第90話 やべぇ奴らは、国が変わっても変わらない
《side東堂歩》
銃。それは爆発を利用して鉛玉を飛ばす武器。引鉄を引けば、簡単に人を殺せる威力の弾丸が射出させる。
銃の強みというものは、意外なほどに多種多様だったりする。ある意味で人類の歴史の到達点とも言える強武器なので、強みが複数あるのは当然と言えば当然なのだけど、一番に挙げる強みが人によって違ったりする点は面白いと思う。
ある者は射程という。ある者は素人が容易く人を殺せるようになることという。ある者は殺傷行為に対する罪悪感の軽減効果だという。……まあ、訳知り顔で語ったところで、大抵は創作物からの受け売りだったりするのだけど。
それでも創作物として描かれ、識者と呼ばれる者たちが発生するぐらいには、分かりやすい強みが存在するのが銃という武器なのだろう。
「……ふむ」
……で、今回はそれを実際に使ってみたわけだけど。机上の空論を訳知り顔で語る識者たちと違って、実際に使って生物? を射殺してみたわけだけど。
「思いのほかつまらんのぅ」
──悲しいことに、予想よりも楽しくなかったというのが正直な感想。
「ギュア!」
「ほい」
タンッと一発。適当に放った弾丸はナマモノの脳天……? まあ、頭っぽい部分を見事に貫き、そのまま絶命し塵へと変わった。
これがちょっといただけない。流石に味気なさすぎる。テンションを上げるためにガンカタを披露しようと思ってたけど、それ以前の問題だった。
「よっと」
「ギュア!?」
「ギャッ!?」
タンッタンッと、引鉄を二回引く。それでまた二匹のナマモノが塵と化す。ただ照準を合わせるだけで死んでいく。
反撃としてナマモノたちが襲いかかってきたら、それを躱してズドン。弾速とナマモノのスピード、移動先を考慮して撃てばまず外れない。
結局、銃弾が外れるのは予測が足りないから。引鉄を引く瞬間に、着弾時に獲物が到達する点に銃口を向けていれば必中となる。
もちろん、これは理想論というか、机上の空論と一蹴される類いの話ではある。だが生憎と、俺にはそれができる。相手の動きを読むことも。ナノ単位で正確に銃口を合わせることも。発射の反動を完全にいなすことも。
「うむ。駄目だなこりゃ。作業だ」
──故に必中。なんだったら、目視で狙いをつける必要すらない。ただここだと思って点に銃口を置いて、ここだと思ったタイミングで引鉄を引くだけ。それだけでナマモノが消えていく。
「まあ、仕方なしかぁ」
自然と溜息が出る。燃えない。盛り上がらない。フィクションでよくあるトリックショット、跳弾やら、銃弾同士をぶつけての軌道変化とかも試してみたけど、これじゃない感が凄い。根本的に無駄な手間を増やしている気分だ。
だがまあ、よくよく考えてみればそれも当然かね。ナマモノは基本的に雑魚だ。絶対的な物理耐性があったから仕留めることはできていなかったが、それでもなおオモチャにできるぐらいには雑魚かった。
というか、物理耐性があったからこそギリでオモチャ扱いをされていたと言っていいわけで……。
そんな奴らを倒せるようになったところで、感慨など生まれるはずがなし。そんな至極当たり前の現実が待ってましたよ。無双ゲーの雑魚敵を倒したところで、誇らしさも達成感も得られるわけがないよねと。
「ギャッ!?」
「ギュアッ!?」
「ギッ!?」
一度気付いてしまったら、もう駄目だったわ。完全に作業ゲーのノリで、淡々とナマモノを処理していくことに。
不利を悟って逃亡を図ったナマモノたちもいたが、当然逃がすことはしない。全部撃ち殺した。射線から逃れることすらさせなかった。
そんなこんなでナマモノが全滅。最後に習った通りの手順で銃を仕舞えば、はいお終い。
「こんなもんかねー」
「おおー。なんというか、凄いですね」
「んにゃ、拍手されるほどでもねぇべ」
可愛らしくパチパチ手を鳴らしてくれているが、そんな大したことはしてないから。結局、やってることはいつもと変わらんし。なんなら普段の方が凄いことしてるし。
「いやいやいや。謙遜する必要がないぐらいには凄かったと思いますよ? 少なくとも、素人とは思えないスマートさでした」
「また珍しい評価がきたね。スマートとは」
「そりゃそうですよ。歩さん、基本的に常時ハイテンションですし」
「え、時音ちゃんの認識ってそんな感じなの?」
いや、雑談や戦闘中はうるさいのは自覚してるけど、常時ハイテンションって感じではねーよ? なにもない時はローテンションか、そうでなくてもフラットなトーンだったりするよ?
「なんていうか、歩さんって私たちの中じゃ完全に非常識のカテゴリーに入ってるので、いるだけで存在感があるんですよね。朝ドラの通行人Aがハリウッド俳優みたいな」
「存在がうるさいと言いたいのは理解した」
言いたいことはなくもないが、顔がうるさいとか言われるよりはマシだと思っておこう。存在と顔だと顔の方がダメージがデカく感じる不思議。
「なのでちょっと意外でした。毎度の如く、ド派手に決めるのとばかり思ってたので。スッスッスッて最小限の動きで射殺していくのは、仕事人みたいでカッコよかったです。大技連発する熱血系から、クール系に路線変えました?」
「変に系統で分類しようとするのやめよ? それ人によっては致命傷になったりするからね?」
この娘はホンマに……。口が悪いというか、口下手というか。ナチュラルに毒を混ぜるのが癖になってるのかしら?
厨二病に『キミは邪気眼系なんだね』って言うのは禁止カードだぞ。真性以外には致命傷だわ。舞台とかの演技中にキャラ名じゃなくて本名呼ぶレベルの暴挙だと思うの。
そういうカテゴライズで現実を突きつけるのは、ちょっとお兄さんとしてはどうかと思うなー?
「いつもと雰囲気違ったのはアレだよ。銃が予想以上につまんなかっただけ」
「あー……。歩さん、ナチュラルに銃より強いですしね。銃弾より早く移動できる時点で、もう完全に余興や趣味の領域ですし。で、百発百中の時点で極めてるようなものですし」
「これが人間相手だったら、相手のリアクションとかでまだテンション上がったんだけどねー」
意思疎通が取れれば、トリックショットとかで相手をおちょくったりもできたのだけど。ナマモノ、基本的にギュアギュアしか鳴かないし。表情もない、てか顔自体あるのか不明という。
「やっぱり言語や表情って大事よ。恐怖とかが伝わらないと盛り上がりに欠ける」
「台詞が完全に悪役なんですが大丈夫ですか?」
「逆に質問するけど、時音ちゃんって俺のことヒーローかなんかだと思ってる?」
「いえ別に。ただ悪役とも思っていませんが。どちらかと言えば、気分でヒーローサイドと敵サイドを反復横跳びしてる蝙蝠キャラかなと」
「キミ本当に俺のこと好きなのね」
「えへへ」
「褒めてんだけど褒めてないんだわ」
俺に対する解像度という意味では群を抜いてると思うし、実際そのものズバリを言い当てられてドキリとはしたけど。それと同時に『よくそんな信用できない男に惚れてるね』と。俺が言うのもなんだけど、時音ちゃんちょっと男の趣味悪すぎない?
「あと個人的にダメ出しすると、そこで『私にとってはヒーローです』ぐらい言えなきゃヒロイン力が低いと思う」
「現実でそんなこと言える人って頭に花咲いてません?」
「恋愛なんて脳の養分で花育てるぐらいじゃないと、多分だけど楽しくないと思うんだわ」
今のご時世的に、変に正気だと中々恋愛とかしてらんないと思うんだよね。現実が厳しすぎるし、恋愛よりも楽な娯楽がありすぎる。
脳ミソをスッカスカにして、ようやく恋愛を幸福に感じられんじゃねぇかなと。なお長続きするかどうかは運の模様。
「じゃあ、今思いついたヒロインらしい台詞でも。歩さんのカッコいいとこ見てみたい。私の頭をお花畑にするぐらい、ヒーローらしく守ってください」
「前半部分が飲み会コールなんだわ。やっぱりヒロイン力ゼロよキミ」
あとね、俺ってもうヒーロー扱いされても問題ないぐらいには、キミのこと戦闘とかで守ってるんだわ。それが仕事だからなんだけどさ。
そしてなによりツッコミを入れたいのがね……。
「そんで自覚ゼロみたいだから、正直な感想を言わせてもらうけどね。キミの脳内はすでにお花畑です。少なくとも正気ではねぇわな」
「えぇっ!? どこがですか!?」
「さて。そんじゃ掃討の再開しよっか」
「ちょっと先行かないで教えてくださいよ!? 私ってそんな残念な感じになってました!?」
──うん。恋は盲目って言葉が当てはまるぐらいには。だって普通に考えて、正確に蝙蝠キャラと判断するような男を、好きになる娘さんなんていないでしょう。冷めてない時点で、まあ冷静ではないよ。
分類上は多分魔法少女なヒロインたちを最強のやべぇ奴が振り回す物語 モノクロウサギ @monokurousasan
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