窓際に近づくな!めっちゃジュース飲みたくされるぞ!

ちびまるフォイ

コルコ12の華麗なる狙撃

私は広告スナイパーのコルコ12。

広告スナイパーでは私を知らない人はいないだろう。


「よく来たね、コルコ12。実は君に頼みたい仕事がある」


一枚の写真が手渡された。

いかにも金持ちのようないいスーツを着ている男が写っている。


「この男の頭に広告を撃ち込んでほしい。お酒の広告だ。

 お酒の広告を撃ち込んで酒を飲ませたい。君にできるか」


「私はどんな仕事でも必ずやり遂げる」


「ターゲットは常に外の情報に騙されまいと、

 非常にガードが硬いそうだから気をつけてくれ」


私は愛用のライフルと広告を固めて作った弾丸を持ってビルの屋上へと向かった。

ライフルをセッティングするとスコープ越しにターゲットを捉えた。


「見えたぞ……」


指を引き金にかけて息を深くはく。心を沈めて指に力をこめたとき。



「ぐぅ!? なんだ!? 急に炭酸が飲みたいぞっ!?」



仕事に取り掛かる前には飲食を済ませてトイレもいかない状態に仕上げている。

万全のコンディションで急に炭酸が飲みたくなることなどありえない。


考えられるとすれば。


「私以外にも広告スナイパーがいるのか!?」


ターゲットは大金持ちなので目をつけたものや訪れた場所にはそれだけで価値がぐんと上がる。

それだけに取るべき選択を間違えないよう外からの情報は厳しくチェックされる。


広告スナイパー対策のため、広告スナイパーに見張りをさせることも考えられる。


「くそ!? どこだ!?」


高い建物が生える摩天楼に隠れたスナイパーを見つけるのは不可能にちかい。

そうこうしているうちにターゲットは狙撃ポイントから離れてしまう。


「し、しまった! 早く狙撃しなければ!」


ライフルを構えると、ふたたび私の頭にいくつもの広告が送り込まれる。

どれも同じ炭酸の広告でますます喉が乾いてくる。


「ええいじゃまだ! 脳からどいてくれ!」


集中力をそがれながらも引き金を引いた。

発射された広告弾はターゲットのもとへと向かい、あと一歩のところで外してしまった。


ターゲットは狙撃ポイントから離れてしまい、もう狙撃できなくなってしまった。


「依頼は失敗だ……私はターゲットにお酒の広告を撃ち込めなかった……」


途中に広告が入ってきて集中力がそがれたとはいえ、結果がすべてなのがこの仕事。

大きな仕事を取りこぼした悪名は広告スナイパーとして痛手になるだろう。


「この仕事もこれで終わりか……」


私はライフルを片付けてビルを降りた。

出口にはターゲットが待っていましたとばかりに待ち構えていた。


「僕のおかかえのスナイパーから話は聞いたよ。

 君は僕を狙撃しようとしたスナイパーなんだってね」


「そ、それは……!」


「なんの広告を撃ち込もうとしたのかはわからないが……おや、その手に持っているのはなんだ?」


「これは、炭酸です。ビルを出る前にどうしても飲みたくなってしまって」


水滴がついたペットボトルをみたターゲットはごくりとつばを飲み込んだ。

側近を呼びつけると今日の予定を確認させた。


「おい、今日の予定は全部キャンセルだ」


「キャンセルでございますか?」


「ああ、全部キャンセルだ。急に飲みたくなってきた! こんな気持ちで仕事ができるか!」


気分が乗ったターゲットは私にも声をかけた。


「君も飲みにいかないか」

「行きます!」


私はターゲットとはじめての飲み会を経験した。

狙撃の依頼主には居酒屋から連絡をいれた。


「もしもし、仕事完了です。ターゲットにお酒を飲ませることができました」


『さすがだコルコ12。こんなに難しい狙撃もクリアしたんだ』


「もちろんです。私はどんな相手でも狙いを外しませんから!」


コルコ12の電話口からは活気づいた居酒屋の喧騒が漏れ聞こえ続けていた。

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