本部が動かない。

「本部さん」

草野が近寄り、その体を揺さぶった。

そして何かを感じて、手を本部の口に当てた。

本部は息をしていなかった。


病院に搬送されたが、本部が息を吹き返すことはなかった。

草野が木箱を手にしたまま言った。

「本部さんが命がけで封印したこのびらん。二度と封印が解けるような真似はさせません。それと……」

「それと?」

「あのバカ息子。見つけ出して青森の神社に連れて帰り、生涯をかけてこれまでの罪を償わせます」

「そうですか」

「ええ。本部さんの葬式の準備。それとあのバカを探し出す。私はこれから忙しくなりますので、これで失礼させてもらいます。ではお二人とも、お元気で」

「はい、草野さんも」

「お元気でいてくださいね」

草野が去り、桜井と大場が残された。

二人とも何も言わなかった。

だが二人のその手は、しっかりとつながれていた。


       終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

びらん ツヨシ @kunkunkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ