第21話

来るなら早く来ればいいのに。

桜井がそんなことを考えていると、本部が強く言った。

「来る」

本部がそう言い終わるか終わらないうちに、五人がぐるりと囲んだ中心にある木箱の上に、びらんがその姿を現した。

かつてびらんを封印し、再び封印しようとするその木箱の上にわざわざ現れるとは。

どこまでも挑戦的な態度である。

「さあみんな、びらんに手をかざして封印したいという想いをぶつけるのだ」

本部がそう言って、自らそうした。

四人がそれに習う。

本部と草野正司は手をかざしながら小さく呪文のようなものをつぶやいている。

あとの三人は無口だ。

びらんはその顔を一周させて、五人を一人一人順に見た。

最初その顔には表情というものがなかった。

しかし徐々に霊感のない桜井が見てもわかるほどに、その顔に苦悩の色を浮かべていった。

――苦しんでいる。

桜井はそう思った。

見れば幼女の足の一本が、木箱の中に完全に吸い込まれている。

――もう少しだ。

そう思った時、びらんが一人の男の顔を見た。

草野信一だ。

その顔は敵意と殺意を濃縮したようなもので、横から見ている桜井にもひどく怖いものに見えた。

「ひっ!」

草野信一は大きくそう口に出すと手をかざすのを止めて、あろうことが飛び上がるように立ち上がって、その場から走り去ってしまった。

「あのバカ!」

「バカが!」

本部と草野正司が同時に叫んだ。

その途端、びらんから苦悩の色が消えた。

笑った。

びらんは笑ったのだ。

五人全員で封印するはずが、一人減ったのだ。

それだけで力のバランスが崩れた。

びらんは今度は桜井を見た。

草野信一を見たのと同じ顔で。

――くそっ!

桜井は信一のように怖がることはなかった。

怖がると負けだと知っていたし、なによりも愛する妹の仇なのだ。

憎しみや憎悪のほうが断然強い。

しかし一人減ったことは、残りの四人にとってもびらんにとっても大きかった。

びらんがその小さな右手を上げると、桜井が飛んだ。

ものすごい勢いで。

上に向かって。

そして外に向かって。

しかしその体が途中で止まった。

隣にいた大場が飛び上がって桜井の足首をつかんでいたのだ。

大学ではハンドボール部のエース。

その実力が全国でもトップクラスの大場の反射神経が、すざましい速さで移動する桜井を停めたのだ。

「おい、こいつは二人同時には飛ばせないみたいだぞ」

草野正司が叫ぶ。

確かに桜井の体はそのまま床に落ち、びらんの顔は悔しいというか無念の色を浮かべていた。

しかしびらんは気をとりなおしたかのように、今度は大場を見た。

信一を、そして桜井を見た時と同じ顔で。

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